H2O使い
「ホッホッホ」
「まだですわ。wave!!」
氷華ちゃんは何度も大波で老人を攻撃する。
しかし、その水を何度も根が吸収する。
「……なるほどの。お嬢ちゃんの目論見が分かったぞい。大量の水を吸わせて、ワシの植物を根腐れさせるつもりじゃな?」
「……」
「ホッホッホ、残念じゃがそれは無理じゃ。ワシの植物は、うわばみでの。その程度の量では腐らぬわ」
氷華ちゃんは、攻撃を続ける。
諦めずに何度も何度も水で攻撃する。
しかし敵には全く効いていない。
それどころか、水は植物の成長を促し、根はどんどん巨大になる。
「無駄だというのに……若い者は怖いもの知ら――」
「……お爺さん。さきほど私に、ポケモンが好きかどうか聞きましたわね。ええ、私も大好きですわ、ポケモン。よく弟達や妹達とゲームをしたりやアニメも見ていましたわ」
「ほう」
「お爺さんの言う通り、水タイプは草タイプに弱い。でも、あなたもポケモン好きなら知っていらっしゃるでしょう。水ポケモンは敵である草ポケモンに対抗すべく、『あるタイプ』の技を覚えることができる。そして、その『あるタイプ』は草タイプが苦手とする相性……」
「……!! まさか!」
「そのまさかですわ! freeze!!」
氷華ちゃんの発生させた水が一瞬にして氷に変わり、老人の根の壁を凍らせた。
「こ、氷!? 吹雪は水使いじゃなかったのか!!?」
驚き叫ぶ車田くん。私も彼と同じ心境だ。
「水使いではなく、H2O使い……。なるほど、確かにその通りだ」
ユウがまた何か分かったような顔をしている。自分だけ納得していないで私にも教えてよ。
「やつで、問題だ。水の化学式は?」
「そんなの簡単、H2Oよ」
「では、氷の化学式は?」
「えっと……あ! H2Oだ!! じゃあ氷華ちゃんは……」
「初めて話した時にも、あいつは言ってただろう。自分はH2O使いだと」
つまり、氷華ちゃんは水だけを操るのではない。氷も操ることができる、そういうことだ。
「いや、おそらく水と氷だけではない。俺の予想なら、氷華は……」
「まだじゃ! まだワシは負けて、負け、ま――」
どういうことだろう。老エンダーの様子がおかしい。苦しそうに喉元を抑えている。
私は老人の様子に見覚えがあった。
NEX第一回戦で、車田くんも同じように苦しんでいた。あの時と状況が酷似している。
「私はH2O使い。操れるのは水や氷だけではありませんわ」
「あ、が、が……」
「H2O。その化学式が示すは、液体の水、個体の氷、そして……」
ユウが指を三本立てる。
「vapor。私の能力で、お爺さんの周囲一帯に水蒸気を充満させました。植物の成長に必要なのは、水と酸素。酸素が無ければ、植物は生きられない。もちろん、動物も」
酸欠で、エンダーが倒れる。発生させた植物は、彼の命が消えゆくのを暗示するかのように、ゆっくりと枯れていった。
「よっしゃぁあああああああ! 吹雪の勝ちだぁあああああああ!!」
車田くんが勝利者の名を叫ぶ。
「お爺さん。よくアニメでサトシさんが仰っているでしょう」
灰になりつつあるエンダーに、氷華ちゃんは語りかける。
「『相性だけがポケモンバトルではない』。私が相性のいい水タイプだからと油断したのがあなたの敗因ですわ」
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