鈴ルート11話 糸口

「鈴ちゃん、ご飯美味しい?」

「うん」

「よかったー」

翌朝、鈴の存在に違和感を覚えた紗智だったが、恋人同士ということもあり、問い詰める真似はしなかったが、やはり疑問には思っているようだ。昨日は来ないと言ってたから尚更だろうな。

「今日は鈴ちゃんと登校出来るなんて、嬉しいな」

「わたし、休む」

「あ、そうなんだ。どこか具合でも悪いの?」

「そんなところ」

「そっか。ゆっくり寝ておかなきゃね」

「ありがと」

紗智に黙っておくわけにもいかんし、登校中に話しておかないとな。


朝食を済ませ、鈴の見送りを受けながら、俺と紗智は学園へ向かう。なにから話せばいいのかわからず、俺と紗智の間に会話はなかった。

「そんなことがあったのですか」

「鈴ちゃん、どうかしたの?」

だが、三原を加えたところで紗智が――鈴が俺の家にいることを話したことでようやくその話題となった。紗智も三原も無闇に他人に言いふらすことはないだろうし、話してもいいか。

「正直、俺もよくわからないんだ」

「どういうこと?」

「昨日、紗智が家に帰って後、いきなり来てさ。自分もここに住むって言い出して」

「なにかあったのでしょうか?」

「聞いても教えてくれないんだよ。学園にも行かないって言ってるし」

「具合悪いわけじゃないの?」

「そういうのじゃなくて、単に行きたくないみたいだ。なぜかは知らんけど」

「家出したということは、家庭内で嫌なことでもあったのでしょうか」

「けっこう前から鈴自身がそういうこと匂わせてはいるんだけど、毎回聞いても教えてくれないんだよ」

「うーん、どうすればいいんだろ……」

「本人に話す気がないのなら、どうしようもないよな」

なにか解決の糸口が見えればいいんだけど……。

「どうするの、誠ちゃん?」

「少し……1人で考えさせてくれ」


「とは言ってもなあ……」

昼休み、1人になるため中庭へ出向いていた。紗智と三原は心配そうに、しかし快く了承してくれた。

「どうすればいいか……俺が聞きたいよ」

「鷲宮先輩?」

俺がベンチに座っていると、後ろから仲野がやってきた。

「仲野か。こんなところでどうしたんだ?」

「お昼ご飯を食べようと思って。先輩こそ、お昼休みにここにいるなんて、珍しいですね」

「ちょっと考え事をな」

「鈴ちゃんのことですか?」

「なんでわかった?」

「昨日、鈴ちゃんに聞きましたから。2人が付き合っていること」

「そうなのか――少し話したいことがあるんだけど」

「可愛い後輩にノロケ話ですか?」

「そんなんじゃねえって。いや……可愛い後輩って、自分で言うかね」

「冗談です。話とは?」

「鈴って、なにか悩み事を抱えてるとか、知っているか?」

「早速、下の名前で呼ぶとはやりますね」

「茶化すならやめる」

「……ごめんなさい。私も詳しくは知りませんが、お父さんのことでなにか悩んでいるようですね」

「父親?」

「鈴ちゃん、自分のことあまり話したがらないので、私が聞いてもほとんど教えてくれなかったのですが、どうやらお父さんを嫌っているようです」

「理由は聞いてないか?」

「そこまでは……。なにかあったのですか?」

「実は昨日の夜、俺の家に突然押しかけて、居候することになったんだ」

「居候?」

「ああ、ここに住むとか言い出して。学園にも行かないとか言ってさ」

「だから、今日休んでいるんですね。そっか、だから朝礼のとき――」

仲野はなにかを思い出したかのように、人差し指の第二関節を曲げて、口元へ置く。

「朝礼でなにかあったのか?」

「出欠確認のとき、担任の先生が鈴ちゃんのこと知らないか、私に聞いてきたんです」

「なんで仲野に?」

「私と鈴ちゃんは仲が良いですから。学園って、意外と生徒の交友関係を知っているみたいですよ」

「なるほどな」

これだけ生徒がいるのに、伊達に教育機関じゃないってことか。

「もちろん、私は知らなかったのでそう言いました。私も鈴ちゃんのこと心配だったので、さっき職員室へ聞きに行ったら、家に電話しても誰も出なかったみたいです」

「そうか。仲野、鈴のことは――」

「誰にも言いませんよ。鈴ちゃんは私の親友ですから」

「ありがとう」

「鈴ちゃん、もう学園に来ないんですかね」

「仲野……」

「そうだったら、寂しいな……」

いつも、俺の前ではおどけた態度しかしない仲野がこんな顔するなんて……よっぽど心配なんだろうな。

「でも、少し安心もしました」

「安心?」

「先輩の家にいるって知って、少し安心です。学園に来てくれれば、言うことなしなんですけど……」

「大丈夫さ。その内、学園に来るようになるって」

「なにか妙案があるんですか?」

「う……それは……」

俺もどうすればいいのかさっぱりだ。

「……でも、やはり先輩の力が必要なのは確かだと思います」

「俺の?」

「鈴ちゃんが1番信頼しているのは先輩だと思います。そうでなければ、先輩の家に住むなんて言わないでしょうから」

「…………」

「鈴ちゃんも自分の中で迷っているんだと思います。先輩に頼りたいけど、頼っていいものなのかと」

「そんなこと気にしなくてもいいのに」

「鈴ちゃん、素直じゃありませんから」

「そうだったな」

「私も鈴ちゃんの件、どうすればいいのかわかりません……」

「…………」

「でも、先輩なら……先輩なら、きっと鈴ちゃんの心を開くことが出来るはずです」

「…………」

「私、鈴ちゃんの友達なのに……。悔しいです……」

「仲野……」

「友達が困っているのに、なんの力にもなれないなんて……」

「大丈夫だ、仲野」

「先輩……?」

「お前の気持ち、無駄になんかしないさ。俺が必ず、鈴の問題を解決してやる」

そうだ、仲野が父親との事情を教えてくれなければ、なんの糸口もなかったんだ。どんな事情があるかはわからないが、それでも大きな前進であることに変わりはない。

「それになにかあったら、相談してもいいか? 鈴の親友である仲野が、1番頼りになるからな」

「わかりました」

「俺、もう行くから」

「先輩」

「ん?」

「鈴ちゃんのこと……よろしくお願いします」

「おう」

俺にもどうすればいいかなんてわからない。でも、決意だけは固まった。鈴が俺の家に居候してくれるのはずっと一緒にいれるし、嫌ではない。だからって、このままではダメなんだ。時間は解決してくれない。先延ばし、あるいは忘れるだけで解決ではない。どうにかして、鈴から聞き出さないとな。

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