第518話 幸運値反転で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 加代ちゃん亭、全焼する。

 マッスルグレート戦士たちにキングシロアリ退治を頼んだ桜たちは、そのワイルド&タフな退治方法――家ごと燃やす――により、家無し人になってしまった。


 はたして、加代ちゃんたちの明日はどっちだ。


「のじゃぁ!! こんな炎の出発たびだち、あんまりなのじゃぁ!!」


「ゴブリンに家でも焼かれたのかって煽りがあるけど、俺の中でファンタジー戦士に対する怒りがまさにそれだわ――あかん悪落ちしそう!!」


「甘ったれるなこの軟弱者たち!!」


「家一個、燃えるだけで、済んだことを、幸運に、思いなさい!!」


「「うっせぇフォックス!!」なのじゃ!!」


 郷に入りては郷に従え。

 しかし、あまりにもワイルドなその解決法に、怒りしか湧かない桜たちだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「え、また空き家を紹介して欲しい?」


「えぇ。可及的速やかに」


「のじゃぁ。家がなくなって、一緒に貯金も燃えてなくなってしまったのじゃぁ。もう一度、空き家に住まわしてもらうしかないのじゃ。どうかこの通りなのじゃ」


 街を管理している庁舎。

 今にも本日の営業を終えようとしているそこに泣き入って直訴する俺と加代。

 俺たちが住んでいた家を紹介してくれた職員さんを見つけるや流れるような所作で土下座を決める。

 そして俺たちは、恥も外聞もなくここに至るまでの経緯を彼に語った。


 もうなんというか、必死であった。

 先に言った通りである。家が燃えてしまったせいで、せっかく稼いだ金も一緒に燃えてしまったのだ。つまり無一文。宿に泊まろうにも金がない。


 異世界ホームレスまっしぐらという奴である。


 貧すれば鈍するというかなんというか、細かいことにいちいち構っている余裕もなくなる。家を燃やしたマッスルグレート戦士たちに対して、いろいろ言ってやりたいこともあったが、そこをぐっとこらえてまずは寝床の確保を優先した。


 俺たち二人だけならばなんとかなる。


 ダイコンもまぁ土に埋めておけばなんとかなる。


 だが、なのちゃんやドラコについてはどうしようもない。


 モンスターとはいえまだ幼い幼女。

 ドラゴンとはいえ庇護欲そそるペット。

 あの二人をむざむざと寒い夜に晒すような、そんな真似は俺たちにはできはしない。彼らになんとか温かい寝床を与えてやらなければ。その一心で、俺と加代はひたすらに駆けに駆けて、夕日に暮れなずむ街の役場に急ぎ駆け込んだのだ。


「のじゃぁ!! どんな酷い物件でも構わないのじゃ!!」


「とにかくなんとかするから!! もう、冒険者を頼らずに、自分の力でなんとかするから!! お願い、お家を紹介して!! プリーズ、ギブミー、ハウス!!」


「ちょっとちょっと、落ち着いてくださいよ。そんな声を荒げなくても」


「「一刻も争うんだよ!! 頼むよフォックス!!」なのじゃ!!」


 そう言われてもねぇと顔を背ける役所の職員さん。

 気難しそうに眉根を寄せた彼は、初めに会ったときには少しも感じさせなかった、いかにも役人という感じの表情を俺たちに向ける。


 なんだろう。

 いきなり風向きの変わった感じだ。


 ちょっとばかり背筋に冷たいものを感じる。

 前の世界でさんざん経験した、世間様に見放された感。

 それを、目の前の職員さんの表情から感じる。


 おそらく、その感じは俺たちの勘違いではない。

 思わず強張る体。ごくりと鳴る喉。そんな俺たちに向かって、残念そうに、職員さんはその首を横に振った。


 拒絶の仕草。

 それ以外の何物でもない。


「すみません。空き家の紹介は、原則一世帯につき一回のみなんですよ。回数制限を撤廃しちゃうと、そういう商売に繋がっちゃうっていうんで、国から厳しく制限されているんです」


「のじゃぁ!?」


「ふざけんなよ!! なんでそういうとこだけシビアなんだこの世界は!!」


「いや、そう言われても。ルールはルールですから」


「「そういうとこ!! そういう、とこだよ!!」なのじゃ!!」


 他の所はガバガバなのに。

 冒険者が勝手に人の家に火をつけようと問題にならないのに。

 なんでそういう所だけ、元の世界と同じでお役所気質なんだよ。


 信じられんよフォックス。

 もうちょっと融通利かせてよフォックス。


 というか、幸運値カンストしているんじゃないのかよ、フォックス。なんでいきなり、こんな坂道を転がり落ちるような、貧乏展開になるんだフォックス。


 突然降りかかった災難に、うなだれるしかない俺と加代。

 ここ最近調子がよかっただけに、唐突の不幸が辛い。

 というか、この世界ではお気楽展開が約束されていたんじゃないのか。話が違うよ。なんでこんな、こんなことに――。


「やれやれ、困った市民さんですね。生きていれば、それは山あり谷あり棒アリぽっちあり。いろいろあるもんでしょ。これくらいのことでくじけてしまうとは、おぉ勇者じゃないけど情けない」


「「そ、その声は――!!」なのじゃ!!」


 俺たちに家を紹介してくれた職員さん。

 その背中からひょっこりと顔を出した、なんとも街の役場には不釣り合いな顔。

 真っ赤な髪に、真っ赤なフレームの眼鏡。そして、眼鏡をかけても隠すことができない、腹が立つほどのにやけ顔。


 その声は、忘れようと思っても忘れられない。

 その顔は、網膜にまで焼き付いている。

 そして、こういう時、決まって現れるのはお約束。


「どれどれ、突然の幸運値の減少に戸惑っておいでだね。その辺り、チュートリアルしてあげないと、可哀想かしらね。という訳で、おひさしおひさしー」


「アネモネ!!」


「のじゃぁ、駄女神なのじゃぁ!!」


 駄女狐に駄目と言われる駄女神。

 負けじと劣らずのくわせものの。

 異世界の女神アネモネ眼鏡Verであった。

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