第一章

 ――親には絶対に相談してないだろうし。


 釘を打たれてしまっている以上、天音が簡単に喋るとは性格的に考えにくい。


 大抵は何でも一人で抱えてしまうタイプだし。


 いつもならスムーズに経過していくはずの時間の流れが、今日は異様に遅く感じる。


 大して気にしないときや楽しいときはあっという間に過ぎていくくせに、どうして苦しいときや早く過ぎてと願うときはこうももどかしくなるものなのか。


 先生が話すほとんど意味のわからない英語を上の空で耳に入れながら、私はひたすら授業が終わる瞬間を待ち続けた。



 そして。


「ねぇ、天音。保健室に行こう?」


「……え?」


 やっと授業が終わり担当の先生が教室を出ていくのを確認してすぐ、私は天音の席へと移動して口を開いた。


 どんよりと濁ったような瞳を向けてくる友人に、ほんの少しだけ身が竦む。


 青白い顔と、濁った目。


 まるで長期入院している重病患者のような様相だ。

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