第140話 不審者扱いで九尾なのじゃ

「で、いったい何してたの。小学校の前で」


「――スマホ弄ってゲームしてただけです」


「スマホを学校の方に向けて、にやけてるとこ見たって言ってる人がいるんだけど」


「――レアキャラが出たのでついテンションが上がってしまって」


 やってしまった。


 平日、あんまりにも暇な上に、ここ無職になってからというもの、まったく外を出歩いていなかった俺。


 腹の脂肪は前からだし、脾肉ひにくを嘆くには無職だが、ちょっとこれはどうなのだろうか。と、十二時過ぎに目を覚ますなり思ったのだ。


 加代は朝からバイトで家を出ている。

 からかう相手も居ないこっとだし、ちょっくら運動でもしてくるかな。

 とまぁ、そんな軽い気持ちで、以前入れていたARなスマホゲームを起動して街に繰り出したのだ。


 いやぁ、なんというか。

 単純な作りのゲームというのは怖いね。

 レベル上げとかそういう苦労がないものだから、ついついとのめり込んでしまった。


 その挙句がこれである。


 派出所に引き連れられてきて事情聴取とお説教。

 三十歳を超えてえ、職も失い、あげく不審者扱いを受ける羽目になってしまった。


 いくらなんでもツイてなさすぎだろう。とほほ。


「本当なんです。ゲームをしていただけで、小学校の中を盗撮してたとかそういうんじゃないんです」


「不審者はだいたいそう言うんだよね」


 どうして学校の近くに出たんだレアキャラクター。

 ほいほいとそれにつられて、知らず知らずと学校まで歩いて言った俺は、近所の父兄の皆様に通報されて、この通り。


 そりゃね、いい歳した太めのおっさんが、スマホ片手に小学校の前を歩いていたら、誰だって通報しますよ。


 しかたない。

 自分でも心底そう思う。


「ほら、スマホの中にもそういうデータはないでしょ?」


「どうせネットにアップしてすぐにデータは消したんだろ」


「違いますって!!」


「どうも臭いな――さてはお前、常習犯だな!! ロリ○ン野郎だな!!」


 違う。俺は断じてそんなのではない。


 どちらかといえば巨乳派だ。

 制服・女子校生モノはたしかに好きだけれど――ロリ○ンではないんだ。


 しかしながら、おそらく俺よりも若いだろう警察官は、じとりとした視線を俺に向けている。

 ダメだ。これ――ロリコンじゃないこと――を証明しない限り俺はこいつから解放されそうにない。


「同居人がいるんです。今、そいつ呼びますから」


 警察官からスマホを返してもらうと、俺は加代に電話をかけた。


 ちょうど仕事終わりだったのだろう。

 事情を説明すると、すぐ行くのじゃ、と、加代はまったくあわてた様子もなく、むしろ笑いをかみ殺しながら、俺に言ったのだった。

 他人事だと思って――あとで覚えてろよ。


 数分後。

 加代は派出所に笑顔で顔を出した。


「のじゃのじゃ、すまんのじゃ。うちのが迷惑をかけたそうなのじゃ」


「――あんたがこの人の奥さん?」


「奥さんだなんて。そんな、照れるのじゃぁ」


「――タダノドウキョニンデス」


 俺は感情を殺してそう言った。

 それより、これで分かったでしょう、と、俺は警察官に向かって言う。

 そういう性癖のある人間が、大人の人間と同居するわけなかろうが。


 まぁ、こいつは、九尾さんだけれど。


 しかしながら、むむむ、と、その顔は厳しいものに変わる。


「なるほど確かに大人の女性ではあるようだ」


「それ以外のなにものでもないのじゃ。なんなのじゃこいつ、ちょっと、失礼ではないのか、桜よ」


「国家権力に無暗むやみに逆らうな」


「――しかしながら。その胸。そのが証拠だ!!」


 なんだと。


 ずびし、と、加代の胸を指さして、某ゲームみたいなカットイン演出――のノリで言ってくる警察官。

 えらいスタイリッシュなセクハラである。


「そんな貧しい胸が好きな奴なんて――ロリ○ンとしか考えられない!!」


「どんな理論の飛躍だよ!!」


「小○生と結婚できないから、胸のない女の子と結婚したいんだろう!! お前たちのやったことは、すべて○っと、お見通しだ!!」


「それ、胸がないことで有名な人の、有名な台詞!! 俺は巨乳派だっての!!」


「嘘だ!!」


「またそんな結構有名な台詞を!!」


「だったらどうしてそんな貧乳女と同居しているんだ!! その身体が目当てなんだろう!! このロリ○ン野郎が――」


 異議あり、と、叫んでやりたくなった所に、後ろから邪悪な気を感じる。

 目の前の警察官の顔から、さっと血の気が引いたかと思うと、がたりがたりとその肩が震えていた。


「――いいかげんにするのじゃ? 、なのじゃ?」


 おぉ、流石は、国家を転がすほどの九尾の狐である。

 国家権力など怖くないらしい。


 背後に感じる邪悪な気配。

 これ以上続けると、違う罪状で捕まることになるな。ということなので、と、強引に話を終わらせると、俺は加代の手を引いて派出所を飛び出したのだった。


「――離すのじゃ桜。あやつ、わらわがおとなしくしていれば、調子にのりおって」


「あの人もお仕事だから。悪気があって言ってるわけじゃないから」


「だいたい、小学生はブラジャーなんてつけないのじゃ。失礼な奴なのじゃ」


 安いからって、女児用のブラつけてませんでしたっけ。

 言うと九尾の怒りの矛先が、こちらに向いてきそうだったので、俺は口を噤んだ。


 ほんと、なんでこんな貧乳九尾と、同棲してるのかね。

 人生よくわからんもんだ。

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