彩香の願い

何故、彩香がここまで珍太朗に加担するのか。


それは彩香の恋人である、大和の存在が大きいからだ。


大和と彩香は結婚を前提とした交際をしている。


その大和がハードパンチャーズのインチキ野球に悩み苦しんでいる姿を見る度に、何とかしなければ、という想いにかられ、意を決して珍太朗の話しに乗った。


珍太朗は監督就任時から、ハードパンチャーズの噂は聞いていた。

そして何より、大和に対する評価は高かった。


(あんないい選手をハードパンチャーズのインチキ野球に手を染めてはいけない)


球界を代表するショートストップを喉から手が出る程欲しい。


ショート大和、センター櫻井という理想のセンターラインの一角が出来る。


もし、ウチじゃなくてもいい、大和はハードパンチャーズにいるような選手ではない。

他の球団で自分らしさを発揮して欲しい、一野球人としての願いだった。


珍太朗はパンチャードームに来る度、欠かさず挨拶をしてくれる彩香と色々な話をするようになり、大和と交際している事も話してくれた。


珍太朗が冗談半分で、大和はウチに来てくれないかな、と言ったところ、彩香は思い詰めた表情をして、珍太朗に打ち明けた。


珍太朗も彩香を不憫に思い、今回の作戦を実行した。


その為には彩香の協力が必要だったからだ。


「これで宇棚さんの力になれるのなら、父も天国で喜んでくれます」


と、亡き父を想い、彩香は協力してくれた。


珍太朗は作戦が終わったら彼女の父親の墓前で手を合わせよう。そう心に誓った。


「で、あのGMさんは何を話してくれたのかな?」


珍太朗は本題に入った。


「ご子息は私を見るなり、【私宇棚ひろし言います(^-^)私プロ野球選手です(^-^)】とか言ってくるんですよ。GMは選手だと勘違いしてるのでしょうか(笑)」


「いや、その、ホントバカ息子で面目ない」


頭を掻きながら珍太朗は申し訳なさそうに再度頭を下げた。


「いえ、宇棚さんのせいじゃありません!ご子息が理解出来ないだけです」


「まぁ、アイツは頭がアレだからね。話聞いてて疲れなかった?」


ひろしと会話するには、かなりの体力と忍耐が必要だ。


「私、へぇースゴい 、そうなんですかぁ?ぐらいしか言ってないですから(笑)」


上手くかわしたらしい。


一番の手段だ。


「あ、それとこれ、バッチリ録ってきましたよ」


彩香がポケットからボイスレコーダーを取り出した。


「ありがとう彩香クン、君には感謝するよ。これがあれば君も大和も自由になれる」


「宇棚さん。こちらこそありがとうございます」


彩香は深々と頭を下げた。


「後の事は我々に任せて欲しい」


珍太朗はそう言い残すと何も注文せずに店を出た。


珍太朗の後からエージェント達も次々と店を出た。


「 I'm counting on you guys(後は頼んだぞ)」


そう告げて珍太朗はホテルへ戻った。


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