第一章

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。あたし別に具合悪くないし、あれからだって特に体調崩してたりはしてないよ。ただ、ちょっとだけ寝不足で頭の中がぼーっとしちゃってるみたい」


 傍目にもわかるくらいに、無理矢理な笑顔を浮かべる天音。


「大丈夫って……。あの飲まされた石は? どうなったの?」


「あー……、わかんない。何もおかしな感じしないし、気にしなくても平気なのかなって思ってるけど」


 言いながら、天音は軽く自分のお腹を擦る。


「……そういう素人判断良くないよ。行こう? 保健室。天音朝からずっと顔色悪いしさ、自覚がないなら尚更心配だし。早退しなくても少し横になっておくだけでも違うと思うよ」


 そこまで一気に喋って、私は意味もなく教室を見回しまた天音に視線を戻す。


「私も一緒についていくから。次の授業数学だし、事情話せば長谷部はせべ先生ならわかってくれるでしょ」


 長谷部先生は私たちのクラスの担任でもある。五十代半ばで小柄な、優しいお父さんみたいな先生だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る