男の妻

降り頻る雨のなか、廃屋となった個人経営の病院の戸を叩く男。

男は人を抱えながら泣き叫ぶ。

「妻が息をしていない、妻を診てくれ。」

抱えられている者は動かない。

既に死んでいるのではないかと心配になる。

少し近づいたところで違和感を覚えた。


裾は解れ、生地には所々に黄ばんだ染み。

生きている人間が着ていた衣服とは到底思えない。

更に近づくと、なるほど、違和感の正体は此故か。

男が妻だと言う其は、人形───マネキンを抱えて廃屋に訴えていたのだった。


関わりたくない私は、足早にその場から立ち去ることを選んだ。

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