50メートル走
スタート位置に着き、俺は隣のやつをチラ見する。
「(とりあえず、こいつと同じくらいで走ればいいか)」
そんなことを考えながら、俺は屈伸をして走る準備をする。あまり早く走ると目立つからな。合図と共に、俺は走り出す。
なるべく力をセーブして、隣の奴のスピードに合わせる。
本気の二パーセントくらいの速度が、隣の奴と同じ速さのようだ。俺はこの力加減をキープする。
二十メートル、三十メートル、四十メートルと、俺は隣の奴と並走する。
「(あ、でもやっぱ負けるのは嫌だな。ちょっとスピード上げるか)」
残り十メートルのところで、俺は二パーセントから五パーセントくらいに力を上げて、隣の奴より前に出てゴールした。
岡部が俺達のタイムをそれぞれ述べ、記録係がそれをカードに記入する。記録係からカードを受け取り、俺は結果を確認する。
六秒ジャストか。
「まあ、こんなもんだろ」
俺はストレッチして足を休める。
ふと見ると、隣で走っていた奴が、この世の終わりを体験したような顔をしている。よっぽど負けたのが悔しいようだ。だが残念だな、勝負の世界は厳しいんだ。そいつを慰めてやろうかと思ったがやめた。勝負に負けた相手に同情されるほど、惨めなことは無いからな。
『六秒って、マジかよ……紅って新聞部だろ』
『知ってるか、一緒に走ったやつは陸上部の短距離エースだぞ』
『そいつより速いって、紅ってすげーんだな』
男子達が何か言っているが、声が小さくて聞き取れない。
もしかして、今俺、何かヘマをしたのか?
女子達も俺の方を見て、ヒソヒソ話している。
その中で桜子が俺に向かって、ブンブンと手を大きく振っている。「お疲れ様」とでも言いたいのだろうか。
逢原は微動だにせず、ジーっと俺を俺の方を見る。この時、あいつの視線に反応したのか、史郎がまた「逢原さーん」と寝言をこぼしていた。ここまでくると感心するな。
俺は史郎のふりをして、二人に向かって一応手を振り返しておいた。
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