第139話 男飯で九尾なのじゃ

 基本アルバイトの仕事に従事している加代は、帰って来る時間が不規則である。

 なので俺も仕事をしている時は、外で飯を食べてきたり、コンビニで買って帰ってきたりと、食事周りを気にすることはなかった。


 とはいえ、次の仕事がどうなるか分からない、無職事情である。

 このままコンビニ飯でエンゲル係数をガンガン上げるのに貢献するのは、ちとばかり抵抗を感じるこの頃。


 実際、馬鹿にならんなぁ、と、財布の薄さにため息が出る。


「自炊するかぁ」


 財布の中身を確認しながら、ぼそりと呟いた俺。

 すると、前に座っていた加代が、手にしていたせんべいをこぼし、尻尾と耳を出しておおげさに驚いた。


 お前、そんなに驚くことはないだろう。


「のじゃ!? 桜よ、お主、料理なんぞできたのかえ!?」


「馬鹿にすんなよお前。最低限の料理くらいはつくれるわ」


「――のじゃぁ。てっきり、コンビニ飯とカップヌードルしか食べれない人間なのかと思ってたのじゃ」


 どういう宿命を背負った人間だよ。

 ほぼ空だけど、一応、冷蔵庫も買ってあるだろう。


 驚いたのじゃ子をその場に残して、俺は冷蔵庫の前へと向かう。朝ご飯用に買ってある卵と納豆、あとは漬物の高菜があるくらいだ。

 油揚げはいうまでもないだろう。


 ご飯はどうかと炊飯ジャーをのぞき込めば、まぁ、二人前くらいはある。


 チャーハンでも作るか、と、俺は高菜を引っ張り出す。

 油を引いたフライパンの上で、それをカリっとなるまでいためると、ジャーから直接ご飯をフライパンへと放り込む。


 油と高菜とごはんが混ざったところで、顆粒かりゅうタイプの鶏ガラスープの素と塩を混ぜ込む。最後に、ご飯を端に寄せて、真ん中でぽっかりと穴をあけると、そこに卵を落し込んで手早くかき混ぜる。


「ほい、できたぞ、チャーハン」


「のじゃぁっ!? 本当に作ってしまったのじゃ!?」


 後ろで見ていた加代にそれを差し出すと、彼女はぱちくりと目をしばたたかせた。


 そんな驚くようなことかね。

 こんなん、誰でも作れるものだろうが。


「あとでスーパーで食材買って来るか。米と卵と油揚げだけじゃ、できることなんてたかが知れているからな」


「のじゃぁ、びっくりの手際だったのじゃ。桜、なかなかやるではないか」


「そういうのはもっと凝った料理を作った時にでも言ってくれよ」


 飯を痛めたくらいで褒められても、あまり気分のいいものではない。

 加代とちゃぶ台で向き合って手を合わせる。

 湯気が立ち昇るそれにスプーンをつっこめば、なるほど、なんの変哲もないそれは高菜チャーハンであった。


 ミンチでも入っていると、もっとこう、食いごたえがあるんだけどな。


「のじゃのじゃ。桜が料理を作ってくれるとは、嬉しいこともあるものなのじゃ」


「まぁ、仕事ない間は、ときどきなんか作ってやるよ」


「あれかのう、大豆からあぶりゃーげ作ったりもできるのかのう?」


「それは料理の範疇はんちゅうじゃねえ」


 しかし、いなり寿司くらい、いくらでも作ってやると言ってやると、おぉ、と、加代は目を輝かせた。


 いかんねこれは。

 既婚男子が、嫁におだてられて、料理作る気持ちが分かる奴だわ。

 くっそ、いい顔してチャーハン頬張りやがって。


「というか、お前に任せると三食油揚げになるからな。病気かよ、毎食油揚げたべなくちゃいけないとか。なんかの宗教かよ」


「いくら食べても飽きが来ない、それが油揚げなのじゃ」


「飽きるわ!!」


 てしり、と、眼の前の油揚げ馬鹿のおでこを弾く。


 それでもりずに、「このチャーハン、油揚げを刻んで入れたら、もっと美味しくなるのじゃ」、とか抜かすオキツネさま。

 せめて味覚くらいは人間並みになってくれないものかね、と、食器を洗いながら俺はため息を吐いたのだった。


 あらためてだけれども、狐と暮らすってのは、大変なもんだな。

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