第149話 仕送りが届いて九尾なのじゃ

 海外旅行から帰って来てすぐ、俺は実家の父母に無事を連絡し、また、仕事をクビになったことを伝えた。

 どうやら二人とも、俺と加代のロケ番組を見てくれているらしく、まぁ、心配はしていなかったよ、とは言ってくれていた。


 一方で。


「あんな可愛い彼女さん居るなら、なんで早く連れて来ないの」


「いや、俺とあいつはそういうんじゃなくて」


 いらん誤解も産まれていたが。


 人間三十年、社畜の日々を偲ぶれば、彼女など夢幻のごとくなり。


 思わずそんな織田信長みたいなことを言ってしまたが、生まれてこのかたそういうことに縁のなかった俺である。そして、そのことを気にしていたうちの親たちである。

 テレビで一緒に女芸人と、親し気に旅していれば、そういう勘違いもあるだろう。


 そして、まぁ、どれだけ否定してみせても、親というのは子というものを聞かない訳で。けっく、彼らは、良い子なんだったら迷わず結婚しちゃいなさいなと、そんなことを言って電話をしめくくってきた。


 いや、いい狐には間違いないが、いろいろと問題があるだろう。

 そもそも稼ぎもない今の状況で結婚なんてできるのか。


 なんてことを思ったのもはや数週間前。

 ぼへぇ、と、家でワイドショーを見ながらくつろいでいる、俺と加代の下に、それは突然送りつけられてきた。


「のじゃ、宅急便なのじゃ。誰からなのじゃ」


「――あぁ、うちの親父とお袋からだ」


「のじゃのじゃ、桜のお父さんとお母さんなのじゃ。いったい何かのう」


 本当にな。

 一人暮らしを始めてからというもの、向こうから荷物なんて一度も送ってきたことのない二人だ。そんな彼らがいったい何を。


 というか、駅で一時間くらいの範囲で住んでいるのだから、それくらい電話してくれれば取りに行くのに。


 ぺりぺりと、段ボールのに張り付けられたゴムテープをはがしてみる。

 どうだろう中には、小麦粉やらパスタ・カップ麺に、おそらく裏の畑で採れたのだろう、芋やら玉ねぎやらが入っていた。


 なるほど、仕送りという奴か。


「のじゃぁ!! 食べ物がいっぱいなのじゃ!! ありがたいのじゃ!!」


「あの人ら、うまれてこのかた、初めてこんなもん送りつけてきたぞ」


「息子が無職プーになったから心配しておるのであろう!! 親の気遣いは素直に受け取っておくのじゃ、それが人情というものなのじゃ!!」


 実の息子よりも嬉しそうにはしゃぐ加代。

 なんだかなぁ、現金な奴というか、単純な奴というか。

 いかにもうちの親とはうまくやってけそうで、すこし気が重たくなった。


 まぁ、金のない時にありがたいことは確かだ。

 どういう風の吹き回しかは知らんが、サンキュー父ちゃん、母ちゃん。ありがたくいただかせてもらう。


「のじゃのじゃ、さっそく、今日はお芋さんでポテトサラダ作るのじゃ」


「楽しみにしてるよ――うん?」


 ふと、目の端に、どうにも毛色の違う何かを俺は見つけた。

 カレーのルーでもなく、かといって、おかしという感じでもない、ラメによる装飾のかかった、妙な包装の箱。


 ぞわり、と、背中を冷たいモノが走る。

 加代が気づいてそれに手を伸ばそうとしたところを、俺は慌てて奪ってみせた。


「のじゃ? なんなのじゃ、それ?」


「――いや、これは、なんというか、その」


 言えるか!!

 0.2㎜うすうすとか書かれたこのパッケージが、いったいどういう用途のものかなんて。というか、見れば分かるだろうけどさ、流石に。


 なんで隠すのじゃ、と、いぶかしむ加代。

 そりゃお前隠すだろう。親がこんなもん送ってきたら、普通。


 というか、どうしたいんだ、あのアホ親父と、アホお袋は。

 息子にこんなもん送りつけて。孫が欲しいのか、欲しくないのか、どっちなんだ。

 いや、そもそもそんなことせんというの。相手はオキツネだぞ。


「顔が真っ赤っかで怪しいのじゃ。さては、何か高価なものなのじゃ。独り占めするつもりなのじゃ」


「そういうんじゃねえよ。必要ないものだから、捨ててこようと思って」


「のじゃ!! せっかく送ってもらったのに、捨てるなんてもったいないのじゃ!!」


 とりあえず、わらわにも見せるのじゃ、と、加代が俺に迫る。


 こうなってしまうと、もうどうしようもない。次の瞬間には、加代に飛びかかられて、もみくちゃになっていた。

 尻尾まで出して、俺を拘束しようとする加代に敵うはずもなく――結果、馬乗りの状態で、俺はそれを加代に奪われてしまうことになった。


「――くっそ!!」


「のじゃふふ!! わらわに勝とうなぞ、まだ千年早いのじゃ!!」


 はて、どれどれ、と、俺から奪ったそれを見る加代。

 0.2mmうすうす、と、パッケージのそれを読み上げると、すぐさま、彼女は赤いきつねと変わり果てた。


「のっじゃぁっ!! なななな、なんちゅうものを!!」


「だからお前、見る必要ないって、言ったじゃねえか」


「のじゃぁっ!! このスケベ!!」


「ぶべらっ!!」


 俺の顔に炸裂するゴムの箱。


 ゴムは薄くても箱は薄くない。

 かくして、硬めのその包装を鼻先に受けた俺は、しばらく、そこが腫れあがることとなったのだった。


「のじゃ、助平なのじゃ!! 桜のところは、家族そろって助平一家なのじゃ!!」


「酷い偏見だ」


 実際、そんなもの送りつける親について、なんのフォローもできないのは確かだが。

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