第14話

 婆さんが手配してくれた車に乗って、僕らは夜明け間近の夜の街から移動を開始した。通りを走っていると遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。だが、とりあえずは心配ない。なんたって今僕らが乗っているのは、浅黒い肌の男が運転する外交官ナンバーのBMWだ。偽造か本物かわからないがこれなら確かに職質は受けない。

 後部座席には毛布がかけてあり、窓にはスモークが貼られていた。

 どうやらこの運転手、血に濡れたお客様を乗せる経験は豊富らしい。

 先輩の腿の銃創は、婆さんが応急処置をしてくれた。運転手が持ってきていた鎮痛剤が効いて、先輩は少し楽になったようだ。

 広い後部座席で先輩は身体を横にして楽な体制をとってもらった。僕が膝枕をする形になる。先輩の顔を見下ろすと、先ほどまで苦しそうだった呼吸も落ち着いてきたようで僕はホッとした。しばらくして薬が効いてきたのか、先輩は眠ってしまったようだ。

 婆さんが言うには、ちゃんと医者の手配もできているらしい。世の中にはカネさえちゃんと払えば普通の人以上の仕事をしてくれる裏の人がいるのだ。とにかく、先輩の銃創に関しては心配いらないとのこと。

 先輩の顔にかかっている髪の毛を整えてから、僕は先輩の手に自分の手を重ねた。


 今更ながら、よく助かったものだと思う。


 1日か2日、表に出ない方がいいと、助手席から婆さんは言う。まあ、あれだけやらかしたら、本部には必要な最低限の報告だけして、しばらく居場所を告げずに隠れていた方がいいだろう。

 今回の一件を思い返すと、本部に大きな穴が開いている可能性は高い。それと地下道の監視システムには間違いなくバックドアが仕込まれている。そうでないと待ち伏せの説明がつかない。提出しなければならない報告書の数を考えただけで気が滅入ってきた。

「ワタシのセーフハウス使ういいナ」

 婆さんは言った。車はそこに向かっている。治療もそこで行うという。僕は婆さんに礼を言った。

「アンタ、ケガ人看病ちゃんとやる、いいカ?」

 もちろんやりますよ。僕は強くうなずいた。

「あ、ベッド1つだけナ」

 そう言って婆さんはケラケラ笑った。運転手もラテンのノリで大声で笑った。

 僕は言葉に詰まって返答できずにいた。

 そして、眠ったままの先輩の手が、優しく握り返してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伝説のスイーパー 皆中きつね @kit_tsune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る