第21話~茨姫~Ⅱ
2日後
「あの・・・ママ、この子誰?」
「ああ、倉庫にあった昔作った義体よ。それに急造だけれど、AI載せてアンドロイドにするのよ」
「・・・きれーな子・・・でも、ママ少しは休まないと。シンフォニアさんや時雨さんの修理をして、私が直ってからずっとルス・ド・ルア=エスペランサ使ってる・・・」
心配そうなフォティアにやや顔色の優れないかぐや。
「んふふ、心配ありがとう。貴方もまだ完全じゃないんだから休みなさい、ね?」
「う、うん・・・」
そのフォティアを回復槽から見る少女。
『身体綺麗に直ったんだなよかった。そう心配するなよフォティア。すぐによ・・・すぐにそんな不安ふっ飛ばしてやるから・・・』
3日後
ダンッという鍵盤を強く叩く鬼気迫る表情で、滝のような汗をかくかぐや。そこにフォティアがニックと時雨を連れて入ってきた。
「おい!いいかげん休め!あれから寝てねえって聞いたぞ!」
「これぐらい研究所にいた頃にくらべたらブレックファストにもならないわ・・・げほっ!げほっ!」
ルス・ド・ルア=エスペランサで歌いすぎたのだろう、声はしわがれ正確な音程を出すことができず、かぐやはイラ立っていた。
「ママ!ママ!!」
泣きながら叫びその黒衣の裾を引っ張るフォティア。彼女の制止が効かず、フォティアはこの二人を呼んだのだろう。
「頼むから休んでくれかぐや!君が倒れたらこの子もアリスもどうなるかわからないんだ!」
「関係ないわ。私はアリスちゃんを取り戻すまで倒れない・・・倒れるわけにはいかないのよ!!離しなさいニック!!」
「時雨、締め落とせ無理やり寝付かせる。こいつが今倒れたら岩谷のジジイになにも言えねえ」
「離しなさい!!・・・っ」
両腕を押さえられ締め落とされるかぐや。そしてそのまま3人に運ばれていく。
『・・・必死になんのはいいがよ・・・・・フォティアだって「娘」なんだろ?子供泣かす馬鹿親がどこにいんだよ!くそ!くそ!くそ!ちくしょう・・・』
翌日
「ニック、私どれくらい寝てた?」
「キッカリ12時間。本当は倍は寝てる算段だったんだがな。アリスの頑丈さはお前ゆずりか?」
「おあいにく。そこはナロードね・・・フォティアは?」
「時雨といる」
「・・・・・私としたことが我を忘れてたわ。あんな醜態・・・」
「無理もねえ、実の娘が攫われて、なにされてるかわかんねえだ。親だったらそうなる・・・俺もそうなった」
「経験者からの意見は貴重ね」
「・・・死んだ『しぐれ』を敵国の助けた少女に投影しちまって逃げてるぐらいにな・・・」
「・・・・・・時雨ちゃんももう貴方のことを父親として尊敬しているし、なにも血の繋がりがなくてもそれ以外での繋がりがあればそれは親子よ・・・私とフォティアのようにね」
「はっ!経験者は語るっだな」
「うふふ・・・興がそれちゃったわ。今日は休むわ、シャワーシャワー・・・」
「おい、男がいるのにポイポイ服脱ぐんじゃねえよ」
「あら、雪助君はそうしたら洗濯してくれたわよ。さすがに今の貴方みたいにこっち見てなかったけど50過ぎのオッサン。もしかしてたっちゃった?」
「アホ抜かせ実の娘と遜色ねえお前におっ立つかっ!」
そうして浴室に入っていくかぐやに部屋を出て行くニック。
『・・・・・そうだよな。ニック、お前もかぐやと同じ考え方ができて貫き通せる人間だったな・・・お前がいてよかったぜ、お前はかぐやの父親がわりみたいなもんだからな』
2日後
「・・・あのかぐやさん、この黒髪のロングヘアーの子は?」
「ああ、次の戦いに出す緊急用のアンドロイドよ。なんにせよ急造だからどれだけ使えるかわからないけれど」
「なんとなく、かぐやさんに似てますけれど・・・」
「んふふ、趣味で作ったのよ自分に似たボディ」
それを聞いて雪助は悔しそうに俯く。
「すみません・・・」
「結構よくできてるでしょ?問題は武装なんだけれど、なにが使えるかわからなくて」
「すみません!」
「今構築してるんだけれ」
「すみません!すみませ・・・」
必死に謝る雪助を強く抱きしめるかぐや。
「貴方のせいじゃない」
「すみません!僕が!僕があんなに弱いばっかりにアリスさんがっ!!!」
かぐやの胸の中で嗚咽交じりに叫ぶ雪助。そしてその叫びを覆い隠すかのように強く、強く抱きしめるかぐや。
「貴方は決して弱くない」
「僕は!僕はアリスさんを守れなかったっ!!!アリスさんは必死に守ってくれたのに!また!!またぁぁぁぁ!!!僕は助けられるほうだった!!!!!!!」
雪助は下唇を噛む、すぐさま血が滴り落ちる。
「助けられなかったんじゃない。今度は貴方が・・・貴方から助けに行くのよ雪助」
その最も雪助が尊敬する人の声に最も似た声で、最も近くで自分の名を呼ばれる。
悲しみが、悔しさが、怒りが、情けなさが、憎しみがすべて涙と泣き声となってラボに響き渡った。
『・・・・・・・泣くんじゃねえよ雪助。お前はよくやったよ。弱いのは認めるけどよ、戦場で自分の能力と立ち位置を一番理解してるのはてめえなんだからよ。お前みてえなやつがうちにはしっかりといねえといけねえんだ。なんせあのじゃじゃ馬アリスや無理難題ふっかけてくるかぐや姫の注文に応えられるのはてめえだけんだからよ・・・待ってろよ雪助・・・待ってろ・・・すぐに・・・もうすぐだ・・・てめえができねえことアタシがやってやるからよ。だからそれまで涙なんてからっぽにしとけ・・・』
3日後
「それで脳髄と義体のシンクロはできたんじゃろな?」
「ええ、問題ないわ。あとは実際にやってみての調整だけ・・・舞台はつくってくれたんでしょ?」
「戦闘用重犯罪者義体の死刑囚を集めろ・・・最初はなんだと思ったが、効率がいいな。まず裁判がいらん」
「ぶちょーさんが好きなところだと思ったわぁ。実力は折り紙付き?」
「ほとんどが外国製の違法カスタムやオリジナルじゃ。法務省も手にあまっとった連中ゆえに、菓子折り付きでわたしてくれたよ。だが下手したら国連仕様より強いな。新自衛隊が出動したやつもおる」
「ベリグット」
そういうかぐやと岩谷の周りには2課と5課の恋とシンフォニア、ニックに時雨がいた。
そしてかぐやが鍵盤の一つを叩く。そうして開かれる培養槽。
「おはよう、愛しい愛娘『茨姫』」
「ハッ!だーれが愛しい愛娘だ・・・まあ『今』はそうだな・・・お前の娘だな」
そう答えるのは黒髪を4つに結い二つを肩から胸元に下ろし、二つをツインテールにした少女だった。
「やっぱり貴方が・・・」
時雨が感動した様子で見つめる。
「・・・・・・」
すこし悲しそうな表情をするニック。
「久しぶりね・・・その姿で会うのは」
笑顔のシンフォニア。
「やっぱりこっちのほうがしっくりくるよ」
両手で四角を作って見つめる恋。
「あっははは!!!!!待たせたな!」
そう少女は言うと培養槽から飛び出すと、すぐさまシンフォニアに抱きつく。
驚くシンフォニアに少女は口を開く。
「・・・あんときは悪いこと言っちまった、ごめん」
「・・・・・いいのよ。事実ですもの・・・でも今度は絶対に」
「ああ」
そうして時雨のほうを見る少女。
「手加減はするな、敵は壊せ。後ろは振り向くな。お前には頼れるオヤジがいる。前だけ向いて走りぬけ。そうすれば必ずお前ならこのステージに立てる」
「はいっ!!!」
やや潤んだ表情でうなづく時雨。
「それじゃあ、まずは呼び名を決めようか。『今』の君はミス・烈火?それともミスター・烈火?それとも・・・?」
したり顔の恋。それにさらに不気味ともいえる笑顔で答える少女。
「『今』のアタシは・・・そう、眠姫。春風眠姫さまだ!」
童話シリーズプロトタイプにして唯一の義体
特機ランキング第一位『眠り姫』の春風眠姫
烈火の炎を春の力強い風が吹き消し、眠りを覚ますは最強の童話の姫
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