第49話 春の訪れ

風の中かすかに感じる春のにおい

垂れ込めた雲の合間にさす光

つかみたくて伸ばした指先は

ただ無意味な体を持て余す

存在をとりまく空気はまだ冷たく

無防備にさらされて震える体

突き刺さる錆びた時計の針が

ただ無価値な時を刻んで

掌からこぼれ落ちた時間だけが

鮮やかに色づいて見えるのはなぜ

無闇に傷つきたがる心が流す

血の色に似た花が知らせる春の訪れ

冬の寒さに冷え切った記憶よりも

ぬくもりに包まれた思い出だけが

無意識に縮こまる体と心を

柔らかく抱きしめて明日へ導く

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