先生と刑事

「よう、久しぶり。悪いな急に誘って。昌幸。」


人の好いおじさんという感じの、どこといって特徴のない、中年男が、隣いる自分よりは若いであろう男に話しかけた。


「そんなことはないですよ。僕も久しぶりに

おじさんと飲みたくて、連絡しようかなと思ってたところなんで」


見た目、優しそう、というより弱々しい感じの、何処にいても目立たない、…冴えなさそうな男が、少し怪訝そうに話しかけた。


「で、何の用でしょうか?川上おじさん…」


川上と呼ばれたおじさんは、自分が相手に警戒されてると気づいたらしく、


「ああ、まあアレだ……。」

しらじらしく話しを始めた。


「昌幸、…お前ももう25歳だよな。」

「…はいそうだけど。実際にはまだ24歳だけど」


「……で、あれだ。もういい歳なんだから彼女の1人や2人でも作ってみたらどうだ」


ーーやっぱりその話しか、おじさんが飲みに誘ってくる時はいつもこの話だ。


見合い話しだ。職業柄なのかは知らないがおじさんはなぜか俺に見合い相手の写真を持ってくる。


ーー24歳で学校の先生、顏はイケメンでもなければ、ブサイクでもない。そして、なにより優しそうに見えるらしい。まぁ実際に優しいのだが…気が弱いとも言えるけど、、

冴えない、ごく平凡な人間なんだが俺は。

で、こんな俺の所に結婚を前提に付き合いたい。そんな女性の紹介が半年で5、6件転がってくるところを見ると、俺はそこそこのお買い得物件なんだろかなと思う。

…でもなぁ、なんでおじさんの職業ってあんなに女性との接点があるのかな?なさそうな気がするんだが。


「昌幸、お前別に今まで女と付き合ったことがなかった訳じゃないよなぁ」


「は……はい……」


「だったら別に断る理由なんてないだろう?女性がどうしても苦手、という事でもなさそうだからな」


ーー確かに、俺は女性との付き合いがなかった訳でもない。

それどころか、女性から声をかけられる事の方が多かった。何故か?わからないが、…なので高校や大学の時に女性と世間話したり、遊びに行く事もかなりあった。

俺がおじさんの顏色を伺いながら覗く。


「あ、もしかしてお前、あれか…」

するとおじさんは残念な顏して話しかけた。


「女より男の方が好きとか?か、、」


「………違います。」


「じゃあ、男の大事なものに自信がないとかか、」


「それも違います!ただ単に面倒くさいだけなんです。女性と付き合うのが。」


ーーそれと、もう一つ大きな理由があるのだが…それはおじさんには言わないでおく。


「大体、なんで俺が男好きなんですか、あっちの世界には興味ないし。…それに、自信がないってどういう事ですか。言っとくけど、

今まで付き合った彼女達からは、SEXに関しての不満はありませんでした。」


ーーあ、やば。酒の酔いのせいか声が少し大きすぎた。


恥ずかしくてつい周りを見回したが誰かに聞かれた様子はなさそうだ。…ホッとした。ただ、隣にいるおじさんはそんな話しに興味無いのか、聞いてないのかまた喋りだす。


「まだ、若いのに。使わないなんてもったいない。俺の若い頃なんてな、女の10や20人なんてあたり前だったぞ」

「……おじさん、それは盛り過ぎだから」


「なに言ってる、昔の俺はなぁ、色々なところで女をグ、

「あー、分かったから。後から相手の写真だけみてあげるから。もうその話しは終了。」

俺は、なかば無理やりに話しを切った。このままいけば、おっさんの下ネタ話しで会話が

終わってしまいかねない。

俺は、おじさんに聞きたかった事を話す事にした。


「ーーー川上おじさんってさ、半年前に起きた、女子高生…」


昌幸は、そこまで言って自分の背中に冷たいオーラが覆ってきた…。


「あ、ごめん。おじさんえっと。なんだって

そう、そう、だから半年前に起きた、美少女女子高生殺人事件の担当刑事でしたよねー」

昌幸は、川上の顏が険しくなるのを見て口をつぐんだ。ヤバい、勘違いしてそう。


「そうだが、その事件がどうした。何か気になる事でもあるのか?」


ーー良かった勘違いはしてなさそうだ。


「自首するなら、今のうちだぞ。」


「うん、……え、」

やっぱ、勘違いしてる。……このおっさん。


「殺人だからな、死刑か無期懲役かもしれんが、なぁに俺が少しは弁護してやる。だから喋っちまえ。楽になるぞ。」


「いや、あのね、川上おじさん、だから、」


「わかるぞ、その気持ちは。痛いほど」

……おっさん、その気持ちがわかるって何が?

「高校教師なんかやっちまったばかりに、女子高生に、性的欲求が抑えられずに、つい。

俺も、男だからなその気持ちは痛いほどわかる。」

……全然分かってないから、おっさん。


「だからって、バレたから殺した。それはいかんぞ。殺しは犯罪だ、」


ーーどうしようか、このままだと完全に殺人犯にされかねない。おっさんもかなり酔ってるからどこまでが本気なのかわからない。

……ちょっと嫌な汗がでてきた。


川上のおっさんはしつこく詰め寄ってきた。


「吐いちまえ、自分がやった罪を認めるんだ。」


ーーおっさん、……言葉がベタすぎるんだが

それじゃ、犯人だとしても吐くきになれないなぁ、真面目に。

でも、本当にやってないんですけど…。


どうしたものかと悩んでいると、おっさんは携帯を取り出しどこかに電話しようとしている。


ーーまさか、自分の職場に電話しようとしてるのでは……マジでやばい。


「キャ、」


ふいに、後ろから可愛い叫び声が聞こえた。

すると今度は川上のおっさんから可愛くない声が、


「ぐふ、冷てぇー」

……おっさんの頭に大量の水がそそがれてた。


「すいません、すいません。」

バイトらしき女の子がしきりに平謝りしてくる。


「いいよ、いいよ。別にこれくらい、大丈夫」

おじさんが、頭を下げるバイトの女の子に

大丈夫だと促し、バイトの女の子が片付け

終わるのを待ってから俺に向かって話しかけた。


「悪いなぁ、さっきは悪酔いしすぎた、殺人事件の事なもんであまり詳しくは他人に教える事はできんが、教えられる範囲でおしえてやる。」

俺は内心ビクビクしていたが、正気に戻ったおじさんを見て安心した。


「じゃあ、お願いします。」


「分かった。ただちょっと待て、トイレに行ってくる。」

おじさんは立ち上がりその場を離れた。


一人になった場所で昌幸は口を開いた。


「……彩花。あまり目立つような事はしないでくれよ。さっきの彩花だよね。」


『私は何もしてないよ、……だって、あのオジサン…先生の事、捕まえようとしてたから』


「ありがとな、心配してくれて。でも、これからは気をつけるんだよ。」


『ありがと先生、…ゆっくん。』


「こら、人の名前をまた変なあだ名で呼んで」


昌幸は、自分の席と壁の間にある空間に笑みを浮かべた。


ーーこれ、他人に見られたらきっと怪しい人だな多分……と、思いながら。




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