第13話
「ほら、立てますか? まったく、クトゥルフ神話の面汚しになってしまいますよ」
「うう……イ、イラストもなんかちょっと地味でごめんなサイ……ドレッドヘアー女子なんて、イマドキ絵柄では絶対流行らない髪型をしてしまってごめんなサイ……」
「元ネタ準拠なだけでしょう」
そしてダゴンは、牢があると思しき方角へと去っていく。残されたSR子は、下唇を噛み締めた。
いかに地味とはいえ、あそこまで神格の心をへし折るとは――それを何のためらいもなく実行する辺り、本物の精神性を相手は持っている。
それに加えて、上位レア絶対殺すウーマンのN子までも焼き落とすだけの雷撃持ちと、リアルファイトも強い強敵。
「このまま……奪われてしまうのか? この村は」
「んー、そうですわね。やっぱり兄さまのカイザー・ポインツは、軽く30以上はあると思いますわ!」
「なー! ゼウスなんか目じゃねーよ! 兄ちゃんイケメンボールだし、アタシたちのカイザーだ!」
「ハハハ、嬉しいなあ!」
「アンタらまだそのわっけ分かんないポインツの話してたのかよ! どうでもいいだろ、兄さんのポインツなんか!」
「何を言うのSR子、兄さまに向かって!」
「よく言えたな、兄さんをわいせつ物呼ばわりして粉砕した暴虐女が!」
「まーま、SR姉貴、落ち着きな。ちゃんと見てたぜ、アイツの所業。うん、ありゃひでえな」
「ああ、N子……お前は意外にちゃんと危機感持ってくれるからたまに癒しになるよ」
「流しそうめんなんか弁当にしてたら夏バテしちゃうぜ!」
「そっちじゃないだろアホか! 何でガタノソアの弁当に文句つける!」
「落ち着いて、SSR子。とにかく今は様子見しましょう。ゼウスの弱点を探るのよ!」
「すっげえ意外なとこからまともな意見が出た! アホなのに!」
「アホとは何よ!」
こうして、彼女たちのゼウスの尾行が始まった。
一時間が経った。しかしゼウスはどっしりと構えたまま、特に動く様子を見せない。
周りの兵士も大分ダレてきたらしく、各々が足をブラブラさせたり手遊びをしたり私語をしたりとやりたい放題し始めている。しかしゼウスだけが動かずにいる。
「……動かないなアイツ。やることないのか?」
「馬鹿かSR姉貴! カイザーはアレが仕事なんだよ! アレが帝王の姿なんだよ!」
「そうよSR子! お尻が痛くなっても腰を痛めても、いついかなる時も謀叛人のために尊大に待ち受ける! まさにカイザー!」
「カイザー・ポインツ! 2!」
「あっそ」
「SR姉貴!? ついにやさぐれちまった!」
「体力使うんだよアンタらへのツッコミも」
そうこうしているうちに、ゼウスは遂にその重い腰を上げた。マントを羽織り、兵士を伴って歩き始める。
「あ、ゼウスが動くわ。行くわよ!」
「どこに行くんだろうな……」
ゼウスが向かった先にあったのは、棒が数本放射状に生えた円盤を横たえたものを、数人がかりで意味も無く回し続ける人達だった。その労働の結果はうかがい知ることは出来ないが、ただの円盤であるためそれほど重そうには見えない。
しかし数人のゼウスに屈した者が延々と「働け! 働け!」「死ぬまで働けーー!」と手近にあった木の根や縄跳びなどで叩き続けているために、地味に辛そうではある。
「出た! 強制労働の象徴だ! 帝王だ!」
「何てこと! 帝王よ!」
「カイザー・ポインツ……4!」
「アレ何? 回して何の意味があるの?」
「とにかくアレは強制労働の象徴なんだよ! アレ回してりゃとりあえず強制労働になるんだよ!」
「労働なんだあれ……」
ゼウスが次に向かった先にあったのは、村を一望出来る位置に急ごしらえで作られた階段、及びその先にある巨大なテーブルを設えた食堂だった。テーブルの上にはSSR強化素材を惜しみなく使って作られた、垂涎ものの料理が並び、脇には水差しや燭台、食器を持った哀れな犠牲者たちがずらりと列を作っている。
「あ、あんなに、一人で喰いやがるのか!?」
「それにあの並べ方……まさか彼女!」
いただきます、も言わずに、食事を始めるゼウス。
それを見守る周りの列。
やがてゼウスはカラン、と音を立ててナイフを放り、ナプキンを使って口を拭いた。
「今日のは口に合わぬ!」
ゴキン!
テーブルを蹴飛ばそうとしたが大きすぎ、指先を強打する音が響き渡った。
「出た! 帝王だ! 帝王の所業だ!」
「彼女にもう少し力があったらアレ全部ひっくり返されてたわ! なんて恐ろしい暴君っぷり!」
「アンタらの帝王とか暴君の基準って何? アレただのクレーマーだろ?」
「まさかアレをやる人間が実在したなんて……! 一撃でカイザー・ポインツ10を取れる究極の業だぜあいつァ!」
「もうおしまいよー!」
「暴君って言うわりにはなんかいちいちソフトな気はするけどな」
N子とSSR子は膝を折って地面に伏した。圧倒的な帝王力。持って生まれた暴君の資質を遺憾なく発揮するゼウスの姿はそうさせるに相応しい力があった。LRを売却するなんてまずあり得ない。
自分達はもうおしまいなのか?
この村は完全にゼウスに支配されてしまうのか?
悲観と絶望が入り混じり、体に力が入らない。世界はもう終わってしまうんだ――
その時だった。
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