バイトリーダー加代ちゃん(原点回帰)編
第154話 バイト探しで九尾なのじゃ
「桜よ、なんじゃそんな求人情報雑誌なぞ読んで。ようやく就職する気になったのか」
「――まぁ、流石にここんところいろいろあったからな。俺も心を入れ替えて、真面目に働こうかって気になるわな」
ここは加代の働いているスーパー。
タイムセール、半額の札を貼った稲荷ずしを買うために、加代の奴に呼びつけられた俺は、その入り口に置いてあるフリーペーパーを手にとっていた。
加代に言った通りである。
なんとか当面の生活について心配することはなくなったが、決して安穏として暮らしていける状況ではない。
失業手当が給付される三か月後を待つよりも、さっさと次の就職先を見つけた方がいいだろう。
とはいえ。
「不景気とは言っても、歳が歳だからな。今からプログラマーとして雇ってくれるような会社なんて、そうそうないと思うんだよな」
「のじゃのじゃ、前職にこだわらずいろいろやってみればいいのじゃ。接客業なんかも楽しいものじゃぞ」
「はっはっは、おもしろい冗談だな」
お前は、俺に、客商売ができると、本気で思っているのか。
人と接するのが嫌で、ひたすらソースコードと睨みあってればいいプログラマーを志した人間に、なんちゅうことを言うのだ。
そんな社交性があったら、もっといい会社就職してたわ。
なんだかんだで人当たりと社交性だけで生き延びているオキツネには、俺のような根っこがコミュ障な男の気持ちなど分かるまいて。
ため息を吐きながら、俺は求人雑誌をカゴに入れた。
ふと、加代の横を通り過ぎた所で、スーパーの壁に張り紙がしてあるのに気がつく。
「生鮮売り場の職員募集中。平日昼の三時から夜八時まで勤務できる方――か」
「のじゃ!! ダメじゃダメじゃ!!
ぷんすこと、頬を膨らませて俺とその求人広告の間に入って来る加代。
見ちゃいかんとばかりに、彼女は両手を振り上げて、彼女が働くスーパーの求人広告を隠してきた。
いやいやなんでだよ。
今まで散々人の職場に押し入って来といて、自分の時はダメって。
そりゃいくらなんでも随分な話じゃないだろうか。
せっかくこっちも就職しよう――とまではいかなくても、なんか小銭稼ぎはできないかと考えているというのに。
まぁ、頼まれても俺だってお前と一緒の職場なんて嫌だけれども。
「上がる時間が一時間ずれて、せっかくだからフードコートで時間潰して帰るところを、お局さまに見られてからかわれるなんて――そんな展開はごめんなのじゃ!!」
「少女漫画の見すぎか」
「休日申請がモロ被りして、たまたま同じ日に休暇を取った同僚に、デートしてるところを見られて、加代さんと桜くんって付き合ってるの――って言われるのはごめんなのじゃ!!」
「少女漫画の見すぎか」
「冷蔵庫に閉じ込められてしまってピンチになったところを、姿が見えないのに気がついて、大騒ぎの末に救出される――人目もはばからずに抱き着いてしまったが故に、職場の皆に付き合ってるのがバレるなんていう展開は勘弁なのじゃぁ!!」
「少女漫画の見すぎか」
嫌がる理由がどれもしょうもなさすぎる。
のじゃのじゃ、と、尻尾を振って恥ずかしがる加代。俺もこんな恥ずかし狐と、あらぬうわさを立てられるのは勘弁である。
バイトするにしても、絶対に同じ職場はやめておこう。
そう固く決意して、俺は妄想にふける同居人を無視して、スーパーの惣菜コーナーへと向かうのであった。
「のじゃのじゃのじゃのじゃ。それであれなのじゃ、商品の仕出しをしている最中に体勢を崩して、大丈夫かって腕を掴まれてドキッとしたり。壁ドンされたり――のじゃ、妄想が止まらんのじゃぁ。にょほほほ」
一生やってろ。
恥ずかし駄女狐さまめ。まったく、最近はまともになって来たと思ったのにこれだ。
しばらくして後ろから、懐かしい叫び声が聞こえた。
なんにしたって初心というのは忘れちゃいかんね、本当に。
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