戦闘開始

「確かに、二人が羨ましくて二重人格になりたいとは思ったよ! でもね、そのせいで二人が傷つくなら、最初から望まなかった!」 


 そうだ。桜子がそんなことを、友達を傷つけるようなことを望むはずがない。


「フ、せっかく望みを叶えてやったというのに……まあいい。さて、そろそろ話を終わろうか」

「待て、まだ話は――」 


 終わっていない、そう言おうとした時だった。 園長先生が僕の顔目掛けて、何か光る物を投げてきた。 

 それがコンパスだと認識できたのは、左腕がそれを受け止めてくれた後だった。 


 クロちゃんだ。 


 さきほどのニセ桜子戦と同じように、クロちゃんが咄嗟に左腕を動かして、コンパスを受け止めてくれたのだ。コンパスの先端と僕の距離は約五センチ。下手したら、顔に刺さっていたと思うと、想像しただけで痛くなる。 

 ありがとうクロちゃん、そう心の中で言おうとした時だった。 

 園長先生がこちらに迫ってきた。


「(史郎!)」 


 僕はすぐさまメガネを外した。 

 メガネとコンパスを投げ捨て、園長の突進をクロちゃんは相手の肩を押さえ込んで受け止める。対する園長も、クロちゃんの肩をつかみ、取っ組み合いの状態になる。


「おいおい危ねえだろ、コンパスの針は人に向けちゃいけねえって、父さん母さんに習わなかったのかよ、エンチョーっ!」

「ふん、ワシはお前に親を蹴ってはいけないと、教えたはずだぞ明よ」

「けっ!」 


 クロちゃんは園長の腹部を蹴り、前方へ吹き飛ばす。園長は本棚に衝突し、そのまま倒れた本棚の下敷きになった。


「俺は明なんかじゃねえ。それにお前みたいな親を持った覚えなんざねえよ」

「……生意気な息子には、少々躾が必要だな」 


 しかし、園長は本棚を投げ飛ばし、何事もなかったかのように起き上がる。こっちに飛んできた棚を、クロちゃんは腕で弾き飛ばす。


「その頑丈な身体……まさかエンチョー、あんたも多重人格者なのか!」

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