鈴ルート15話 浮上
「行ってくる」
「また後でね。鈴ちゃん」
「行ってらっしゃい、誠、紗智」
今日も鈴に見送られ、俺たちは登校する。三原が合流したところで、話題は鈴のことになっていた。
「鷲宮さん、鈴さんはその後どうですか?」
「昨日、ご飯食べてるときは暗かったけど、今朝は少し元気になってたよね? なにかあった?」
「少しだけ……前進出来たかもしれない」
「本当ですか?」
「ああ、だが――」
まだ始まったばかりだ。ここからが正念場かもな。
「誠ちゃん?」
「大丈夫だ。なんとか解決の糸口は掴めたからな」
後はどうやって鈴の父親に接触するかが問題だ。鈴に家の住所聞くのが手っ取り早いけど、安々と教えてくれるかわからんし。どうにかして調べられないかな。
鈴の件を考えていたら、あっという間に昼休みになっていた。全然、授業が耳に入ってこなかったな。
「誠ちゃん、ごは――」
紗智が弁当を持ち寄ろうとしたとき、校内放送のチャイムが鳴る。
「なんだ?」
「こちら、生徒会長の小谷きぬです。2年生、鷲宮誠。至急、生徒指導室まで来てください。繰り返します――」
「俺?」
「誠ちゃん、なにかしたの?」
「そんな覚えはないんだけど……」
「ともかく早く出向いたほうがよいのでは?」
「そうだな」
なんの呼び出しだ? 生徒指導室って……最近、授業ちゃんと聞いてなかったからか?
それなら、まず担任から注意されるはずなんだけど……。
「失礼します」
俺は挨拶しながら、生徒指導室へ入る。
「…………」
「…………」
「…………」
なんだなんだ。会長に築島先生に教頭って……しかも、なんだか穏やかじゃねえな。
「あの、なんの用ですか?」
「鷲宮」
「はい」
「お前、1年生の鈴下鈴を知ってるな?」
「――っ!?」
鈴だって……!? なんで築島先生が、鈴のことを聞いてくるんだ?
「知っています」
「そうか。ならば、その生徒との交友があるのも事実だな?」
「ありますけど……」
「どういう関係だ?」
さっきからなんだよ。随分遠まわしに言ってくるな。それにそんなこと聞いてどうしたいんだ。
「すみません、一体なんのことかさっぱり――」
「鷲宮くん、君は黙って質問に答えていればいい」
教頭は俺に威圧感を与えながら、命令してくる。なんだそりゃ。これは尋問かなにかか。
「なんのことかわからない以上、答えられません」
「鷲宮――」
「先生方、彼の言うことは最もです。いきなり呼ばれて、わけもわからないまま質問だけされても、彼も困惑します。まずは事の経緯から話したほうがよいのではないでしょうか?」
会長の言葉に耳を傾けた教頭は「フゥ……」と静かに息を吐く。
「……そうだな。築島先生、説明してくれ」
最初からそうしてろよ。
「1年生の鈴下鈴が今日を入れて、3日間の無断欠席をしている。家に連絡を入れてはいたが、なんの応答もなかった」
それは知っている。今は俺の家にいるんだからな。
「だが今朝、ようやく父親からの連絡が入った」
「――っ!?」
「鈴下鈴が無断欠席をしていると告げると、父親は驚いていてな。学園側は――鈴下鈴は自宅にいると思っていたが、父親からの話で自宅にも帰っていないそうだ」
「…………」
「そこで学園側は、鈴下鈴の学園内での交友関係を調べた上で、お前を呼んだんだ」
「待ってください。なぜ俺なんですか? 交友関係があるとすれば、俺より同じクラスの仲野筒六のほうが――」
「仲野筒六には、もう話は聞いている。しかしだ、鷲宮。鈴下に関しては、お前のほうが詳しいんじゃないか?」
「どういうことですか?」
「お前の自宅近辺で、鈴下鈴の目撃情報がある」
「――っ!?」
鈴、外へ出ていたのか!?
「少し前から鈴下鈴の目撃があったようだが、どれも時間帯が夕方……ちょうど学園の下校時間帯だ。しかし、前日2日間の目撃は昼間だ。これがどういうことか、わかるな?」
「それはわかりますけど、だからってなぜ俺が疑われるんですか。単にその辺りをうろついていただけかもしれないでしょ」
「なぜうろつく必要がある? あの近辺は単なる住宅地だ。そんなところに無断欠席してまでのものがあるのか?」
「そんなこと、本人にしかわかりませんよ」
「鷲宮の言うことは最もだ。しかし、こちらとしては可能性がある以上、放ってはおけない」
「…………」
「どうなんだ、鷲宮? お前、鈴下鈴についてなにか知ってるんじゃないのか?」
「…………」
どうする……。ここで正直に話したほうがいいのか。そのほうが鈴はまた学園に通うだろう。でも、それでは根本の解決になっていない。また同じことが繰り返されるだけだ。だったら――
「……知りません」
「…………」
会長は俺を突き刺すような目で、じっと見ている。
「本当だろうな?」
「はい。先生の言う通り、少し前は俺の家へ遊びに来ていたこともありました。でも、今は――無断欠席していることも知りません」
「……わかった」
「…………」
会長はずっと俺のほうを見ている。
「どうしましょうか、教頭?」
「もう一度、調べてみよう。職員室に戻るぞ」
「はい。お前たちも教室に戻っていいぞ」
教頭と築島先生は、そそくさと生徒指導室から出て行った。なんとかバレずにすんだな。
「鷲宮君」
「いやー、なんだか突然のことでビックリ――」
「本当になにも知らないのか?」
「…………」
「疑いたくはないが、君と鈴さんの仲を考えると、なにか知っていると思ってしまう」
「俺と鈴のこと、紗智から聞いたんですか?」
「ん? なにをだ?」
「あれ? もしかして違う?」
「私はただ、君と鈴さんは仲が良いと思っただけだ。学園祭も一緒に行動していたろ?」
「見てたんですか」
「見かけただけだ。君の口ぶりからすると、ただの友人関係でないように聞こえるが?」
「まあ、その……恋人です」
「踏み入ったことを聞いて、すまなかった」
「いえ……」
「では、それを知った上で聞くが、本当に知らないんだな?」
「それは……」
会長になら言ってもいいかな。
「鈴は俺の家にいます」
「そうか……」
「会長、このことは誰にも――」
「なぜだ?」
「鈴にも事情があるんです。無断欠席したことは悪いってわかっています」
「…………」
「でも、鈴はなんの理由もなしにそんなことはしません。その証拠に、今まではちゃんと来ていたじゃないですか」
「それは私も先生方から聞いている。授業は抜け出していたようだが、成績優秀で無遅刻無欠席だったようだ」
「鈴も迷っているんです。今のままではダメだと思っているはずです。でも、だからってそう簡単に心の整理はつきません」
「……なるほど。事情は理解した。私から先生方へ言うのは控える」
「ありがとうございます」
「しかし、鷲宮君。鈴さんの行っていることは決して良いことではないぞ」
「わかっています。だからさっき――」
「問題を抱えているのは鈴さんだけではない」
「それって――」
「誰しも事の大小はあれど、なにかしらの問題を抱えているものだ」
「…………」
「それでも、自らがやらねばならぬことから目を背けず、生活している」
「…………」
「鈴さんは自らの義務から逃げている。今はそれでも良い。どうしても逃げ出したいときがあるのも理解している。しかし、時間は無限ではない。早く決心させねば、今の状態が習慣づいてしまう。そうなれば、困るのは鈴さん自身だ」
「…………」
「ともかく、今の状態はよろしくない。まずは実家へ帰してやれ」
「それは……」
それが出来ないから、俺の家にいるのに……。
「父親の元へ帰さなければ、いずれ大事になるぞ」
わかってるよ。でも、鈴のあんな顔見たら、「はい、そうですか」とはいかねえんだ。
「……君にも考える時間が必要なようだな。私はもう行くよ」
「はい……」
「出来るだけ早く決断するんだよ。鈴さんのためにもな」
会長はその言葉を残し、生徒指導室から出て行った。
「…………」
どうすりゃいいんだ……。
会長が出て行って数分後、俺も生徒指導室から出ると、仲野が目の前にいた。
「先輩……」
「仲野か」
「あの……もしかして、先輩も――」
「ここだと話しづらい。人気のないところへ行こうぜ」
「はい」
いつもならこんなこと言うと、軽口を叩く仲野も事情を察してか、素直に応じる。
「ここですか?」
俺は話す場として、屋上を選んだ。ここへ来るのも、久しぶりな気がする。
「ここなら普通、人は来ない」
「なぜそんなことを?」
「……鈴が好きな場所なんだ」
「鈴ちゃんが……?」
「昼休みはいつもここにいた。授業を抜け出したときもいるかもしれんがな」
「そうだったんですか」
「……鈴のこと、聞かれたんだって?」
「はい……。朝礼が終わった後、担任から呼ばれて。校内放送で先輩が呼ばれているのを聞いて、もしやと思ったんです」
「俺たちのこと、黙っててくれてありがとうな」
「いえ……。しかし、今になってお父さんから連絡が入るなんて」
「そうだな……」
「先輩、これからどうするんですか?」
「迷っているんだ」
「何をですか?」
「鈴を実家に帰すべきか、そうしないほうがいいのか」
「私は……これ以上、事態を大きくしないためにも帰すべきだと思います」
「それは俺もわかってる。でも、鈴から聞いてしまったんだ」
「なにをですか?」
「父親のこと」
「話してくれたんですか?」
「ああ。詳しくは言えないが、鈴の気持ちを考えると、簡単に帰していいものかと思ってしまって」
「すみません、私なにも力になれなくて」
「仲野が謝ることじゃない。むしろ、協力してくれて感謝してるよ」
「いえ、私なんか……」
「どちらにしても、早く答えを出さなきゃいけないことに変わりはない。なんとかするさ」
「はい。あの、私に出来ることがあれば力になります」
「ああ、ありがとう」
なんとかするか……。答えなんて出てないのに、無責任だな。
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