きぬルート4話 気づき始める気持ち
「鷲宮君」
「ん……」
「鷲宮君!」
上から降りかかってきた声に俺は驚き、起き上がる。
「へ……あ、会長!? なんでこんなところに?!」
「それは私のセリフだ。学園祭はどうしたのだ?」
「1人じゃつまらないし、気づいたらここでうたた寝してました」
「紗智さんや麻衣さんと一緒にいればよかったじゃないか」
「紗智といたら色んなとこに振り回されて、疲れるだけですよ。ここで休んでたほうが気が楽です。そんなことより、会長こそ学園祭の仕事はいいんですか?」
「終了30分前、最後の休憩なんだ。私もここで一息つこうと思ってな。しかし、先客がいて驚いたよ」
へえ、会長もここを休憩の場にしてるのか。
「俺の他に、ここを憩いの場にしている人がいるとは思いませんでした」
「私もだよ。日頃から来ているのか?」
「そういうわけじゃないですけど、気持ちを落ち着かせたいときとか、考え事したいときには」
「そうか……」
「会長こそ、よく来てるんですか?」
「君と同じだ。私はここが好きなのだ」
「俺もここは好きですよ」
「鷲宮君……」
「どうしてかはわかりませんけど、懐かしい気持ちになれるんです。ここから見える御守町を見て、風が吹くのを感じていると」
「君も同じなのだな……」
「同じ?」
「あ、いや、私もそう感じているから、君と同じだと思っただけだ」
「なんか嬉しいです」
「嬉しい?」
「会長と同じ気持ちになれてるって知って、嬉しいです」
「鷲宮君……」
「俺、会長のこと真面目でとっつきにくい人かなって思ってました。でも、そうじゃないって知ってから、すごく興味を惹かれたんです。だから、今日も新しい一面が見れて、嬉しく思ったのも事実ですよ」
「バカ者……言うでない」
会長は恥ずかしそうに、顔を背ける。
「ふふ、すみません」
「だが、ありがとう」
「え?」
「君のように、素直に私のことを見てくれる人は数少ない。それは嬉しく思うよ」
「俺は正直に言っただけですよ。そういえば、会長って一人暮らしって言ってましたよね?」
「ああ、そうだ」
「両親はなにをしてるんですか? 別の町にいるんですか?」
「なぜ、そんなことを?」
「その年で一人暮らしってすごいなと思って、少し気になっただけです。もしかして、聞いたらいけませんでしたか?」
「両親は……いない」
「え……?」
「随分、昔にいなくなってしまった」
「すみません、そうとは知らずに……」
「大丈夫だ。私にとって、両親は忘れられぬ存在ではあるが、もう昔のことだ」
「生活はどうしてるんですか?」
「遠縁の者に援助してもらっている。名も顔も知らぬ、ほとんど他人のような者だがな。それと御守神社からもだ」
神社から援助って、親戚でもいるのかな。
「だから、神社の手伝いをしてるんですね?」
「手伝いなど、ほんの些細なものだ。御守神社にも私に縁のある者がいるから、それでな」
やっぱり、そうか。
「会長、本当にすごい人ですね」
「なぜだ?」
「学園でも色んなことをして、私生活でも苦労してるのに、そんな素振り全く見せずに頑張ってるじゃないですか。普通の人には到底できません」
「……罰なのだ」
「罰……?」
「これは私が負うべき責務であり、罰なのだ。自らが行ったことへのな」
「それは一体――」
「すまない、鷲宮君。そろそろ時間だ。私は戻るよ」
「え……あの……」
「君も教室に戻りたまえ。学園祭とて授業の一環。終礼に出席しなければ、欠席とみなされるぞ」
「は、はい……」
「ではな」
会長は静かに校舎へと向かっていった。すごく寂しそうな顔してたし、何を言ってたんだろ。責務とか罰とか……どういうことだ。うーん、会長という人物がますますわからなくなってきた。
俺が教室に戻って、数十分で終礼が始まった。
「えー、今日は学園祭お疲れさんでした。明日は振替休日だが、学園祭の余韻に浸りすぎず、問題は起こさないこと」
終礼中、俺は会長のことを考えていた。わからん。会長ってミステリアスな部分が多いけど、謎がさらに深まってしまった。
「明後日からまた通常通り授業が始まる。今後は大きな学園行事もない。お前たちも来年は3年生になる。今のうちにきちんと自分を見つめ直して、将来のことを考えるように」
3年生か……。俺たちがそうなるってことは会長は卒業して、もういなくなるわけだ。知り合うのが遅すぎた。1年生の頃から見知っていれば、もう少し仲良くなれたかもしれないのに……。
「はあ……」
思わず、ため息をついてしまう。
「では、以上でHRを終わる」
築島先生の言葉で、ぞろぞろと教室から出て行くクラスメイトたち。全員、その顔には笑みが浮かび、今日の出来事を振り返っている様子だった。みんな、学園祭楽しんだんだろうな。
「誠ちゃん、帰るよ?」
「ああ」
「行きましょう」
「いやー、今日の学園祭楽しかったね」
下校しながら、紗智と三原は今日のことを振り返っている。
「はい、紗智さんのおかげで色んなところを見て回ることが出来ました。鈴さんや筒六さんとも会えましたし」
「もうお化け屋敷は嫌だよー……」
「そうですか? 私はすごく楽しかったです」
「ねえ、聞いてよ誠ちゃんー。麻衣ちゃん、お化け屋敷に入っても全然怖がらなくってさー」
「ああ……」
後、半年もしないうちに会長とはお別れなんだ。嫌だな……。
「鷲宮さん?」
「誠ちゃーん?元気ないよー?」
「え……なんだ?」
「なんだじゃないよー。どしたのさ、落ち込んで」
「学園祭でなにかあったのですか?」
「別に何もないぞ?」
「うそだー。話聞いてなかったじゃん」
「そんなことないって。聞いてたぞ?」
「本当に~?」
「紗智が模擬店で食べ過ぎてたってとこまでは聞いたぞ?」
「そんなこと一言も言ってないんだけど……」
「本当に大丈夫ですか、鷲宮さん?」
「なんともねえって」
「なら、いいけどさー」
「鷲宮さんはどなたと楽しまれたんですか?」
「一度も誠ちゃんと会わなかったから、気になってたんだ」
「誰だっていいだろ、そんなの」
「え~、まさか怪しい人?」
「そんなんじゃねえって。三原こそ、大変だったんじゃねえのか?」
「え、私ですか?」
「紗智のことだ。色々振り回されたろ?」
「私は初めての場でしたので、むしろ楽しかったですよ」
「そうだよ。2人でいっぱい楽しんだもんね」
「はい、ですがお化け屋敷はもう2、3回は入りたかったです」
「それはもうやめてよー」
「ははは、三原。こいつなら平気だから、来年もお化け屋敷に連れていってやってくれ」
「え、ちょっと――」
「楽しみにしてますね、紗智さん」
「ひえ~~」
「ははは……」
俺も会長ともっと学園祭楽しみたかったな……。
「…………」
その時、紗智が俺のほうをじっと見つめていた気がしたが、俺はそれに反応できるほどの余裕はなかった。
自室の布団に潜り込み、体を丸くする。
「…………」
終礼のとき、担任も言ったようにこれから次の学年まで大した行事はない。いわば最後の思い出作りだったのに……。会長、今なにをしてるのかな。今なにを考えてるのかな。
「あれ……」
俺、なんかずっと会長のことばっかり考えてるな。なんでだろ……。
「これって、もしかして……」
会長のこと好きになってるのか。い、いやいや相手は会長だぞ。高嶺の花にもほどがある。でも、会長のこと考えてたら、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。胸が苦しくなる。会長に会いたい。
「明日、振替休日だったな」
神社に会長いるかな。明日、行ってみよう。
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