まどろみの淵で
白雪 キトラ
第1話プロローグ
気が付いたとき、私の視界は黒で染め上げられていた。
なぜかはわからない。
ただ私の視界は一筋の光すら認識することはできなくなっていた。
ここはどこなのだろうか。
頬を撫でる風は生暖かく、ほのかに硝煙と鉄、そして血の匂いをまとわせて私の意識を否応なしにたたき起こす。
とりあえず、まず状況を確認するために体を起こそうとしたがあまりの激痛にまた倒れ込んでしまう。
まいったな。これではいい的ではないか。
それにしても不気味なまでに静かだ。
聞こえるのは風の音のみ。今この場を支配してるのは静寂だった。
相変わらず何も見えない中で手を動かすと何かが触れた。
手触りから考えるに鉄で出来たものだろうか。
持ってみるとズッシリ重いそれを刀だと認識するのに大して時間はかからなかった。
私の刀だ。いついかなる時も肌身離さず持ち歩いた刀だ。
私はここで戦っていた?
いや違うな。
戦っていたのではなく殺戮を繰り返した、だ。
自らの欲を満たすためだけに私は殺した。
村の一つを食い殺した。
女子供も関係なく、ただ殺した。
それも私の悲願のために罪もない人間たちを殺した。
そうすれば、強い奴と巡り会えると。
私を殺す人間に出会えるはずだと。
私を殺し得る誰かと出会うために殺し続けた。
そして…どうなったんだったか。
…それはそうとなぜ何も見えない。
夜だからだろうか。
いやそれにしてはおかしい。星の一つも見えない。
かろうじて首を動かすがやはり何も見えない。
痛みをこらえ右手を目元へ持っていくと手に水気を感じた。
そこでやっと思い出した。
もう私は、光を認識できなくなったのだと。
◆
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
もういっそこのまま死んでしまおうか。そう考えていた二つの足音に気がついた。
「おねぇさん、だいじょーぶ?」
声からするにかなり幼い。
少女だろうか。
それにしてはおそらく目の前に広がっているであろう惨状に動揺した様子は感じられなかった。
「おや、まさかまだ生きてる人間がいたのか。」
今度は男の声だ。
声を出そうとするとむせ返った。
咳をするたびに激痛が走り、改めて体が生きてることを実感させられる。
なぜかそこで笑いがこみ上げてしまった。
どうやら私はまだ死ねないらしい。
「元気なようでなにより、ここではあれだから私の家にくるといい。歩けるかい?」
刀を杖がわりになんとか立ち上がり男の声の主にむけて答える。
「無理だな、見ての通り満身創痍だ。」
「そうかなら仕方ない。運ぶとしよう。」
そういうと大きくゴツゴツとした手で体を掴まれたのち、宙に浮く。
そのまま肩に担がれたのだろう。腹部に圧迫感を感じつつ運ばれた。
「なぁひとつ聞いていいか。」
「なんだ。」
ひと呼吸入れ続ける。
「今は朝か?」
まどろみの淵で 白雪 キトラ @snowwaite
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