緊急依頼:ワイバーン討伐作戦(Part5)
上空で【悪食竜リドルゥ】と戦っていたオスカーは最後の力を振り絞ってとどめを刺し、【悪食竜リドルゥ】諸共、谷へ落下していた。
何とかして助かる方法を模索するが時間が無かった。
「……どうする……何とか落下の軌道が変えられれば……」
ふと、崖に掛かっている吊り橋を確認すると荷馬車が通っているのが見えた。荷馬車は足を止め、数人が落下しているオスカーを見つめていた。
オスカーは視界を凝らすと、その人影に見覚えがあった。
「まさか……」
「おぉーい!!」
荷馬車から降りてきた大柄な男が落下していくオスカーに向かって声を掛けてきた。
「何やってるんだ!? 【
「……【夜明けの鷗】か!!」
声を掛けてきたのは【夜明けの鷗】のリーダー、ヨハン・マルクスだった。ヨハン達は慌てた様子でオスカーの元へ駆け寄る。
そこでオスカーはあることを思いついた。
「…………これなら」
「何があった!!」
「時間がない!!」
オスカーは普段では出さないような声量でヨハン達に聞こえるように話しかける。
「俺に向かって魔弾を撃て!!」
「はぁ!?」
「時間がない! 思いっきりで構わないから俺に向かって撃て!!」
「ちっ……仕方ねぇ!!」
ヨハンは背負っていたマスケット銃を手に取り、オスカーに向かって銃口を構える。
「俺の合図と同時に撃て!!」
「死んでも俺を恨むなよ!!」
オスカーは落下しながら崖際との距離を定める。そして、バスタードソードを鞘から抜いた。
「今だ!!」
「おう!!」
ヨハンは雷魔法が付与された弾を放つ。放たれた弾丸はオスカーに向かって真っすぐ飛ぶ。オスカーはバスタードソードを構えて、飛んできた弾丸を受け止めた。
すると、雷撃が炸裂し、その威力で落下していたオスカーは真横へ吹き飛ぶ。
「っ!!」
吹き飛んだオスカーは軌道が変わり、崖際までの距離が縮めることに成功したのだ。オスカーは崖際に手を伸ばすが、数センチだけ距離が足りなかった。
「うおぉぉ!!」
オスカーはバスタードソードを崖に突き刺す。バスタードソードは壁に深く突き刺さり、オスカーは落下することなく、何とかその場に留まることができたのだ。
「はぁ……はぁ……何とか助かったな」
オスカーは一安心し息を大きく吐くと、落下していく【悪食竜リドルゥ】に視線を向ける。
「……これで最後だ……【悪食竜リドルゥ】……」
「生きてるか! 【孤高の鉄剣士】!!」
崖際からヨハン達が顔を覗かせる。オスカーの姿が確認できて皆、ホッと胸を撫でおろした。
「……あぁ……何とかな」
「今、助けてやるからな!!」
【夜明けの鷗】のメンバーの一人がロープを投げ、オスカーはそれに捕まり、何とか助かることが出来た。
「いやー、驚いたぞ。何か上にいるなって思ったら、バカでかいモンスターと【孤高の鉄剣士】が落ちてくるもんだからな」
「お前たちは……どうしてここに?」
「ギルドの要請でワイバーン討伐の為に街に向かってたんだよ。まぁ……その様子だと、もう必要ないようだが」
「……あぁ……さっき谷に落ちていったのがワイバーンの親玉だ」
「さすが【孤高の鉄剣士】だな!!」
ヨハンは豪快にオスカーの背を叩く。叩かれたオスカーは咳き込みながらヨハンを睨みつけた。ヨハンはすまない。とジェスチャーして謝罪した。
「んじゃ、街に行くか」
「あぁ……そうだな……」
「そうだ。谷に落ちたモンスターはどうするんだ?」
ヨハンはオスカーに【悪食竜リドルゥ】をどうするのか質問をした。
「……そのままにはできないから、後で回収するさ」
「なら俺たちに任せろ」
「いいのか?」
「あぁ、回収にも時間が掛かりそうだからな。それにギルドの連中もお前を探して、こっちに向かってくるだろうしな」
「そうか……なら頼む。」
「任せてくれ!」
ヨハンは【夜明けの鷗】のメンバーに指示して、数人を【悪食竜リドルゥ】が落下したと思われる場所へ向かわせた。その間にオスカーはヨハン達の荷馬車に乗って街へ向かった。
オスカー達は森の中をゆっくりと進みながら向かっていた。
「そういえば、【孤高の鉄剣士】はソロで活動してるんだろ?」
「あぁ……」
「寂しくないのか? 他のパーティに入ろうと思わなかったのか?」
オスカーはヨハンの質問に目を瞑って考える。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……他のパーティに入る事は無かったな」
「何故だ?」
「……それは……」
オスカーは口を閉じて再び黙り込む。ヨハン達は首を傾げながら次の言葉を待っていた。しばらくすると、オスカーが口を開く。
「……仲間を失った俺に、新しいパーティーに入る資格なんて……」
「そうか……まぁ、俺達【夜明けの鴎】はいつでも歓迎しているからな」
ヨハンはオスカーの言葉を聞き、それ以上は何も聞かなかった。他の【夜明けの鷗】のメンバーも何も言わない。ただ、じっと街へと向かっていた。
やがて日が沈み、辺り一面に暗闇が広がると森の出口へ辿り着くことができた。
「森を抜けるぜ」
森を抜けると街の外壁が見え始め、数人が馬に乗ってこちらに向かっているのが見えた。
「お、丁度、迎えも来たようだな」
こちらに気が付いたのか、大慌てでこちらに向かってくる。
「オスカーさん!!」
先頭を走っていたレオンが馬から転げ落ちそうになりながらもオスカーの元へ駆け寄る。
「ご無事でしたか」
「あぁ……【
「おかげさまで全員無事です。ありがとうございます!! オスカーさんも怪我をしているのに……」
レオンが心配そうにオスカーに詰めるとオスカーは苦笑いしながら返事をする。そして、レオンの後ろにはセルドとセレスもいた。
「よぉ、ちゃんと生きてたな」
「あぁ、約束したからな」
オスカーとセルドは固い握手を交わす。
「セレス、先に戻ってギルドに報告しろ、『英雄の帰還』ってな」
「かしこまりました」
セレスは馬に乗ると先に街へ戻っていった。
「さてと……【孤高の鉄剣士】の凱旋だ!!」
オスカーはヨハン達と一緒にギルドへ向かうと多くの冒険者で溢れ返っていた。オスカー達に気が付いた冒険者達が一斉に駆け寄って来た。
「無事だったか!!」
「あぁ……【悪食竜リドルゥ】は倒した」
オスカーの言葉にギルドにいた冒険者達は一斉に歓喜を上げた。
「よくやってくれた!!」
「これでこの街も安心だな!!」
オスカーは冒険者達に囲まれ、賛辞を受ける。オスカーは慣れていないのか愛想笑いをしながら賛辞に応える。
「【孤高の鉄剣士】殿」
ごった返している冒険者の中から負傷していた【鬼神炎雷】のメンバーと【不動山】のテリーがオスカーに近づいてきた。【鬼神炎雷】のリーダー、ヒリュウは仲間のシエンに肩を借りながら歩いていた。
「……無事だったか……」
「あぁ、おかげさまで助かった。仲間の一人が重傷だが命に別状はないとのことでござる」
ヒリュウはシエンから離れると、おもむろに膝を付いて頭を下げた。
「助けて頂き感謝申し上げます」
「ヒ、ヒリュウ様!?」
「お、おい」
頭を下げるヒリュウに困惑するオスカー。それを見たテリーも納得したように膝を付く。
「そういうことなら俺も流儀を通さないとな。助かった……感謝する。【孤高の鉄剣士】」
「あ、頭を上げてくれ……」
頭を下げる二人に困惑するオスカー。そこへ【
「おう、【孤高の鉄剣士】!」
「無事でよかったです」
「……お前たちも無事だったか……」
「それで、これはどういう状況だ?」
オックスは頭を下げるヒリュウとテリーを眺める。
「頭を下げされているんだ、何とかしてくれ」
「何とかって……素直に受け取れば良いじゃねぇか」
「そうですよ。間違いなくオスカーさんはこの街の英雄なんですから」
「お前らも……そんなことを言うのか……」
皆と和気あいあいしているオスカーを見て、セルドとムルシラは嬉しそうに眺めていた。
「セルドよ」
「ん?」
「我らはライオとレイナを失い、逃げるように冒険者を辞めた」
「あぁ……そうだな」
「しかし、オスカーだけは己のせいだと罪を背負って冒険者を続けてきた。私はそれをずっと後悔していた」
「…………俺もだよ」
「正直に話すと、今回の戦いは罪滅ぼしでもあった」
「まぁ……そうだよなぁ」
セルドは壁にもたれてため息を漏らす。
「だが、オスカーは一人ではなかった」
「そうだな。アイツ自身は一人で戦っているつもりかもしれないが……他の冒険者との出会いや美味い飯を食って、アイツ自身にも心境の変化があったのかもしれないな」
「ん? なんだ、セルドよ。お主も【妖精の宿り木】に行ったのか」
「あぁ、オスカーの紹介でな」
ムルシラは困り果てているオスカーを見て、笑みを浮かべていた。
「あの人見知りが誰かを連れて食事をするとはな」
「全くだ」
二人で笑みを浮かべているとセルドは何かを思いついたのか、いたずらをする前の子供のような笑みを浮かべていた。
「そうだ、三人で【妖精の宿り木】でも行くか」
「それは名案だ!!」
「お二人とも程々にしてください」
セルドの横で待機していたセレスが二人に呆れたように声を掛けた。
「オスカーさん、ギルドマスターからお話があるそうです」
「わかった。すぐに向かおう」
リベットから報告を受けると、オスカーは冒険者達に別れを告げて、ギルドマスターの執務室に向かった。部屋に入ると、リリアナが書類の山に囲まれていた。ソファーの方に視線を向けるとロージュが座っていた。
ロージュと目が合うと、こちらに座るように手招きをする。
「来たか……まぁ座れ……」
オスカーはソファに座るとリリアナもロージュの隣に座り話を始める。
「さて……まずはよくやった。心から感謝する」
「……あぁ」
リリアナは頭を下げるとロージュが満足そうに呟く。
「さすが【孤高の鉄剣士】じゃな」
「ご老人……いつも通りの名前で頼む。貴方とは今後とも同じ料理屋を愛する者同士として仲良くしていきたい」
オスカーの言葉を聞いて、ロージュは目を丸くしたが直ぐに高らかに笑いだした。
「ほっほっほ! そうじゃったな! 今後とも仲良くしようじゃないか! 冒険者のあんちゃん!!」
「あぁ、今後ともよろしく頼む。ご老人」
「……それで、【孤高の鉄剣士】よ。【悪食竜リドルゥ】はどうなった?」
「谷底へと落ちていった。最後はどうなったか分かっていないが【夜明けの鷗】のメンバーが確認している最中だ」
「うむ……なら、調査のためギルドからも職員を送る。リベット!!」
リリアナがリベットの名を呼ぶと、執務室の外で待機していたと思われるリベットが部屋に入って来た。
「呼びましたか?」
「あぁ、今すぐ数人の職員を【悪食竜リドルゥ】が墜落したと思われる場所に派遣して欲しい」
「分かりました!!」
リベットは頷くと駆け足で執務室から出て行った。
「さてと……大仕事も終わったし、今日は飲みに行くぞ!!」
ロージュは嬉しそうに立ち上がる。オスカーも笑みを浮かべていた。リリアナは机に置かれていた書類に目を通す。
「何か問題でもあったのか?」
「いや、何でない。まだ、雑務が残っているから二人で行って来たらどうだ?」
「そうか……」
オスカーはソファーから立ち上がった。そして執務室から出ようとすると後ろから声がかかる。
「オスカーよ!!」
ムルシラとセルド、そしてセレスがやってきた。
「ギルドマスターへの報告は終わったのか?」
「あぁ、後はギルドに任せることになった」
「なら、飯に行くぞ」
セルドがニヤリと笑みを浮かべる。
「飯って……まさか……」
「うむ、あそこだ」
「あそこしか無いだろ?」
ムルシラとセルドの言葉にオスカーは頭を掻きながらため息を漏らす。
「まぁ、いいではないか。元々、ワシらも向かう予定じゃったしの。皆で行こうではないか」
「……ご老人が良いのであれば」
「おぉ、まさかロージュ様と食事ができるとは!!」
「さぁ、善は急げだ!!」
皆、激闘で疲れているはずだが自然と笑みを浮かべていた。オスカーも皆の後ろをついていきながら笑みを浮かべていた。
その様子を見てヨハンは満足げにしていた。
「さてと、俺は谷にいる仲間の元に戻るとするか」
「ヨハン……今回は助かった」
「良いってことよ」
「それと谷に戻るようならギルドの職員を連れて行ってやってくれ。ギルドの方でも調査するそうだ」
「了解、ギルドマスターに声かけておく。それで【孤高の鉄剣士】はこれからどうするんだ?」
ヨハンの質問にオスカーは顔を上げて答えた。
「……腹も減ったから飯でも食いに行くさ」
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