第26話マリア 3



食器にスプーンがぶつかる音しか聞こえない、静かな夕食。

皆、言葉を一言も発する事もなく、淡々と食事する。



「ねぇ・・」


隣に座る、マリアお姉ちゃんに声をかけようとすると、


「シッ!」


マリアお姉ちゃんは、唇に人差し指を当て、黙るよう指示を出す。

お食事中にお喋りする事は、この施設ではルール違反になるみたい。

ううん、お食事中だけじゃないわ。

お部屋に居る時も、廊下を歩く時も声を出すことは許されない。

それは何故だろう?




そんな事を考えていると、



カラン・・・。



何がが床に落ちる音が室内に響いた。

その瞬間、食堂に居た子達皆が、ビクリと反応をする。





「誰?スプーンを落としたのは・・・・」


シスターの声が室内に響く。


皆、視線をテーブルにあるお皿に落としたまま、顔を上げようとしない。

シスターは席から立つと、ゆっくり私たちの周りを歩き始めた。

スプーンを落とした犯人を捜しているみたい。



すると、一人の男の子の前でシスターは立ち止まると、


「落としたのは、貴方ね。全く、手のかかる子なんだから・・・・。

ペナルティーを与えます。こっちへ来なさいっ!」



男の子の髪の毛を鷲づかみすると、椅子から引きずり落とす。




ドタッ!



男の子が椅子から落ちたと同時に、椅子も床に倒れた。

その大きな音に、その場に居た子達は、振るえ始める。

私も、あまりの出来事に声を出すことが出来ず、

ただ、男の子がシスターに引きずられ、食堂から出て行く所を目で追うしか出来なかった。


シスターと男の子が完全に消えると、


「ボーっとしてないで、早く食べなさいっ!」


別のシスターの怒鳴り声が響く。

その声と共に、皆一斉にスプーンを持ち、必死でご飯を食べ始めたのだけれど、

私は、手が震え、スプーンをしっかり持つ事が出来なかった。




「後3分で食べなさい。残したらペナルティーを与えます」


シスターの声が響く。

ペナルティーって何?お仕置きって事?

それが何か?わからないけれど、早く食べなくちゃいけない!それだけは理解出来た。


でも、手が動かない!



もう、ダメ。

私もペナルティーを受けることになる!



そう覚悟した時、隣に居たマリアお姉ちゃんが、自分の空っぽになったお皿と私のお皿を瞬時に交換し、

残ったご飯を必死に口の中に押し込め始めた。



その様子をシスターが見逃すはずもなく、



「マリア!何しているの?規則違反よ!ペナルティーを与えます!」


怒鳴り声が響く。




マリアお姉ちゃんがペナルティー?!

私のご飯を代わりに食べたから・・・・?


そんなの嫌!

でも声が出ないの!


声は出なかったけれど、そのままマリアが連れていかれるのは嫌だと思った!

せめて、抵抗だけでもしようと、席を立とうとした時、



マリアお姉ちゃんは私の腕を力強く引っ張り、こう囁いた。



「私は大丈夫」



マリアはそのままシスターに連れられて、食堂を後にした。

私達はその後、食器をキッチンへ下げ、片付けをしてから、部屋に戻った。


部屋には、スプーンを落とした男の子の姿も、マリアお姉ちゃんの姿も無かった。



ねぇ?何処に行ってしまったの?



私は大丈夫


マリアお姉ちゃんは囁いたけれど、私には、 大丈夫 には思えなかった。

ねぇ?ペナルティーって何? 何をされるの?

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