第8章 それぞれの願い
不動ユウの消失
ゲームという建前の、エンダーとの戦いから三日経った。
この三日間、エンダーからの襲撃は無かった。マーザが約束を守って地球を襲うのをやめたのか、それとも単に人類を襲うのを延期したのか、どちらかは分からない。
私達はあの後、社長さんが手配してくれた船で島を出港し、本土に戻ってきた。
その後、身体に入った毒を抜くために病院に運ばれた。この病院はDCが経営しているらしい。どこまで事業を拡大しているのだろう。
それから四人で治療を受け、念のため入院することになった。親には食中毒で入院することになったと伝えておいた。
そう、治療を受けたのは四人。
あの時、隕石を破壊しに空へと飛んだユウは、それきり姿を見せなくなった。
DCの皆が、世界中を探しているけど、まだ彼は見つからない。見つかったのは、『妄想創造』アビリティリングと、カードホルダーだけ。ユウ本人は発見されていない。
『おそらくは、隕石の爆発の際にその衝撃で飛ばされ、宇宙へ投げ出されただろう。そうならば、我々の技術でも探すことは不可能だ』
ディーノ社長はそう私に告げた。
でも私は信じられなかった。ユウが死んだなんて。
「やつでさん、ちゃんと食べないと身がもちませんわよ」
病室の相部屋である吹雪氷華ちゃんが、心配そうな目で私を見る。ちなみに車田烈くんと常盤空くんも相部屋だけど、今はいない。
私の目の前には、ナースさんが用意してくれた病院食がベッドと一体になった机に並べられていた。 別に嫌いな食べ物があるとか、不味いから嫌だとかそんな理由じゃない。ただ、食べたくないのだ。 ユウのことを考えると、食欲なんて湧かない。
最初は私もユウは死んでいないと信じていた。ユウはたとえ億越えの電撃を喰らっても死なない、丈夫な身体だ。きっと海の上をプカプカと能天気に漂流しているのだと思っていた。
でも日が経つにつれ、その希望は薄れていった。いくらユウが頑丈な身体をしていると言え、隕石の爆発に巻き込まれて、無事な確証は無い。ましてや宇宙に投げ出されたのなら、もっと絶望的だ。
「ユウ……」
私はふと、傍に置いてあった妄想創造のアビリティリングを手に取る。
それを見た私の眼からポタポタと涙が流れた。
このリングは言わば、私とユウの絆の証だ。このリングを見ると、ユウと出会った時から現在のことまでを、まるで走馬燈のように思い出す。
走馬燈、という不適当な単語が浮かんだ頭を、私はその単語をかき消すようにブンブン横に振る。
ユウはまだ死んだと決まったわけじゃないのに。
それなのに涙が止まらない、全然止まらない。
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