第19話
教えられた道を進み、突き当たりを左に曲がると、特別目立つ建築物が目に飛び込んだ。
闇夜に浮かぶような純白の壁。周囲と比べて尖った屋根。ほぼ闇に沈んだ街の中でも、圧倒的な存在感と荘厳さを損なっていない塀に囲まれた建築物だった。
「これが、サラーズラドのゴート教会支部ね……立派なもんだわ」
「二人は、ちょっと待ってて。ぼくが話をつけてくるから。その方がスムーズだと思うんだ」
「あ、うん。頼んだよ、リリィ」
「うん! まっかせてー」
フェブリスでは見せないような軽やかな笑顔を見せて、キフェルリリィはぱたぱと駆けていく。正面ではなく、きょろきょろと左右を確認すると、左の方へ走り出し、塀の陰に隠れて行った。あとは待つしかないだろう。
再び安堵に胸を撫で下ろした刹那。
「うぐ?!」
右足を強く踏みつけられ、苦悶の声が漏れた。そろそろと足元を確認すれば、泥で汚れた黒いショートブーツ。見覚えのあるそれはリリヴェルのもので。
「痛いよリリヴェル……」
「もっと早く言いなさいよ!」
「あ、え、ああ……リリィの話?」
年頃の少女らしく膨れているリリヴェルに、オーヴスは頬を指でかく。
「リリィが今は言わないでくれって言ってたからさ……時期が来れば話すのかと……」
「お人好しと馬鹿は紙一重ね、ホントに!」
「そう言われると、まぁ。リリヴェルは、隠し事嫌うタイプだったの、忘れてたよ。ごめん」
素直に謝罪の言葉を紡ぐと、何故かリリヴェルは不意に表情が消える。ほんの、一瞬だけだったが。すぐにも膨れっ面でそっぽを向いた。
「次はちゃんと言いなさいよね」
「うん、気を付ける」
「ふたりともー! こっちこっちー!」
塀の向こうからひょっこりと顔を覗かせ手を振ったキフェルリリィに苦笑し、オーヴスは歩き出す。やや遅れてリリヴェルが歩を進めはじめ、ふと。
――ごめん。
リリヴェルが本当に小さな声で零したその言葉を、オーヴスは聞かなかったことにした。
どこか、それに返答する事自体がリリヴェルを傷つける気がしたのだ。
風に乗って、音楽が聞こえる。切なく儚い、歌を載せて。
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