第10話

数発が100ミリの厚みをもつ前面装甲に着弾したが、ティーガーは耐える。

けれど、至近距離から上面装甲に着弾しては、耐えられるものではない。

ティーガーは、56口径8.8 cm弾の照準を合わせようとするが、動く四足歩行ロボットに合わせきれない。

百妃は、骨喰藤四郎を抜いた。

パウリ・エフェクトの呪を飛ばすには間合いが遠い。

けれど、少女は左手に念をこめる。

蠱毒により変化した左手は、金色の焔となり燃え上がっていた。

百妃は、骨喰藤四郎を上段にかまえ一気に振り下ろす。

剣が風を斬り、一瞬闇を裂いた。

ほんの僅かな間、四足歩行ロボットは動作をとめる。

その一瞬に合わせ、ティーガーの砲身が狙いを定め56口径8.8 cm弾が発射された。

轟音と爆風が、再び少女の顔をうつ。

夜の闇に真紅の花が咲くように、四足歩行ロボットは爆炎に包まれた。

夜に花が舞い散るように、火花が黒煙とともに吹き上がる。

灰と爆風が、少女を掠め通りすぎていった。

百妃は、砲塔のハッチからティーガーの中へと飛び込む。

それと同時に、ティーガーの上面装甲へ被弾する音が響く。

アンチマテリアルライフルで、狙撃されていた。

いくら上面装甲が薄いとはいえ、20ミリのアンチマテリアルライフルにはもちこたえている。

しかし、いずれ対戦車ミサイルが飛んでくるだろう。

「ティーガー、前進しながら煙幕だ」

ティーガーは、発煙筒から微細な金属片が混ざったエアロゾル煙幕を展開した。

レーダーや赤外線センサーを無効化するアクティブ防護システムである。

ティーガーは、その姿を黒煙の中に包む。


マキーナ・トロープたちが対戦車ミサイルランチャーを手に現場へかけつけた時には、ティーガーの姿は消えていた。

ティーガーは、出現した時と同様にセンサーや監視システムの目から逃れ消失してしまっていた。

それは、遠い過去から現れた戦場の亡霊が、破壊を撒き散らし駆け抜けていったかのようである。

虎が、まだ鉄と炎が戦場を支配していた時代から一瞬だけ蘇り、また記憶のそこへと沈んでいった。

マキーナ・トロープがひとと同じ感情をもつのなら、そう思ったに違いない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る