第二話・レジェンドレア、襲来
第8話
ここはボックス村。
その一軒家で、爆発音が響き渡った。
「……!」
女4人と宝玉一つが生活するには十分な広さを持つリビングの真ん中で、N子が黒焦げになっていた。ソファーの中心はえぐり取られて煙を噴き、それが爆心地であることを物語る。
この家の今日この日、仕留められたのはN子だけではない。
N子の後ろには黒焦げのSSR子、黒焦げのSR子、割れた覚醒の宝玉(R以下)の破片が散らばり、死屍累々の様相を呈していた。
そんな地獄絵図の中に、ぼんやりとした声が届く。
「ふああ~~……。みんな、おはよ……言い忘れてたんだけど……うわっ」
水着しか服を持たないR子が階段から降りてくると、R子はその様に少しだけ動揺する。
「……」
そして部屋に戻ろうと引き返そうとしたが、
「待てやコラー――――!」
「R子オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 何のつもりだこれはーーーーー!」
「テロ!? 叛逆!? やるならやってやるわコルアアアアアーーーー!」
「俺を組み立ててくれーー!」
3人と一個が同時に声を上げ、R子に襲撃を仕掛ける。右からN子、SR子、SSR子の順番だ。
しかしR子はその場から動かず、頬に手を当てながら告げる。
「気を付けて―。全員危ないよ」
「え!?」
カチッ、カチッ、カチッ。
ドカアアアアアアアアアアアアアン!
「『グワーーーーーーーーー!』」
「だから言ったのに、危ないって」
「危ないのは部屋に無断で爆弾しかけまくるお前だバカヤロ――――!」
「これは一体何のつもりだ!? そもそもお前がどうやって爆薬なんか用意した!」
「……あ、ヴァルハラが見える……」
「っで、何でSSRのテメーだけ死にかけてんの!? 戻ってこい! 蘇生術!」
「おぶち!」
「ただ弁慶の泣き所殴った! 医学的根拠を述べよ!」
「にっげろー、にっげろー」
R子は逆転の発想で一階に降り、馬鹿をやっているバカ達の横を走り抜ける。的確にトラップをかわし、あと一歩で玄関口と思われた、その時。
ぐっさりと宝玉の破片が、R子の足裏に刺さった。
「アダーーーーー! お、お兄ちゃんが刺さったーーーーー! ホゲーーーーー!」
「すげえ醜い地声だなオイ!」
「凄いパワーワードねお兄ちゃんが刺さるって」
かくして、足裏を怪我して動けなくなったR子は、あえなく3人の手で御用になった。
「え? 売却対策?」
「うん、そうだよ……ひゃんッ! N子、染みるからそんなにつけないで!」
「ひゃんって何だよ、アダーーーってめっちゃ叫んでただろブリッコが」
R子の足裏に消毒液を当てて手当てしつつ、覚醒の宝玉(R以下)を組み立てるという器用なことをするN子は、心底呆れたような息をついた。とりあえず修復したソファにはSSR子とSR子が腰かけ、手当を受けるR子の話を聴取している。
「どういうことだ、R子。何でこんなテロ紛いの行為が売却対策につながる?」
「いやー、だってえ。売却って、あの黒服集団がやってきて連れてかれるでしょ?」
黒服集団。通称執行人と言われる、この世界の暗部である。売却命令・強化素材化命令が下れば即座に動き、確実に対象を確保する。ただしトイレ・お風呂の場合は終わるまで待ってくれるという紳士な一面も併せ持つとのうわさだ。
「だから、とりあえず色々罠を仕掛けてー。諦めさせれば、何とかなるかなって」
「諦めるどころか殺す気だろ! というかまず、言えよ! 何で無断でここを地雷原にしてもいいって思っちゃったの!」
「んー、めんどくさかったし、明日の朝でいいかなーって思ったら、寝坊しちゃった」
「こ、こいつ、マジでサイコのにおいするぜ姉貴たち……」
「恐ろしい女……さすが人妻」
「女って怖いわねー……」
「怖いよ♪」
にっこりと天使のような悪魔の微笑みを浮かべる。
「でも効果あるのかしらね。あの黒服たちって絶対に倒せないって評判よ?」
「そうなの? でも一応人間でしょ?」
「その噂は聞いたことあるぞ。何でも……
・一出動で5人同時連行は当たり前。10人同時に売却村送りにしたことも。
・黒服に正中線全部位攻撃を仕掛けたら「MISS」と表示された。
・SSRが20人一斉攻撃しても仕事を遂行していることは日常茶飯事。
・売却しても納得いかなければ自腹で引き直して更に売却する。
・一回の連行で売却対象が3人に見える。
・一分で30人連行なんてザラ。40人連行することも。
・自分で自分を連行してプレイヤー世界まで飛び出すというファンサービス
・縛り付けておけば大丈夫だと黒服100人拘束したら10000人に増えて現れた。
その他諸々あるらしいぞ」
「それもうラスボスじゃねえの? ただのゲームシステムが何でそんな強いの?」
「イキってても資本家が強いというわけね……恐ろしいわ!」
「ホントにな」
「でも、所詮伝説でしょそんなの。私特製の地雷たちが私を守ってくれるに違いないよ」
そう言って、足に包帯を巻いてもらったR子は勢いよく立ち上がると、玄関を力強く指さした。
「しかもあの玄関には地雷より強力なロケットランチャー発射装置まで付いてるし、もしも誰かが来ても大丈夫!」
「やめてR子、何でいちいち無差別破壊を引き起こすの!? 私今日、ファマゾンからたままっち届くのに!」
ファマゾン。それは、このボックス内のキャラクターにとっての生命線の一つである。月に一度配給される通貨代わりのポイントを消費し、データ化された外の世界の娯楽を購入することが出来、それは家まで配達されるシステムになっている。商品はゲームや雑誌から、強化素材を加工した食品など様々である。
「何で注文してるんだ、SSR子!? 玉藻前と話してて余程悔しかったんだな!」
「それならアタシもデジゴン届くのに!」
「お前らファマゾン大好きか!」
「じゃあSR子は?」
「え? ……ヨーカイズー届く」
「渋――――!」
「誰が分かるのよヨーカイズー!」
「あ、私は3DM届くなあ」
「何でR子だけ現代派!?」
「俺はゲーム&ロッジ」
「古すぎてむしろ新しい! 流石だ兄ちゃん!」
「っていうか何でこぞって携帯ゲーム機買ってるんだ! ファマゾンの人が死ぬぞ!」
「労災になるんじゃないかなあ?」
「よく言えたなサイコ姫!」
「状況を考えなさい! サブちゃんが海産物一家に爆殺されたら誰が悪いと思うの、R子!」
「サブちゃんの運」
「まあ確かにそうだけど!」
「それより解除だ解除、早く! 私は午前指定にしてるから来る可能性高い! みんなは!?」
「午前」
「午前」
「午前」
「午前」
「予想通りでありがとう!」
SR子が滂沱の涙を流した時、外から不吉な音が流れ出した。ブーー、ブーー、とゴムの塊を金属に押し付けて鳴らしているような不快なその音を、全員が知っている。
瞬間、全員の肌が粟立った。
「この音……!」
「レアガチャ警報だ!」
レアガチャ。それはプレイヤーにとっては夢と期待に満ちた行為である。しかし、このボックス村のキャラ達にとっては、平穏をかき乱すものそのものである。
何故ならこのゲームには、今このボックスに居る者以外の強者がわんざかひしめいている。もしも強力なカードが引かれてしまったら、そのカードはボックスに留まり続ける。
それはつまり、椅子が減るということ。
それが自らの上位互換であれば、なおのことだ。見切られてしまい、次なる者を迎え入れるために売却・強化の憂き目に遭ってしまう可能性が発生してしまう。
だからこそ、このボックス内のキャラ達は願うのだ。
来るな。
来てもSRまでだ。
この平穏を乱すな、と。
「どうする、様子を見に行くか?」
「あったりめーだろ! 心配でたまんねえからな!」
「そうだね。じゃあ行こっか。私もこないだみたいなことあったし、気になる」
そう言ってR子は玄関に足早に向かった。
「あ! R子! 玄関って!」
「え?」
気が付いた時には既に遅し。
ロケットランチャーの弾頭が、R子の頭に直撃していた。
『ズガーーーーーーーン!』
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
「R子オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「自滅したーーーーーーーー!」
「衝撃波で兄さんが割れたーーーーーーー!」
平等な爆撃を受け、この家の一日が騒がしく始まる。
だがこの時は、まだ彼女たちは知らない。
このたった一回のガチャが引き当てる怪物がその正体を――
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