ミカ 9
「・・・あれ?いない・・・」
客室前の廊下に辿り着くと、そこには係員の姿は見えなかった。
おかしい。
さっきまで、客室のドアを見張るような感じで、そこに立っていたのに。
室内へ入るが、やはりそこにも姿は見えない。
帰ったのかしら?
そもそも、今日は一緒に来てなかったし、別の用事でも思い出したとか?
まぁ、居ないって事は好都合!
何食わぬ顔をして、ここで涼が帰ってくるのを待っていればいいわ。
でも、保健室で4人殺した事、バレちゃうかしら?
ん~・・・・、まぁバレたらその時にでも、考える。
とにかく今は・・・・・。
テーブルの上に置きっぱなしにしていた、パンに貪り付く。
もっともっと食べないと、痛みが襲ってくるのを1秒でも遅らせなくちゃ・・・・。
それから数十分経った頃、
「・・・・終わったよ」
顔に返り血を浴びた涼が、校長と共に戻ってきた。
「・・・・かえり・・」
口の中がモゴモゴしてて、上手く喋る事が出来ず、急いでそれを飲み込む。
「ったく、お前は食ってるだけで羨ましいよ。帰るぞ!」
1つ嫌味を吐くと、涼は客室から出て行った。
好きで食べてるんじゃないのよ!
文句を言うなら、アタシが殺したのに!
いえ・・・、むしろアタシが一人でも多く殺したかったのに・・・。
涼の後を、パンをかじりながらついていく。
時間はまだお昼になっていない。
今日はこれで討伐完了?
ホテルに戻るのかしら?
そんな淡い期待は、
「次は○○小学校っと・・・・」
涼の大きな一人言でかき消された。
な~んだ、梯子するのね。
次こそ、アタシが殺していいのかしら?
別の期待に胸が膨らむ。
車に乗って早々、涼は目をつぶる。
どうやら今回の移動時間は、寝て過ごすみたいね。
でも、眠る前に言いたい事があったアタシは、涼の肩を揺さぶると、
「ねぇ!次の討伐はアタシにやらせて!」
必死に、アタシらしくないお願いをする。
任務を真面目にこなしたいから、言ったのではなかった。
一人でも多く、殺したいから立候補しただけ。
すると、涼はウザそうにアタシの手を払いのけながら、
「あぁ、いいよ。わかったって」
次の討伐を、アタシに任せることを約束した。
「本当?絶対よ!約束ね!」
半分寝かけている涼の肩をバシバシ叩く。
「・・・・うるさいなぁ・・・・、寝かせてくれよ」
何度も涼に手を払いのけられたけど、それでもアタシは涼の肩を叩き続けた。
こいつって、キモイだけじゃなく、案外いい奴なんじゃん!
思う存分叩くと、涼を開放した。
あんまり調子の乗ってキレられても嫌だしね。
次の討伐する番がアタシって事は、もうパンを食べる必要はないか。
パンを座席に放り投げると、外の景色を眺める。
曇った空。
今にも雨が降りそうだ。
空を眺めるなんて、何年ぶりだろう。
学校に通ってる頃なんて、空を眺める暇もなく、遊んでたんだっけ?
漆黒の翼を埋め込まれてからは、ずっと薄暗い室内でひたすらトレーニングと人殺しの繰り返し。
やっと外に出れたと思ったら、寝る暇もなく永遠食べ続けるという地獄の日々。
ゆっくり空を眺めるなんて出来なかった。
右手の痛みを感じる事なく、穏やかに空を眺める事がこんなに幸せだなんてね。
違う。
本当は、戻りたいの。
昔に。
今思えば、あの頃が一番楽しかったから。
何も考えず、学校に通っていた頃に。
彼氏とラブラブだったあの日に。
サナエが隣で笑っていてくれた、あの時に。
戻りたいの。
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