第190話 コネばっかりはで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
社長派である白戸に接触することを決めた桜。
部内会議が終わった直後、はからずとも彼の方から接触をはかられた桜は、彼から直々に仕事を手伝ってもらえないかと、相談を持ち掛けられるのであった。
「ところでお前、毛糸のパンツとか穿いてるのか」
「のじゃ、冬はあったかく、夏は涼やかで気持ちいのじゃ」
「ふぅん」
「あと、自分で作るから経済的なのじゃ――」
「おまえまさか」
◇ ◇ ◇ ◇
俺たちにしかできない仕事、というのは、なるほどまさしくその通りだった。
「のじゃのじゃ。なんでも仕事はやっておくものなのじゃ。何が自分の人生につながるか、分かったものではないのじゃ」
「本当だなぁ」
そう言って立っているのは、都内でもそこそこの規模を誇る某テレビ局の前。
俺たちにしかできない仕事というのはここにあった。
某テレビ局のスタジオ建て替え業務。
それが俺と加代が白戸から任せられた仕事の内容であった。もちろん、テレビ局のお仕事というだけで、俺だけではなく俺たちに任せられた訳ではない。
「よっ、お久し、加代ちゃん、桜くん」
「相変わらずラフな感じだなライオンディレクター。あんた雇われじゃなかったのか」
「雇われだよぉ。けどまぁ、スタジオ一番使うのは俺だし、もともとここに勤めてたのもあるし――つう訳で、最高責任者とか任されちゃうんだから、世の中よくわかんないよね。あははっ」
そう。クライアント側の責任者として、俺たちの知り合いが出てきた。
そして現在の俺たちの置かれている状況を察して、よかったらと声をかけてくれたというのが、この仕事の真相である。
とはいえ、いくら顔見知りだからって、そうそうすんなりと話が通るわけじゃない。
「一応、スタジオの設計書と見積もりは持ってきてあるけど」
「あぁうん、あらかじめメールで送ってもらったファイルは見たよ。見積もりを上層部に見せた感じじゃ、あんまりいい顔はしてなかったなぁ。もうちょっと安くなるんじゃないかって」
「いや、結構利益薄いですよ」
「知ってる。俺もそいつら相手に仕事してるから。あいつら、ほんと、なんでも言えば安くなると思ってるからな。世の中、値段のつけられるもんばっかりじゃないってのが分かんないんだよ」
「たいへんですね」
「だから辞めて、自分で制作会社立ち上げたってのにさ。変な話もあったもんだよな」
とりあえず、会議室の方へ行こうか。
テレビ局の建物を後ろ指で示すと、ライオンディレクターはがらにもないくたびれた表情を俺たちに見せて言った。
実力があって人望もある。実績もあるというのに、なかなか思うように生きられない、というのは、なんだかなというものである。
日本というのはほんと、才能のある人間に生き辛いようにできているのかもな。
知らんけれど。
◇ ◇ ◇ ◇
テレビ局の会議室を一つ借り切って打ち合わせ。
もう本当にライオンディレクターに丸投げされているらしく、テレビ局の人間はまったく顔を出す気配はないらしい。
俺と加代、ディレクターで、六人掛けくらいの部屋を占拠するのは、いささか抵抗感が強かったかが、まぁ、こういうことも仕事をしていればある。
「のじゃぁ、いいのかのう、いいのかのう。こんないい部屋を
「いいんだよ、そういうもんなんだから」
「のじゃ。
「今日はテレビのお仕事で来たわけじゃないんだから、そこは切り分けろ」
そわりそわりとすわりの悪い加代をまずは椅子に座らせる。
変わんないないなぁと、面白そうにそれを眺めていたライオンディレクターは、それから咳ばらいをすると、あの日、番組を打ち切って日本へ帰るときにみせたような、真面目な表情を俺たちへと向けた。
新規スタジオ建設の責任者として、彼もそれなりに気負うところがあるのだろう。
「今のところ、他社にも見積もりを出してる。上層部が乗り気なのは、昔から付き合いのあるところでね、値段も仕事も適切だろうと、ほぼそれで内定を出そうとしているところだ」
「けど、判断をライオンディレクターが任されてるってことは」
「これからのテレビ番組を支えていくうえで、何が必要なのか、一番わかってるのは俺たち映像を造ってる制作会社だからね。使えない
桜くんのところ――ナガト建設が出してきた書類には、面白さがあったよ、と、さりげなく褒めてくるライオンディレクター。
どうやら、彼としてはウチの仕事を取りたいらしい。
なるほど、それで俺たちの登場という訳か。
「まどろっこしいところをすっ飛ばして、上層部を納得させるには、ナガト建設の仕事が理に適っていると、ちゃんと示して見せる必要がある。どうだろうか桜くん。そういうの、できそう?」
「できそうっていうか、やらなくちゃならないんでしょう?」
「そのいきだよ。いやさ、最初会った時は、頼りなさそうな今どきの若者って感じだったけど、気力あるよね、君ってさ」
そりゃどうも。
ちゃらんぽらんなアンタに褒められて、うれしいかと言われれば微妙なのだけれど、一応お礼を言っておく。
「という訳でだ、同業他社にはできない強み――二人ともタレントやってるっていう特性を生かして、ちょっとしたプレゼンをしていただこうと思っているんだ」
「プレゼント!? なんかくれるのじゃ!?」
こいつのことは置いといて、と、身を乗り出した加代を押しとどめる。
もらうんじゃなくて、こっちが、やるんだよ。
テンパってる加代をよそに、俺はディレクターから一枚の企画書を受け取ったのだった。
「――ここのテレビ局の深夜番組なんだけれどもね、その企画書。まぁ、読んでもらえばだいたい、どういう意図かは分かると思うよ」
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