第60話生活設計

「これが、障害者の為の相談室のページ、こっちが就労移行支援」


 テーブルを挟んで桜は説明しました。開いているのは町の障害者向けパンフレットです。


 やる気満々のさくらですが、説明を受ける方は、はあ、と受け流しています。


「ダメよ、しっかりしなきゃ」


 と桜。


「まあ、ちゃんとやるよ」


 返事とは裏腹にいつもの元気がありません。


 桜が相手に厳しくするのは理由があって、彼が仕事をしていないと最近知ったからでした。


 一方、移行では将来の生活設計について話をする時間がありました。


 どれくらいお給料をもらったら、年金と合わせてどれくらいの生活ができるか、考えました。


 桜は急に不安になりました。もし将来結婚することがあれば、子供は欲しい。けれど、もしそれが障害者同士であればどうなるのかしら。お金が、絶対的に足りません。


「もしお金がないのに子供が欲しい時はどうしたらいいでしょう?」


 桜の質問に対して、移行の職員は厳しく答えました。


「お金がないのに子供を欲しがるのは無責任だと思います」


 衝撃でした。もしあのまま同級生の彼とつき合っていたら子供を産めたかもしれないのに、障害者同士だとまず無理なのです。


 桜はずるいことを考えている、と知りながら、ある考えを止めることができませんでした。


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