第29話マリア 6

それから数ヶ月経った。


時が経つにつれて、マリアお姉ちゃんの怪我は治っていった。

私も、どういう風に立ち回ればいいのか?わかっていき、ミスをしなくなった。

ペナルティーもお仕置きからも、逃れる事が出来た。


だけど、ペナルティーやお仕置きを受ける子達も居るわけで・・・・、

今まで一緒の暮らしていた子が、突然消えたりする事があった。

お部屋に居る人数が減ったと思うと、何処からか?きた子がまた補充される。

ココがどういう場所なのか?知らないで、どこからから連れて来られる。



常に部屋には10~15人の子供達で溢れていた。

それだけの子供達が居るっていうのに、部屋の中はいつも静か。

誰も騒ごうともしない。

常に、皆床を見ていた。



そんな情景が、私には不思議に思っていたのに、

気がつけば、私もその中の一員になっていた。



鏡で自分の顔を見ると、私の目も死んだ魚みたくなっていて、

初めて会った時の、マリアお姉ちゃんと同じ顔だった。



もしかして、マリアお姉ちゃんは初めから、死んだ魚のような目をしているのではなくて、

元々の目は、もっと生き生きしていたのではないだろうか? そんな事さえ、思い浮かぶ。



私、見てみたいわ。

マリアお姉ちゃんの 元の目 を。




昼食を食べ終え、部屋で大人しく、夕食の時間を待っていた。

窓から、綺麗に晴れ、澄み渡った青い空を見た時、



「ねぇ、マリアお姉ちゃん。

私、マリアお姉ちゃんの本当の顔が見てみたいの。

いつか、ココを出て、自由に外を歩く事が出来たら、その顔を見る事が出来るのかしら?」



私はポツリと囁いた。

すると、マリアお姉ちゃんは、相変らず無表情のまま、



「本当の顔?これが、私の本当の顔よ、変な子ね。

でも、いつか、自由に外を歩ける日が来るといいわね」



そう答えた。



自由に外を歩ける日は、来るのかしら?

それが果てしなく遠く感じる。



我慢が出来ない、早く外へ出たい!青い空が見たいの!

私の中で、そんな欲が沸き起こってきた。


「真夜中に、皆で逃げるのよ!」


それを切り出したのは、私だった。



「ココから出る事が出来るの?」


「外に出たい!」


そう言う子も居れば、



「逃げる?」


「どうやって?」


不安に思う子も居る。




「大丈夫よ!真夜中には、シスターも眠っているわ!

外も暗いし、その隙に皆で、逃げましょう!」


私は、上手くいくと思ったの。

だから、この作戦を押し切った。


この建物の外になんて、ココに来た時以来、出たことないのに。

今思えば、浅はかな考えだった。





「早く、布団を敷いて寝なさい!」


いつものように、シスターがそう言うと、布団を敷いたのか?確認もせずに扉を閉めた。




「いい?皆、布団は敷くの!

とりあえず・・・そうねぇ、布団に入ってから、数を1000数えましょう。

その位数えたら、きっとシスターも寝てるわ!」



時間の感覚もなければ、一般的な生活も知らない。

この施設が全てだった。


だから、私みたいな生活を、皆しているとおもったの。


シスターも夜になれば、布団を敷き、あっという間に眠る。

そう思っていた私は、自分の立てた作戦が完璧だと思った。

だからこそ、失敗するはずはない!そう考えていた。

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