第181話 十一人くらいいるで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
屋上で、清掃員として働いている加代、そして、会社の会長と合流した桜。
桜は会長からあらためて、自分を殺そうとした、自社内の人物の探索という
◇ ◇ ◇ ◇
話は数日前――潮干狩りで気を失った三国会長と出会った日にさかのぼる。
彼はあの日、まったくの部外者である俺と加代、そしてブリさんに、自分の置かれている状況について語った。
彼はここ数か月、不思議な命の危機に何度となく巻き込まれているのだという。
「工事現場での事故なんてのは、私も一職人の身から這い上がって来た人間だ、注意をしているし、肌でそれが起こる感じがわかる。しかしね、だからこそだよ、ここ最近私の周りで意図的な事件が起き過ぎている」
「もうろくしてるだけなんじゃないのか」
「釣りに来て眠りこけて溺れ死ぬなんて普通に考えてあると思うかね」
「自分がボケてきたことを認めたくないんでしょう。まずは手始めに老人ホームに入ったらどうです」
「他にも、電車移動の途中で背中に気配を感じたり、タクシーに乗っていると尾行されていたり」
「自意識過剰なんですね。いやはや、会長業ってのもストレスたまるものなんですね」
「のじゃ、桜よ、真剣に悩んでおられるのに、そんなちゃちゃ入れたら可哀想なのじゃ」
岩場から引き揚げて、ブリさんの活動拠点でひといきついていた俺たちに、青ざめた顔で三国会長は自身の周りで起こっている不審な出来事を語った。
始まりは、確かにそんな、ちょっと気のせいではないのかな、というような些細な違和感だったのだが、徐々に彼の語る内容は不気味さを増していった。
突然狙ったように襲い来る眠気。
目の前で巻き込まれることを願ったような陰惨な交通事故。
庭で飼っていた愛犬の中毒死。
いきつけのバーで発生した大規模な抗争。
ジョギングコースで発生した通り魔事件。
持病のために通院していた、かかりつけの病院で発生しかけた医療ミス。
そもそもこんな凶行が続くものなのだろうか。
何かがおかしい。
そしてそれと時を同じくして、彼の社内で派閥対立が激しくなってきた。
三国会長の息子である現社長派と、共同創業者であり多くの古参役員の支持を得ている副社長派による、他派閥の事業の妨害や優良顧客への囲い込み。
どちらに対しても、公平に接している会長である三国会長は、そのどちらからも狙われる可能性を秘めていた。
もちろん、実の息子、そして戦友ともいえる共同創業者を、疑いたくはない――だが。
「今日の一件でふんぎりがついた。誰かが、私のことを亡きものとしようとしている、それは疑いようのないことだ」
「――ふむぅ、まぁ、興信所に頼んでみるのもアリかもしれないですね」
「のじゃまたそんな他人事みたいに」
「桜さん。私を助けてくれたその慧眼を見込んで貴方に頼みがあります――どうか、私の命を狙っている人物を見つけるために、協力してくれないでしょうか」
いやはやそんなのは、もっと違う人に頼めばいいだろう。
どうしてズブの素人の俺に、と、思うのが普通だろう。
放っておけない雰囲気はあったけれども、流石に、俺も探偵の仕事をしたことないどころか、荒事なんて経験のない普通の人間だ。そんな状況だからと言って、人死にがでるようなことに協力すると二言三言で返事はできない。
男らしくないのじゃ、と、こちらを非難する目はあったが、それはそれ。
俺の手を取り、どうかお願いできないだろうか、と、頼む三国会長に、悪いんだけれども、と、声をかけた――。
のだが。
◇ ◇ ◇ ◇
「流石に係長格扱いで手当てもつけて、年棒も前払いでバンと出すよと言われたら、なぁ、流石に心も揺らぐわ」
「ほんに、現金な奴なのじゃ」
「んじゃお前、逆に聞くけれども、ただ働きでこんな訳の分からん仕事したいと思うのか」
結果、自分もちゃっかりと清掃員の仕事を貰った加代である。
それはごにょごにょ口ごもって、このおちょうし九尾はそっぽを向いた。
かくして俺たちは、その社内にいるのではないかと思われる、会長の命を狙う輩たちの捜査のために、こうしてこの会社に入社したという訳である。
いやはや、いきなりテレビ出演したり、一転ニートになったり、大企業の係長になったりと、波乱万丈という奴でやる。
おそらく全部、このとなりで気楽に笑ってる清掃員のオキツネちゃんのせいだが。
「のじゃ!! スパイものの映画みたいで、なんだかわくわくするのじゃ!!」
「気楽なこったなぁ、まぁ、俺もそんなかんじだけど――」
「君らなんというか、もっとこう、私の命がかかってるっていうことを、心配してくれてもいいんじゃないのかい」
そんな本宮○ろし先生の漫画に出てくるキャラみたいに、格好つけたところでどうにかなるものではない。まだ、状況もはっきりと分からんのだから、真面目な顔もするだけ損というものだろう。
なに、心配しなくても、これまでの経験上、そんなひどいことにはならんと思うよ。
なんといってもギャグ小説だしね、これ。
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