私の願いは
「私ね、ユウを学校に通わせてあげたかったんだ」
それが私の戦う理由、社長さんに叶えてもらう予定の願い。
「ユウは訳あって戸籍が無いの。そのせいで学校に通えない」
戸籍が無いせいで、満足な職にもつけない。そのせいでユウは公園でホームレスとなっているのだ。
私は自分の家に住まわせてあげたいと思っているけど、両親に猛反対された。当然といえば当然だ。犬や猫ならともかく、素性の分からない者を住まわせるなんて、どんなお人よしでもやらないだろう。
「そんなユウに、私は毎日話したの、学校のことを。今日どんな授業があったとか、友達とどんな会話をしたとか、いろいろ話したの」
休憩中に見た、クラスメイトの能力バトルの状況なども話した。たまに一緒に宿題をやったりもした。
「ユウは楽しそうに、私の話を聞いてくれた。本当に楽しそうに……。でもたまに哀しそうな顔もした」
ユウが哀しそうにしていたのは、多分学校に通う私が羨ましかったのだと思う。
「だから私はNEXに出た。優勝して、ユウを学校に通わせてあげるために……」
私はそう皆に伝えた。
でも、その願いは叶うことはなくなった。肝心のユウがいなくなってしまったからだ。
ユウの顔を思い出して、私はまた涙を流してしまう。
「なあ、凩!」
車田くんが手術室前だからか、小声で話しかけてきた。小声と言っても、普通の人にとっては十分大きい声だけど。
「オレさ、ユウって時々どっかの漫画の主人公じゃないかって思うんだ」
急に何を言い出すのだろうかと思ったけど、何も言わずに彼の話を聞くことにする。
「常に冷静! だけどヒロインを守る時……あ、ヒロインってのはこの場合凩のことな! ……とにかく、大切な人を守る時には熱くなる。それって、オレの好きな漫画の主人公の特徴とそっくりなんだ!」
車田くんの謎の話は続く。
「主人公ってのはさ、絶対に死んだりしないんだ! もし、死ぬとしたら、それは戦いが終わって平和が戻った時だけだ! でもオレ達の、エンダーとの戦いはまだ終わっていない! だから、ユウは生きている、オレはそう信じている!」
ここまで聞いてやっと分かった。どうやら漫画好きの車田くんなりに、私を励ましてくれているようだ。
でも、車田くん、女の子の励まし方少し下手だなと思い、私はちょっと笑ってしまう。
「その理論だと、ユウは戦いが終わると死んじゃうのかな?」
「!! い、いや、オレが言いたいのはそういうことじゃなくて……!」
車田くんがあたふたする。私はその様子に思いっきり笑う。
「ごめんごめん、車田くんの言いたいことは分かってるよ。……うん、それじゃあ私はヒロインらしく、ヒーローの帰還を待つとしますか!」
「お、おお、その意気だ! オレもあいつのライバルキャラとして待つぞ!!」
「わたくし達も、仲間キャラとして待ちましょうか空くん」
「……うん」
皮肉にも、ユウがいなくなり、空くんママが倒れたことによって、私達の心は一つとなった。
「あ、皆さんここにいらしたのですかっ!」
私達のもとに、いつもの黒服さんが肩で息をしながら駆け寄ってきた。
「エンダーからメッセージが届きました。病み上がりのところ申し訳ありませんが、至急社長室までご同行ください」
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