第155話 レンタルショップで九尾なのじゃ

 前に加代が働いていたレンタルショップでアルバイト店員を募集していた。

 まぁ、あの仕事のできない駄女狐をやとってしまうくらいに余裕のないレンタルショップだ。前に店頭で出くわして以来、加代が働きに行っている様子もなかったし、きっと人手に困っているのだろう。


 どうせ日がな一日部屋でボーっとしているのだ。

 直近気になる求人も目につかなかったし、とりあえず、社会復帰の足掛かりとして働いてみるのもいいだろう。


 そんな訳でレンタルショップの面接を受けた俺は、店長に気に入られて即日採用。

 さっそく次の日から、店頭に出ることになった。


 どこぞの駄女狐の就職能力もたいしたものだが、俺もなかなかやればできるじゃないのよ。ふはは。


「いやぁ、昼間に入ってくれる子がいなくて困ってたんだよ」


「まぁ今時はフリーターも職場を選びますからね」


「あんまりお給料ははずめないけど、その分、緩い職場だから」


「ここしばらくフルタイムで働いてなかったんで、そう言ってくれると気が楽ですわ」


 意外と話の分かるオーナー店長。

 今日は用事があって表に出れないとは言っていたが、俺の初めての出社ということで、わざわざ顔を出してくれたとのことだ。


 客が少ないのをいいことに、簡単に業務説明を受ける俺。

 一通りの流れを説明し終えると彼は最後にほほ笑んでこう言った。


「――まぁ、何か分からないことがあったら、バイトリーダーに聞いてくれればいいからさ」


「バイトリーダー?」


「そうそう。経験豊富でね、いろんな仕事を経験しているから、いざという時に頼りになるんだよ」


 なんだろう、嫌な予感しかしない。

 体中の血が凍りつくような、そんな感覚に襲われる俺の前で、おーい、バイトリーダーと、店長は軽やかな声でそいつを呼んだ。


 のっそりと、まるで呼ばれるのを待っていましたと言う感じに、バックヤードから顔と尻尾を出すそいつは――。


「ふふっ、ここがわらわのバイト先と、知らずにやって来るとはいい度胸なのじゃ!!」


加代さんバイトリーダー!?」


 同居人の加代であった。

 なぜだ、この駄女狐、クビになったはずだったのでは。


「ふふっ、わらわほどのバイト戦士ともなれば、一度にいろんな仕事を掛け持ちしているものなのじゃ」


「マジかよ、お前」


「男性諸君への配慮のため、シフトを午前中に組んでいたから顔を会わさなかったが、ずっとここで働いていたのじゃ!! さぁ、見るのじゃ、わらわの働きっぷりを!! 有能っぷりを、とくと味わうがいいのじゃ!!」


 まずはモップ掛け、と、加代が尻尾で床を拭く。


 次に棚の埃落し、と、加代が尻尾で棚をはたく。


 最後に返却DVDの磨き上げ、と、加代がまた尻尾でDVDを磨く。


 なんということだろう。

 黄色い尻尾で磨かれた店内は――獣の硬い毛によってズタボロになっていた。


「のじゃ!! みたか桜よ、これがわらわの、いや、バイトリーダーの力なのじゃ!!」


「加代くん――なにやってくれてんの!? ちょっと、うちの大切な商品を――あんた今日限りでクビだよ!!」


「のじゃぁあっ!?」


 もっと優しく、ソフトリーに磨いてやらないから。

 床をはくくらいならちょうどいいのかもしれないが、獣の尻尾のごわごわさを舐めてはいけない。


「のじゃぁ、桜よ、助けてくれ。わらわはただ、ちょっとはりきっただけで」


「知るかよ、お前、自業自得だろうが」


「桜くんも加代くんと知り合いなの!? だったら君も一緒にクビね!! モノを丁寧に扱わない人を雇う余力はうちにはないよ!!」


 ちょっと待て。なんでそうなる。

 加代のことと俺はまったく関係ないだろう。


 いくら言ってみたところで、一度へそを曲げてしまった店主の態度は変わらない。

 結局、加代が辞めるのに連座する形で、なぜか俺まで一緒にクビになるのであった。


 これがお狐に魅入られし者の宿命だというのか。

 とほほ。

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