第48話 フットボール以外何もいらない
「誰があそこまでやれっつったボケぇ!」
暁平の尻は再び弓立に蹴り飛ばされた。
政信や筧らにはすでに「慎め」とたしなめられたあとだ。五味にすらも「いやーキョウくん、あれはないっすわ」とダメ出しをされていた。
ピッチ上に散らばったごみはあらかた片づいたらしく、手伝ってくれていた姫ヶ瀬FCの会長と審判団とが何やら話しあっている。あの会長がいれば打ち切りにはならないだろう、と暁平は踏んでいた。今のうちにゲームの再開に備えなければ。
走ったりジャンプしたりして体を温め直す元気な者もいれば、水分を補給する者やマッサージをしてもらっている者もいる。そんななか、FCの背番号10、兵藤が真っ直ぐ暁平に向かって歩いてくる。
1メートルほど手前で立ち止まるのかな、という暁平の予想は裏切られた。30センチも距離がないくらいにまで彼は近づいてきたのだ。自分の息がかかってしまうんじゃないかと思うと呼吸もしづらい。
「あのさ――」近くないか、と言おうとする暁平より早く、兵藤の拳が暁平の胸にそっと置かれた。
「こう考えればいいんじゃないかな、榛名くん。ぼくらにはゲームの間だけ、他の何も気にかける必要がない、それが許されているんだって」
淡々と兵藤は続ける。
「フットボール、フットボール、フットボール。ぼくたちにはそれだけでいいんだ。ボール以外の何もかも、いらないものはすべてピッチの外に置いてこようよ」
こいつはいかれてる、とその発想の純粋さに暁平は鳥肌が立った。
生き方そのものがまるで違う。すべてを背負いこもうとして足がふらついている暁平に対し、兵藤は逆にすべてを削ぎ落とせと言う。
どう返したものか、とっさには言葉が出てこなかった。
「ここからラストの勝負、楽しみにしてるから」
握り拳を離した兵藤がそう告げて去ったあと、暁平は震えの止まらない自分の手をじっと見ていた。
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