覚醒
後半戦がスタートした。
そしてあるチームが前半戦とは違い、ガラリと変えたスタイルで勝ち進んでいった。
そのチームは千葉ヤンキースだ。
今までは3番陳、4番守山のパワフルはバッティングで打ち勝ってきたチームだが、後半戦に入り、打線を1番陳、2番守山と大幅に打順を変えてきた。
初回の1,2番バッターで相手にプレッシャーをかけてくる超攻撃型野球で相手を飲み込む。
元々投手陣の防御率は悪く、低投打高のチームだったが、短所を捨て長所を伸ばす事に着目した。
打線というのは常に爆発するものではない。
ならばどうやって勝ち抜いてきたのか。
このチームは投手より野手が主役のチームだ。
野手の持つ能力を存分に発揮する野球を展開した。
野手は打つだけが仕事じゃない。守備もあれば走塁もある。
選手のほとんどは育成から這い上がってきた。
打撃だけではなく、守備も走塁もそれなりに能力がないと一軍に上がってこれない。
首脳陣はこのハングリーな持ち味を全面に出すプレイを打ち出す。
どんな形であろうと塁に出る。
どうやって得点を上げるのか考え、時にはわざと死球で出塁し、普通では考えられない走塁をしてくる。
そして点を獲る為にスクイズやホームスチール等、揺さぶりをかけてジワジワと得点を重ねていった。
対戦相手のデータを研究し、極端なシフトを敷いて、安打性の当たりもアウトにしてしまう。
いきなり超前進守備を敷いてきたり、センター方向をがら空きにさせたり。
どうぞ打ってくださいとでも言うべき守備位置で相手を挑発する。
ただでさえヤンキー上がりでケンカっ早いナインが威圧感たっぷりで心理的揺さぶりをかけてくるから対戦相手は萎縮してしまう。
そこにつけこみ、そつのない点の獲り方をする。
この戦法に変えてから一気に2位まで浮上した。
あり得ない戦法だが、それが成功してしまうのがヤンキースの恐ろしさだ。
ゴールデンズ、ボンバーズ両チームに勝ち越し、今日からヤンキースとの三連戦が静岡エンペラーフィールドでスタートする。
エンペラーズは辛うじて首位に立っているが、ヤンキースとのゲーム差は僅か0.5。
それを追うようにボンバーズが1ゲーム差で、ゴールデンズは2ゲーム差で4位にいる。
ヤンキースの存在で俄然ペナントレースの行方が解らなくなってきた。
エンペラーズの先発は榊
ヤンキースの先発は片岡
片岡は右のサイドスローで、ここまで9勝6敗 防御率は4.27と数字は良くないのだが、勝ち星に恵まれている。
これといった特徴のない投手だが、大胆な攻めで相手の裏をかいてくる投球術でバッターを翻弄する。
かくして試合はスタートした。
1番バッターはサードの陳
榊は初球インコース高めにストレートを投げた。
陳は柔軟なリストでバットにボールを乗せるような感じでライトに運んだ。
これがレフトスタンド最前列に入り、プレイボールホームランをやってのけた。
唖然とする榊。
陳の【台湾マッサージリスト】と呼ばれる抜群のリストで上手く逆方向へうちかえした。
たった1球で榊は1点を失った。
続く2番は昨年のホームラン王、守山。
これがヤンキースの恐怖の打線である。
いきなりピッチャーはピンチを迎えるのである。
同様した榊は守山にストレートのフォアボールを与えてしまう。
続く3番菊地の初球で守山が走った。
裏をかかれたバッテリーは盗塁を許してしまった。
巨体の守山が走ってくるとは予想出来なかったからだ。
菊地は榊の立ち上がりを攻め、甘く入ったスライダーを捕らえセンター前へ運んだ。
守山が一気に三塁を駆け抜けホームへ突入。
わずか三球で2点を失った。
榊は平常心ではなかった。
すかさず佐久間コーチがマウンドに上がり榊に気合いを注入する。
「どうだ!やれるのか、おいっ!」
佐久間が榊の頬を張った。
「やってやる!#εΗ♪%%」
まだ榊は平常心を戻してなかった。
もう1発佐久間が張った。
しかし、力を入れすぎたせいかモロに榊のアゴに入り、榊はダウン。
なんとコーチがピッチャーをマウンド上でKOしてしまったのである。
ヤマオカはすかさず主審にピッチャーの交代を告げた。
しかし2番手ピッチャーもまだ肩が出来上がっていない為、連打を食らう。
「今日のゲームは捨て試合だ」
佐久間がヤマオカに告げた。
「しかしいきなりKOとは佐久間さんまだパンチ力あるね~」
かつては武闘派で知られた佐久間だ。
何人もの選手を病院送りにした球界きってのセメントファイターだ。
それにしても哀れなのは榊だ。
たった三球で2点を失い、おまけに佐久間にノックアウトされたのだから。
「いや、アイツが正気にならないのが悪い」
佐久間はドカッとベンチに腰掛け一服していた。
「まぁたまにはいいんじゃないの、ワハハハハハ」
ヤマオカの高笑いが響いた。
結局試合は6対3で敗れた。
エンペラーズは勝つには勝ったが、いきなりコーチが選手を倒し、後はどうぞご自由にと試合を諦めたような雰囲気のエンペラーズベンチの行動が読めない。
ある意味エンペラーズも揺さぶりをかけてきたのだろうか。
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