第20話~茨姫~Ⅰ

「だからしねえっつてんだろ!!!」

「そんなこと言っても、貴方そのボディにしてから8年もオーバーホールしてないじゃない!!!」

そう声を荒げるのは烈火とかぐやだ。

そしてその二人の周りには2課の地獄巡恋とシンフォニア、5課のニックと時雨。そして部長の岩谷がいた。

「いいかげんにせんか烈火、通常義体は1年に1回はするものなんだぞ。なにをもってして毎回断る」

「そうよ烈火。義体の違和感・・・貴方なら気がついているでしょう?通常の調整では限界がある。一度脳核をボディからはずすオーバーホールをしなければ、すべての感覚がぶれてしまう!貴方はマニュアル調整でリアルタイムにやってごまかしてるようだけれど、それだってどれだけ生体脳にストレスを与えているか・・・」

そう言われ烈火はサングラスの奥の目を細める。

「・・・・・アリス達にはまだかぐやを任せらんねえよ」

そう静かに言う烈火。周りの者たちは無言だった。

「いいのよ烈火。そのために今回、みんなに来てもらったんじゃない。雪助君やフォティアがいなかったころとは違うわ」

そう優しく諭すように言うかぐや。

そう言われ烈火の視線がちらりとシンフォニアのほうに向く。

そしてその視線に気がつくシンフォニア。

「安心して、私が守るから」

振り向く烈火の先にはうなづくニックと時雨。

「・・・・・わーったよ!!!やるってーの!!!・・・4課のやつらを頼んだぜ」

そういうとかぐやに連れられ、烈火はラボに入っていった。

久しく見る夢が悪夢となると知らずに・・・



そうして数日後、静かに目を覚ます烈火。

数年ぶりのしっくりとくる体の感覚が心地いい。だが、その目が見たものは悲劇だった。

「・・・・・何があった」

それしかいえなかった。

回復槽には重体の雪助が浮かんでおり、自分の隣のベットではフォティアが左手を失い傷ついた姿で横たわっていた。

「おい、なにがあった・・・かぐや」

目が覚めて状況を確認するに、それを一番知るであろう人物の名を呼ぶ。

「烈火・・・」

すこし涙ぐんだ声。烈火が一番聞きたくない声だった。

周りには自分が眠る前にいたメンバーがいる。だが違ったのは、その全員が傷を負っていたことだった。

恋はわかる、生身であるがゆえに毎回包帯や三角巾にお世話になっているぐらい。

ニックもそこまでにないにしろ、ガーゼを張っているのはわかる。

だが、時雨の右手が切り落とされているのと、シンフォニアがやっとのことで立っている状態が一番烈火にとって危険だった。

そして同時に気がつく違和感。

「おい、アリスのやつはどこだ?」

それを聞きビクンとかぐやは身体を振るわせる。

「おい・・・アリスは・・・」

そう言ったところで岩谷が真実を告げる。

「攫われたのだ」

それを聞き目を見開く烈火。

「事の発端は2日前、突如始まった同時多発テロだ。それに対しうちは全課を動員し対処した。だが違ったのは、そのどれもがアタリだったことだ」

「・・・・・全部童話シリーズだったのか?」

「そうだ。確認しただけで、前期が2体、中期が1体・・・これまでになかったことだ。テロというより侵攻に近いな。もちろん4課は出撃は凍結していたがかぐやには、後方支援を頼んでいた。だが、異常なまでの強さに劣勢にしかれたとき・・・」

「・・・アリスが出ちまった」

「あやつの性格からしてそうだろうことは、わかってはいた。だが、問題は・・・敵の目的はそのアリスだったんだ」

「なんだと?」

岩谷の言葉に烈火が驚きの声を上げる。

「ナロードがアリスを欲しがったって?」

「違うのよ烈火」

すぐさまかぐやが答える。

「今回の敵は・・・煤原武と名乗ったわ」

「・・・誰だ?なんでナロードでもねえのに童話を動かせる?」

「やり口は簡単よ。フォティアにナロードがやったみたいな、人格の上書き・・・童話シリーズは前期に向かうに連れて、人格プログラムの構築が簡略化されているのよ兵器としての要素が強いから・・・だから上書きもやりやすい」

「そんなこと聞いてねえ。なんでナロードやお前クラスの科学者以外が童話を弄れる?今現在童話を弄れるのはお前かナロードだけなんだろ?全世界探してもいねえはずだ」

「まだわからないの!?」

かぐやは自分の身体を抱きしめるように呻き涙を流す。

「煤原武・・・偽名でしょうが、あいつは・・・あいつは研究所時代にいた、ナロードの実の弟なのよ!!」

「なっ!?」

烈火が愕然とした表情をする。

「そんなやつ俺でもしらねえぞ・・・」

「当たり前よ。彼は学習の過程で常にナロードと比べられ、廉価版の烙印を押され遂には廃棄処分になって死んだはずなのよ・・・・10年も前に・・・。私たちは作られた人間。人工授精は双子や三つ子などが生まれやすい。私にも2人の兄弟がいたわ。遺伝子が同じでもその中でさらに優秀な遺伝子を抽出するための研究所・・・同じ穴のムジナなら・・・あそこ生まれなら廉価版でも十分異常者よ」

そういうと悲しみに耐えられなくなったのか、膝を折るようにうずくまるかぐや。それを支える時雨。

「シンフォニア!!!」

烈火はすぐさまベットから跳ね起きるとシンフォニアの胸倉を掴んだ。

「烈火!!」

ニックが止めに入ろうとするが、それは止まらない。

「守るっつたろうが!!!お前が!お前がいるから!!俺は任せたんだ!!なのになんでこんなことになってるっ!!!」

「・・・・・ごめん・・・なさい・・・」

顔を背けるようにシンフォニアは、答える。

そこに恋が割って入る。

「彼女だけのせいじゃない。敵の連携は確実にアリスちゃんを引きづり出すための作戦だった。それに気がついたとき僕もシンフォニアを向かわせたさ。でも彼女が行ったときには前期型が2体に倒れている雪助くんとフォティアちゃん、彼女にはその二人を助けるので精一杯だったんだ」

「彼女だからって変に肩入れすんじゃねえぞ恋」

怒りのこもった声で言う烈火。だが恋は低い声で答える。

『落ち着けミス烈火』

「うぐっ・・・」

強烈なめまいが烈火を襲う。

「恋てめえハメやがったな」

「君が彼女に任せたんだ。それで彼女はできうる限りのことをした。それに文句を言って彼女に手を上げるのなら、今ここで君を殺す」

「恋っ!!!」

シンフォニアの静止も聞かずに恋はじっと烈火を見る。

だが烈火の耳に聞こえたのは娘の名前を小さく、弱く呼ぶ声だった。

それを聞いてこのどうしようもない行き場のない怒りが爆発する。

「泣くんじゃねえっ!!!かぐやっ!!!!」

バンッと壁を殴る。

「おめえは泣いちゃいけねえんだっ!!!」

ガンッと床を蹴る。

「悲しむんじゃねえ!!!いつもみたいにへらへら笑って!雪助に無茶なお願いして!フォティアと遊んで!アリスを弄繰り回してるのがお前だろうがっ!!!!」

「烈火・・・さん」

時雨の困惑した声が響く。

そしてひとしきり暴れた後、烈火は天井を見つめ、こうつぶやく。

「・・・・・・・・かぐや、アレ・・・・・出してくれ」

それを聞いて泣いていたかぐやが驚く。

「烈火あなた・・・」

「この身体じゃあ・・・烈火のままじゃあ、アタシも泣くに泣けねえよ」

そして岩谷が烈火の前に来る。

「・・・・・本当にいいんじゃな?」

「ああ、ジジイ・・・これはアタシの『全面戦争だ』」

その言葉を聞き岩谷は目を細める。

「違うな。これは、ワシらの戦争だ。もうおまえさんとかぐやだけで戦ってる時代は終わった。今度こそ、勝利してみせる・・・仮にもワシの部下を攫ったんじゃ。そのでかいツケを汚いケツにぶち込んでやる」

不敵に笑う岩谷に烈火も同じく笑った。

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