第992話 先祖を巡る冒険あるいはで九尾なのじゃ

 かくして、俺と加代さんの長きに渡る――というほどでもないがはた迷惑でハプニングに飛んだ旅路はここに終わりを迎えた。


 え、中国の方への挨拶はどうしたのかって?


「のじゃ、あっちにも確かに世話になったがのう。直接の血のつながりはないからのう。ハクが結婚するのならまだしも、わらわの挨拶は不要かと」


「あ、そういう。了解しました」


 ということで急遽の中国入りという展開はなくなった。

 いやまぁ、正直ここからさらにあちこち行く余力はございませんよ。申し訳ないとは思うけれども、まぁまた今度、機会が出来たらくらいにしておきたいと思う。


 なんと言っても、俺たちにはほぼほぼ無限の時間があるのだから。

 なので、いずれまたそういう日は巡ってくるだろう。


 そんなこんなで、パトナから列車に乗ってまたデリーにとんぼ帰り。さらにデリーのホテルで数泊。旅の疲れを旅先でしっかりと落とし、英気を養った所でようやく俺たちは帰国の途に就いた。


 いや、実際には、墜落事故についての調査やら何やらで拘束されたんだけれど。

 まぁ普通に考えたらそうなりますわな。


 そして事件について――飛行機内で墜落の原因になったクワガタムシと戦っていた俺たちに嫌疑の目が向けられるのは仕方なかった。

 そこはもう、全力で俺と加代さんはシラを切った。

 申し訳ないけれどシラを切った。


 そんな感じで、事情聴取を終えてへとへとの体でホテルに帰ってきたら、ピザをデリバリーした妲己さんが「流石に三食カレーとナンばっかりで飽きちゃった」とか言い出した瞬間、親子の情とか捨てて警察に突き出そうかと本気で思ってしまった。


 おまわりさん、しってます、事件の真犯人。


 けど、言った所で信じて貰えないだろうし、万が一にも捕まったら、それこそ謎の九尾パワーで無茶苦茶に周りに迷惑かけそう。なので結局黙ったのだが。

 さっそく、嫁の実家のことで頭を悩ますことになるとは思わなかったよ。

 いやもう旅行に出てからこっち、ずっとそんな感じだけれどさ。


 とほほ。


 孫の手前、少しくらい落ち着いてくれるといいな。


「それじゃあね、加代ちゃん、桜くん!! また結婚式で!! バーイ!!」


「のじゃ、気をつけて帰るのじゃママ」


「くれぐれも変なトラブルを起こさないように。そこん所、よろしくお願いします」


「大丈夫よ。私もいい大人なんだから、それくらい分かってるわ」


「「……不安だなぁ」」


「よっしゃ!! それじゃワイらも日本に戻るで!!」


「デース!! お米とお味噌汁が待ってるデース!!」


 かくして、妲己さんは再びエジプトに戻り、それからすぐ俺たちもなんとか押さえた飛行機で日本へと戻ることになった。


 結婚式の日取りについては追って連絡する。

 だが、そう遠くない日に会うことになるだろう。


 はたして今度会うときに、どんなトラブルを妲己さんが呼び込むのか。ぶっちゃけ彼女だけ結婚式に呼ばないというのも選択肢としてはありなのではないだろうか。なんて失礼なことを思ったけれど仕方ないよね。

 つくづく、結婚というものの難しさを考えさせられるよ。


 そんなことを思い悩んでいる内に飛んで大阪。

 関西空港に降り立った俺たちは、例によってまだまだ水際対策を徹底している感染症予防の検査を受けた。指定されたホテルで一日滞在して、陰性反応が出たのを確認してからようやく解放される。


 気がつけば、当初の予定では一週間に脚が出る程度の旅程を、倍近い時間をかけてしまった俺たちは、ほうほうの体でそれぞれの自宅に向かったのだった。


 玄関を開ければ、ただいまというより先になのちゃんのおかえりなのーという言葉が俺たちを待ち構えている。先んじて、電話で今日帰るとはみんなに伝えていた。それでだろうか、玄関には桜家一同が勢揃いしていた。

 そんな彼らの姿を見て、俺と加代さんはほっと息を吐いていた。


「桜、アンタいったいどこ行ってたの!! お父さんと心配してたのよ!!」


「こら桜!! お前な、旅行先から連絡くらい寄こしやがれ!! 当初の予定より大幅に遅れて帰ってきやがって――心配したんだぞ!!」


「桜どのなにかあったのか!? こんな大事な時期に!!」


「海の向こうでも相談してくれれば、すぐに魔法で駆けつけましたのに」


「なのっ!! 勝手にいないいないしちゃダメなの!! みんなみんなお兄ちゃんたちのこと心配してたなの!!」


「きゅるくるくーん!!(特別意訳:よく無事に帰ってきた!!)」


 みんなのそんな心配が本当にありがたかった。


 色々あったけれど、なんとか俺たちはこの家族の下に帰ってくることができたのだ。無事に、これからの新しい俺たちの生活に必要な禊ぎの儀式を終えたのだ。

 俺と加代さんは結婚という新しい営みを勝ち取ってこの日常に戻って来た。

 うまく言葉にできないが、それがとても嬉しい。


 気がつくと、みんながみんな俺と加代さんを心配そうな目で見ていた。


 親父、お袋、シュラト、アリエスちゃん、なのちゃん、そしてドラコ。

 彼らのそんな不安げな瞳に、どういう言葉を返せばいいのか、俺も一瞬わからなくなった。そうやって、家族のことをまるで自分のことのように心配してくれる辺り、本当に、俺たちは良い家族を持ったと思う。


 みんなと一緒ならば、きっとこれからも大丈夫だ。

 俺たちは家族として、正しいかはどうかは別として、楽しく生きて行ける。

 そして、新しくここに加わる子供達も、元気にそして少なくとも明るく育ってくれるだろう。


 探しても探しても見つからない言葉。

 そんな俺に変わって加代さんがみんなの前に出た

 こういうのは年上の自分に任せろとばかり、彼女は自然な感じに前に出ると非難の色が少し混じっているその視線に対して、堂々と胸を張ってみせた。


 ぴんとその尻尾と耳のつま先が伸びて、きゅっとその表情が引き締まる。

 駄女狐。お仕事をさせればてんでダメダメ、いつだってのじゃーんとクビになる彼女だけれど、やっぱりこういうのは年の功。

 三千年生きた加代さんに、人間的に俺はどうひっくり返っても敵わないのだった。


「みんな、ただいまなのじゃ!!」


「「「「「「……おかえり!!」なの!!」」」」」


 詳しい説明は要らない。

 家族は俺たちの何もかもを受け止めて、その帰宅を喜んでくれた。


 かくして、本当に俺と加代の長い旅は終わった。

 そして、これでようやく、俺と彼女が夫婦になるその準備は全て整ったのだ――。

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