二日目

 今日も日が暮れてから神社へと向かいました。村のコテージには見知らぬ旅行者が滞在していたので、本日はいつもと同じように、近道の山道を使用して神社へと向かいました。

 賽銭箱を開けてお賽銭を回収しました。今日一日で集まったお賽銭は、合計して八十円でした。これでも今日は良い方で、普段ならもっと少ないです。数百人しかいない村の、神主を失った神社の需要など、ほとんど無いに等しいので、これも仕方ありません。

 叔父はなぜか、こんなに廃れた神社をとても大切にしています。畑仕事の間を縫っては神社の隅から隅までを掃除して、もはや使われなくなった道具類の手入れまでしています。理由を尋ねてみても「そういうものなんだよ」としか言ってくれないので、謎は深まるだけです。

 僕は賽銭箱と本殿の鍵を閉め、新宮神社を後にしました。川沿いの道へと続く山道を通り、山を下りました。静かな風が木々を揺らして聞こえてくる音。僕はその音にとても空虚な気持ちにさせられます。

 引きこもり生活で足の筋肉は衰えているので、静かに坂道を歩くことは到底できるはずもなく、重力によって加速された勢いそのままに着地した地面からは「パタパタ」と大きな足音が鳴りました。

 数分ほど歩き、僕が山道をもう少しで抜けるかという時でした。山道の出口に繋がる川沿いの道から若者たちの話し声が聞こえてきました。道は曲がっていて、前方から左の足元の方へ向かって続いています。僕は足を止め、木々の隙間から彼らを見下ろしました。

 村の人が夜中に出歩くことはほとんどありません。また、若者たちが小さい女の子を連れていたことから、その若者たちが昨日コテージで見かけた人たちだと分かりました。おそらく、ホタル観賞でもしていたんだと思います。

 僕は彼らが過ぎ去るのを待ってから、また、歩きはじめました。「パタパタ」と足音は再びなり始めます。

 そうやって僕が川沿いの道に足を踏み入れようすると、突如、道の先から女性の姿が現れました。僕は完全に安心しきっていたので心臓が止まるかのような焦燥感を覚えました。僕はもちろん一目散に山道へと引き返し、その女性の視界から隠れる程度の場所まで戻りました。

 そして僕は先ほどと同じように女性が通り過ぎるのを待っていたんですが、彼女は何故か山道の出口付近で立ち止まっていました。

早くどこかへ行ってくれることを祈りましたが、その効果は全くなく、仕舞いには持っていたライトでこちらを照らしてくる始末です。僕の気配に気がついたのかもしれません。

 僕は決して見つかってはいけないと後ろに下がりました。すると頭に木が引っかかったので焦ってそれを外しました。そのせいで「カサカサ」と音が出てしまいました。

 今の音でバレたかもしれません。女性は少し後ずさりをしているようでしたが、もしかするとこちらへ上って来るかもしれないと言う可能性も考えられたので、僕も彼女と同じように後ずさりしました。

 二人が同時に後ずさったので、僕の視界から彼女はすぐに消えました。そのせいで僕の精神が緩んだんだと思います。僕は木の根に足を取られて、尻もちをついてしまいました。草木の「カサカサ」と言う音と僕の「ンッ」という鈍い声が空気を震わせました。

 僕は「やばい」と思いましたが、道の先からは気配は感じられず、恐る恐る出口へと向かうとそこには誰もいませんでした。僕は胸を撫で下ろし帰途に就きました。

 川の方へ目を向けると儚いホタルが鮮やかな景色を描き出していました。こうしてホタルを見たのは十年以上ぶりだと思います。久々の絶景に、僕の足は次第に速く強く踏み出していました。

 そうして歩いていると、僕はまたまた隠れる羽目になりました。なぜなら、数メートル前にさっきの女性が立ち止まっていたからです。

 僕は先ほどの若者集団とは逆の方向に歩いてきました。彼女はその若者集団の内の一人では無かったのだろうか? それなのにどうして彼女が目の前にいるのか僕は不思議でなりませんでした。

 とりあえず、僕は木陰から彼女を見ました。彼女はこちらを振り向いたまま固まっています。じっと何かを探すように後方に釘付けにされています。そんな女性の不思議な行動に見入ってしまって、僕は手に持っていた鍵をうっかり落としてしまいました。鍵は地面へと真っ逆さまに落下し、鍵についていた木製のキーホルダーが「カランカラン」と騒ぎました。

 その瞬間、その女性は怯えるようにその場から走り去りました。

 彼女は僕から逃げたんだと思いました。彼女はおそらく背後から不審な僕の気配を感じ取ったのでしょう。怖がらせてしまいました。

 またやってしまった。また人を不幸にしてしまった。後悔が溢れます。人に見られることはおろか、気配を感じ取らせてしまうことすら僕には許されないようでした。まさかここまでだとは自分でも思っていませんでした。それは想像以上にショックでした。このまま一生人に近づくことすら許されない人生を送るのかと思うと泣けてきました。

 僕は肩を落とし歩きました。ずっと川沿いを歩いていましたが途中近道となる別の山道を通りました。

 そんな悲哀に耽る暇も束の間でした。山道を抜け再び川沿いの道へと合流した時、背後から誰かの走る足音が聞こえてきました。急いで振り返ると道は急なカーブになっており、足音はその向こう側から聞こえてきていました。

 僕が慌てて隠れようとすると足音は途切れ、それで気を緩めた所で再び足音が響き始め、ビックリして身を隠す場所を探しているとまたまた足音は聞こえなくなり、そんな不思議な足跡にどうしようかと、うじうじやっていると今度は、村ではまず聞くことの無い悲鳴が聞こえてきたので、僕は何も考えず家へと逃げるようにして帰りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る