第24話

「私のターン! ドロー! エナジーゾーンに、『褐色肌』をセット!」

「誰の属性!?」

「ゴリアテ!」

「え!? ゴリアテ美白じゃない!」

「いや、黄色だよ?」

「蒼だろ!?」

「マジで何なのゴリアテ!? あいつもうゴリアテじゃねーだろ、ヌエかニャルラトホテプだろ!」

「ゴリアテはゴリアテだ! そして……! エナジーを3つ支払い! 現れろ! 属性カード・『巨乳』だ!」


 ボイーーン! バイ―――ン!

 こんな音を立てて、セクシーポーズをとるアザトースの影が出現した。その姿に、一斉にギャラリーの一部から舌打ちが起こる。


「出たわね、『巨乳』属性! 流石の迫力だわ!」

「戦闘力は、2500! 種族は『メジャー』『セクシー』を持つ!スキルは無いが、圧倒的な支持が感じられるな! 私はターンエンド!」

「2500……さすがにシンプルなだけに強力な属性だな、巨乳!」

「兄ちゃん! アタシたちには巨乳はねえのか!?」

「SSR子で生成されているかどうか……だな。だがアザトースは、おっぱい神でもある! アレに『美乳』が組み合わさった、『神乳』属性が誕生してしまったら手がつけられないぞ!」

「でも、その分」


 SSR子は覚醒の宝玉(R以下)の焦りとは裏腹に、落ち着いてカードドロー・エナジーセットを行う。


「便利で協力である分、メタカードも潤沢なのが巨乳属性よ! 巨乳は確かに殿方には支持される……しかし! 社会は厳しい目を向けるのよ! 喰らいなさい! コスト4イベントカード・『PTAの魔眼』!」


 SSR子が手札から発動したイベントカード。それは一瞬『闇』が弾けたと思うと、アザトースの影の周りを多数の眼が囲む。

 『子供の教育上……』『健全な性知識……』『歪んだ認知が……』『性的バイアスが……』『子供に見せたくない……』こんな声が延々と響き渡る。


「これはセクシー種族・水着種族カードを1枚選択し、その戦闘力を3ターンの間、半減する! そして私達は3ターンの間、セクシー種族・水着種族カードを場に出すことが出来ない! 更に更に更にこの効果の影響下に場に同種族がいるプレイヤーは毎ターン、エナジーを1支払わなければならない!」

「おお、強力だな!」

「PTAへのイメージの偏りはともかく、凄い効果だな! これで神乳の降臨も防げるわけだ!」

「これで貴女の『巨乳』は1250! さあ、行きなさい! ヤンママアタック!」

「ふっ……ならば、あえて受けよう!」

「!」

『いただきますって言えやオルアー! 左手出して食え! スマホいじんなーー!』


 苛烈なマナー教育を施しながら、N子は玉藻前に攻撃をした。ライフは残り5になる。


「3ターンも効果が継続するのに、ライフで受けてまで残している……っていうことは、やっぱりあるのね。何か恐ろしい力を秘めたカードが」

「だが、巨乳に組み合わせるカードでセクシーでも水着でもないカード……それは何だ!? 乳関係は、ほぼセクシーがつくイメージだが!」

「私のターン! ドロー! エナジーセット! そして、エナジーを一つ支払い、PTAの魔眼のコストとする!」


 玉藻前の使用できるエナジーは3。


「そして……! エナジーを1支払い、イベントカード発動! 『円盤購入』! これは自分のライフ2支払うことで、エナジーを5点生成するカードだ!」

「何!? ライフを3も!?」

「だがこれで使えるエナジーは……! 7!」

「そんなエナジーで一体何を!」

「ふふふふふふふ……!」


 玉藻前の尻尾がざわめく。雲が渦を巻き、天を覆った。

 狐としての彼女を示すような牙を煌かせるのは、光ではない。その悍ましく輝く眼光。


「SSR子。覚悟しろ。これから貴様に見せるのは、貴様が……! そして、私達も決して到達しえない、究極にして神域の『萌え属性』だ」

「何……!?」

「クロノスの吐息には抗えん! 老いと破滅の運命から逃れられぬが故に、若きの輝きに嫉妬し、すがるものだ! 今ある美を磨くことは出来る……! しかし! 喪った時は2度と戻ることは無い!」

「何だ!? 何のことを言っている!」

「イベントカード! 『オタクの妄想召還』を発動!」

「オタクの妄想召還!?」


 掲げたカードから出た光は、玉藻前の後ろに回り、背後霊のように立った。リュック、チェックの服、眼鏡、デブ、ポスターサーベルの典型的なオタク像であり、ぶつぶつと何かを呟いている。


「このカードは、1ターンのみ! 『幻想召還』を可能にする! 普通ならばあり得ない組み合わせを行うことが出来るのだ!」

「普通なら!?」

「その通りだ……!」


 覚醒の宝玉(R以下)が恐れをなした様子で言う。


「俺達紳士は、常日頃性欲を、己のフェティシズムを持て余している。その末に、普通ならば出現しえない者まで妄想してしまう。それはロリババア、感情あるロボット娘、あり得ないほどの超乳など……! そういった組み合わせは、このゲームでは「普通なら」出来ん! しかし! 今はオタクの妄想の空間に、俺達はいるも同然なのだ!」

「嫌だなそれ! すっげえ嫌な状況じゃねーか!」

「そしてそれは……!」

「実現しえない属性を、誕生せしめる!」


 1枚のカードを、再び掲げる玉藻前。

 それは――


「業深き、背徳と性癖の賜物よ! 妄想に弄ばれし汝がその身、今ここに顕現せしめん!」


 玉藻前がカードを重ねる。

 するとアザトースの体がみるみる縮み――しかし。

 その『胸』だけはその存在を大きく主張していた。


「コスト4・『ロリ』を重ね合わせた、絶対の神! それこそがこの幻想種族・『ロリ巨乳』だ!」

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