二日目――其ノ一
食後、私は部屋で一人、本を読む。空想の世界に入り浸る。
文字を目で追う。ページをめくる。
「トントントン」
突然、誰かが私の部屋をノックする。
「シーズー、入るよぉ」
耳障りの言い音衣の声。
「どうぞ」
私の合図の後、音衣が部屋へと入ってきた。
「シーズー。何してるの?」
彼女は屈託のない笑顔で問いかける。何かを企んで居るような、裏のある笑顔。
「何も。ただ、本を読んでいるだけよ」
「へぇ。そうなんだぁ」
私の返答には興味のない、「早く要件を言いたい」という純真な様子。
「私に何か用?」
「うん。実はね、この辺りに蛍がすっごく綺麗に見える場所があるの。昼間、ワン君と話してたんだけど、みんなでそこに行こうって話になって、それでシーズーも一緒にどうかなぁと思って」
「へぇ。そう言えば私、蛍、写真でしか見た事ないかもしれない」
「でしょでしょ。本物は写真とは比べ物にならないよぉ。ノアノアとワン君は先に行ってるって言ってたから、後からハルハルと三人で一緒にいかない?」
私は蛍に興味はあったが、あいつも一緒と聞くとあまり乗り気にはならない。私は悩む。二つの事柄を天秤にかける。蛍を見たいという欲求と、あいつと行動を共にする苦痛を。
そして、ふと気がついた。私がとりたい行動に。それをできる状況に。
あいつが蛍を見に行くという事は部屋を空けるという事。部屋が空くという事は私があいつに復讐をするすきができるという事。
「ごめんなさい。私は遠慮しとくわ」
「えっ。何で? ほんとにすっごいんだよ。ビックリしちゃうよ。目が飛び出ちゃうよ」
「本当にごめんなさい。私、少し体が重たいの。体調崩したみたい。だから四人で行って来て」
嘘をついた。目的の状況を作り出すために。
「そっかぁ。それなら仕方ないね。シーズー、ちゃんと横になってないとダメだよ。早く直さないとね」
「うん。ありがと。そうするわ」
彼女は忍び足で扉へと向かう。
「じゃあね。安静にしててね。お大事に」
彼女はそう言い残し、部屋を後にした。
○
○
私は策を練る。あいつの顔を捻じ曲げるための次の一手。
私は鞄の中に入っている全ての物を取り出す。衣服、化粧道具、スキンケアグッズ、ブラシ、ドライヤー、本、絆創膏、コンタクトレンズ、度が少し緩い眼鏡、ワイヤレスの小型スピーカー。この中から使える物を選び出す。
私は熟考する。浮かぶアイデアの多くは、一瞬だけ煌めきすぐ枯れ落ちる。良策の陰に見えてくる難点。数多の案の中で使える物はほとんど無い。
困難を極める思考。それはジグソーパズルのピースを一つ一つ当てはめていく作業に似ている。そのような試行錯誤を繰り返し、遂に私は一つの見通しを完成させる。
スピーカーで気味悪い音を出す策。あいつの弱点は心霊系の恐怖。だから、霊的存在を連想させるような不気味な音を流せばあいつに苦痛を与えることができる。ここで大事なのは音源の場所。音源は絶対に見つかってはいけない。なぜなら、それが見つかる事で恐怖はしらけてしまうから。逆に音源さえ見つからなければ、あいつに対して絶大な効果を発揮する。それなら絶対見つからない場所に隠せばいい。天井裏に隠そう。そこは、誰も開けることが無く、気づかれにくい場所。
私はすぐ行動に移る。二人はもういない。
昨日管理人がしていた話。男の声でお経が聞こえる事例。あいつもその話は聞いている。だからそれが効果的。
ネットで般若心経の音源を検索する。すると、それは容易に見つかった。
あいつの部屋の天井裏にスピーカーをセットする。念のため鳴らしてみる。聞こえづらい。ボリュームを徐々に上げる。音量が最大になる。適切な聞こえ具合。
私は夜が深まるのを待つ。
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