鈴ルート12話 勝負

午後の授業を無難に終え、帰宅すると、鈴はいつものようにゲームをプレイしていた。さて、どうやって鈴から聞き出そうか。

「ただいまー」

「おかえり」

とは言ったものの、急に「お父さんとなにかあったのか?」なんて聞いても教えてくれるどころか、口をきかなくなる恐れもある。事は慎重に運ぶべきだろう。

「お、ついにスーファニか。『ナリオワールド』だな」

「ファニコンとは大違いね。全てにおいてグレードアップしてる」

「今日、ずっとやってたのか?」

「午前中でクリアはしたんだけど、隠しステージとかそういうのもコンプしたいと思って」

「やりこもうとすれば時間はかかるからな。スーファニはファニコンより、そういう要素があるゲーム多いぞ」

「やりごたえがありそうね」

「そうだ。それ終わってからでいいからさ、『ストファー』で勝負しないか?」

「いいけど、大丈夫?」

「なにが?」

「負けても泣かないでよ?」

「子供かよ」

「だって、誠の腕じゃ……」

「甘いぜ。鈴が強いのはアーケードでの話だ。まだ家庭用で、俺と対戦したことないだろ? なら可能性はあるはずだ」

「別にいいけどさ」

「家庭用で鍛えた俺の腕、とくと見せてやろう」

「さっさとコンプしてしまうから、ちょっと待ってて」

「りょーかい」

ま、そうは言うがなかなか時間かかるだろうし、気長に待つか。


「よし、やろうぜ」

「受けて立つわ」

鈴が『ナリオワールド』をコンプしたと同時に紗智のご飯の合図があり、ゲームは一時終了。食べ終わった後、紗智を見送り、俺と鈴の戦いの火蓋は切って落とされた。『ストファー』のソフトを挿し、いざ勝負!

「へえ、なかなか再現度高いじゃない」

「鈴は誰にするんだ?」

「持ちキャラは『秋麗しゅうれい』だけど、ここはあえて――」

「『カルシュム』か。俺は遠慮なく持ちキャラ『ドラゴン』でいくぞ」

「かかってきなさい」

数分後、2ラウンド先取され、敗北。

「『宿命、お前が負けるのも宿命なのだよ』」

「えーい、ゲーム内のセリフを口に出さんでよろしい」

「まだやる?」

「当然だ。俺はこのままいくぜ」

「次は持ちキャラを使ってあげるわ」

『秋麗』か。身軽だからジャンプで接近してくるだろうな。対空技で落としてやるぜ。しかし数分後、またも敗北。

「俺の『ドラゴン』がボコボコに……」

「なんで対空技、出さないのよ」

「コマンドが難しくて……」

「うそ!? あのコマンド、入力出来ないの?」

「もう1回! もう1回だけチャンスを!」

「仕方ないわね。ハンデをあげるわ」

「ハンデ?」

「わたしはこの『パンギエフ』で『ローリングパイルドライバー』しか使わない」

「なに!?」

「もしその技以外でダメージを与えた場合、わたしの負けでいいわ」

『ローリングパイルドライバー』って、コマンドが十字キーを1回転させた後にパンチボタンだろ。

「いくらなんでもそれは無茶だろ。決まれば3回でKOだけど……。しかもゲーセンのようにレバーじゃなく、十字キーだぞ。容易に入力出来るコマンドじゃない」

「やってみなきゃわかんないでしょ。誠はそのままよね?」

「あ、ああ」

「さ、始めましょう?」

「手加減しないぞ?」

「不要ね」

ここまで大口を叩くぐらいだ、相当な自信があるんだろう。悪いが、さすがにこの勝負は譲れないな。しかし、勝負が始まるや一方的な展開となり、計6回の宙を回転させられている『ドラゴン』を見せられた。

「…………」

「大丈夫?」

「ああ、平気だ。俺はゲームに勝ちたいのではなく、楽しみたいのだからな」

「目、潤ってるわよ?」

「そ、そんなことねえ。だが、『ストファー』はもういい。別ので勝負だ」

「まだやるの?」

「当たり前だ。今日は勝つまでやるぞ」

「さっきと言ってることが矛盾してるけど……いいわよ」

「次はファニコンのゲームで勝負だ」

「どれでもかかってきなさい」

その後、どんなゲームで対戦しようとも一向に光明すら見出せないまま、時間が過ぎていった。

「さ、次はどれで対戦する?」

「くそぅ……なぜ勝てんのだ」

「ゲーム勝負で、わたしの右に出る者はいないのよ」

「結局、鈴には一度も勝てずか……」

まあ、楽しかったけどな。

「……ん」

俺の胸に頭を傾ける鈴。

「楽しかったね?」

「ああ」

「ふふ……」

鈴の言いたいことはこの態度を見ればすぐにわかった。だから、言葉なんていらなかった。

「せーい……?」

「なんだ?」

「んっ……」

目をつぶり、口を突き出してくる鈴。言葉は交わさず、それに応える。

「ちゅっ……えへへ」

今日1番の笑顔を見て、俺たちは布団に入った。

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