第31話

 SSR子、明智光秀、N子の3人は命からがら、という様子で家に戻った。

 息を切らせた3人を出迎えたのは、SR子である。


「お帰り……と言いたいとこだが。今度は何したんだN子。その子を攫ってでも来たのか?」

「ち、ちげえよ! 一大事だ!」

「一大事?」


 SR子はとりあえず水を3人前持って来つつ聞き返す。


「織田信長が……群れで襲い掛かって来たんだ!」

「…………?」


 SR子の手が止まった。


「アホか! そんなことあるか! 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ、N子!」

「本当よ! 織田信長が雨のように降って来たの!」

「雨のように英雄が降って来るか! あんましめちゃくちゃなこと言ってると一生お前らの言うこと信用しないぞ!」

「アタシだってわけわかんねえよ! 空を見たら天下人で埋め尽くされてたんだから! でも事実だぜ!」

「ぬ、ぬう」


 N子の訴えに、SR子はちらと明智光秀を見た。

 N子は破壊神だが、嘘をつくなどの小賢しいことは決してしない奴だと、一緒に暮らしているからこそ分かる。それに、この謎の少女も怯えていて、何か恐ろしいものに遭遇したということを察することが出来る。

 SR子の中のモードが切り替わる。今は、この妹分を信じるべきだと。


「N子。落ち着け。とにかく、要領よく話してくれないか。私にもよく分からないからな」

「お、ありがと! 信じてくれるか!」

「N子はな」

「マジ!? 私は!?」

「SSR子は信用ならない」

「なんて酷い子かしら!」

「SSR姉貴は光秀を頼むぜ。ショックがデカいだろうし、包容力を見せてくれよ」

「え、マジで?」

「あんなにドヤってたじゃねえか! 何で嫌そうなんだよ!」

「あ、そうだ、R子! あの経産婦に預けましょう!」

「やめろ! 一番ヤベーよあのサイコ姫に預けるのは! 包丁力しかねえ!」

「じゃあ兄さま?」

「……なんか心配だ」

「光秀はどう? 虐殺人間サイコ・メゴヒメと、浮遊する球体イケボ兄さまと私。誰がいい?」

「え、SSR子さん」

「まあ! 私を選ぶなんて!」

「そんなトラップ封印してきそうなのとそもそも人間ですらない人を並べたらそらそうな――」

『『『『是非も無し!!』』』


 それは唐突に外から。

 是非も無し。織田信長と言えばコレ、という言葉が大音量で響いてきたのである。


「な……何だ!?」

「織田信長だ! クソ、もうこっちに来やがったのか!」

「流石桶狭間でやっただけあって電撃戦には強いわね!」


 窓の外を見ると、向こうからぞろぞろと織田信長軍団がやってきた。実に個性豊かで、男女比が1対1であることに突っ込んでいる暇など無い。色とりどりの服装に、それぞれ際立った顔だち。そして共通するのは、その行動への躊躇いの無さ。

 雪崩のような織田信長は、どこへともなく拡散し、収束し、ただ叫びまわる。


「是非も無し!」

「是非も無し!」

「是非も無し!」

「是非も無し!」


 どちらを向いても信長がいる。住民はその異様過ぎる光景に恐怖し、もはや外にも出れないのだろう。外で動いているのは最早信長だけであり、時には暗黒のオーラを放出しながら、時にはビームを発射しながら、三段撃ちをしながら、ボックス村を跋扈している。


「クソ、何なんだあの数は! マジで全部、アレが織田信長だってのかよ!?」

「今、タブレットで調べたが……このボックス村の人口は今、信長8割他2割だ! 凄い人数だ、軽く100は超えてる!」


 ガンガンガンガン! 乱暴にドアを叩く音が響き渡る。


「天下布武! 天下布武―――!」

「ヒイーー! て、天下人が外にいるわー!」

「アイツラもいきなり召喚されて行き場所がねえんだきっと! それで彷徨ってんだ!」

「このままじゃ手当たり次第に安土城にしてしまうぞ! そして何より……! 光秀が危ない!」


 光秀を振り返る。

 そう。相手はあの織田信長。明智光秀を見つけようものなら、即座に是非もなく、慈悲も無い処刑が待っていることは明白だ。

 しかも相手は、戦国時代最強ランクの英傑。日本人のイメージからの、勝手で様々な魔改造を施されている怪物集団。追い返すことも容易ではない。


「おおい! ワシじゃ!」

「!?」

「何!? 裏口!?」


 裏口の方から声がする。それは、聞き覚えのある声――


「村長だ!」

「村長が裏口に!」

「早くここを開けてくれ! は、話があるのじゃ!」


 聞くが早く、N子とSR子が裏口に向かった。

 裏口を開けると、村長の顔――そして、後ろから走り寄って来る三人の織田信長が見える。女性型1・男性型2の混成で、男性型の一方は身長が2メートルを超す大男である。


『「是非も無しーーーー!」』

「早く入れーー! 焼き討ちにされる!」

「すまん!」

「桶狭間――!」


 織田信長の女性型がジャンプした。そして――その落下速度は万有引力を無視した速度であり、落下してくる。そう。ちょうど、桶狭間の戦いにて今川義元を奇襲したような、超スピードである。

 だが、SR子が銃を構えるのが僅かに早かった。


「火縄銃で……! ライフルに勝てると思うな!」


 ライフルが火を噴いた。

 至近距離。回避のしようなどない距離から放たれた銃弾は、織田信長に向かい――


「長篠!」


 銃弾の軌跡がねじ曲がった。


「何ィーー!?」


 空を貫いていくライフル弾。


「重力無視に、銃器の制圧能力……!」

「どんな拡大解釈されてんだ信長!」

「桶狭間!」


 閉まる直前。重力を無視した信長は、その体を家の中にねじ込んできた。


「突破された!」

「しまった! 信長が家に!」


 家に侵入した女性型織田信長。

 N子とSR子の隣に立つ第六天魔王はその顔を舐めるように見回した後、N子とSR子の首をふん掴む。


「が!」

「ぐう!」

「ここは今日より、我が領地とする! 是非も無し!」

「な、なんて、力だ……! 畜生!」

「家を乗っ取られて……たまるか!」

「二人ともーー!」


 と。SSR子の声。

 見ると、何かの筒を構えて走り寄って来る。


「SSR子! 駄目だ! 銃は効かない!」

「喰らいなさい!」


 そして放つ――光弾。急速接近する光を前に、信長は叫ぶ。


「長篠!」


 だが。

 光弾は掛け声を無視し、信長に一直線に進む、

 織田信長の顔に冷や汗が垂れた。


「ええ。そうよ。これは銃弾『じゃない』。貴方が銃弾で終わらせた旧兵器」


 光弾の形は。

 超小型の「槍」の形をしていた。


「それもただの槍じゃない。オーディンが誇る神槍・グングニール!」


 織田信長に直撃した。


「……!」


 そこから魔力が流れ込む。織田信長の意識は一瞬でシャットダウンし、崩れ落ちた。

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