第43話 骨《ボーン》
—1—
ドクンドクンと脈を打つように頭に痛みが走る。
オレは青色の石が付いたペンダントを握り締めたまま立ち上がった。公園から溢れ出た黒霧はすでに民家の方まで流れ出ている。
霧が発生している範囲が魔獣の行動できる範囲だ。つまりこのままだと一般人が魔獣に襲われてしまう。
黒霧に気が付いた公園の周辺に住んでいた住民が、悲鳴を上げながら黒霧の外を目指して走る。
その声を聞き、あちこちから人が家の中から出てきた。
直に町から避難指示のメールが北柳町民全員のスマホに届くことだろう。
「三刀屋くん?」
「ああ、悪い。大丈夫だ」
塩見が心配してオレの顔を覗いていた。
こういう緊急事態だと目を合わせてくれるんだな。くりくりとした目とぷっくらとした唇が可愛い。
違った。今はそれどころじゃない。
公園に出現した魔獣だ。魔獣のレベルと種類。それによって戦い方が変わる。
スナイパーの塩見も学校帰りということもあって銃は持っていないみたいだ。
「
塩見の言う通り、黒霧の広がり方がこれまでとは異なっていた。
広範囲を覆いつくす黒霧。これは敵の強さによるものか、それとも数の問題か。
いずれにしてもその姿を見るまでは分からない。
それよりも、
「不味いな」
「えっ?」
塩見がキョトンと首を傾げる。
「ちょっと走るぞ」
「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい」
あたふたとする塩見が少し遅れてオレの後をついてくる。
スポーツテストの時、運動に自信が無いと言っていた塩見だが、さすが
オレとの距離が徐々に開いてきてはいるものの、見失うというほどではない。
これが一般人だったら数秒で見失うレベルだろう。
時間が無い。この霧の広がり方だと間違いなくオレの家も飲み込まれているはずだ。
家にいるクロが危ない。早く助け出さなくては。
クロを死なせるようなことがあったらオレは妹と合わせる顔がない。
「クロ!」
「ガルルッ」
玄関の扉を開けるとクロがオレに飛びついてきた。クロの重さで地面に押し倒される。
やはり予想通りオレの家まで黒い霧が流れてきていた。
ということは、公園の近くに家がある塩見の家族も心配だ。
「塩見、家は大丈夫なのか?」
「た、多分大丈夫だと思います。この時間はまだ仕事なので」
塩見がスマホを取り出して何やら文章を打ち込んでいた。
家にいないのなら魔獣に襲われる心配はない。
「クロ、ここはもう危険だ。一緒に行動するぞ」
「ガルルッ」
嬉しそうに黒い尻尾を振るクロ。
クロは黒い狼の魔獣でオレがウルフと呼んでいる種類だ。10年来の長い付き合いでオレの言葉も理解している。
「やっぱり近くで見ると大きいですね」
クロを見るのは2回目の塩見はびくびくしながらクロの体を見ていた。
「魔獣と戦ってるんじゃないのか?」
銃という武器を持ち、あれだけの腕の持ち主なら魔獣と戦う機会も少なからずあるはずだ。
ウルフは魔獣の中でも頻繁に出現するタイプ。見慣れていてもおかしくはない。
「私は中、遠距離型なのでこうやって間近に見る機会はなかなか無いんです」
「なるほどな。一緒に連れて行くけど問題無いか?」
「は、はい。それは全然、全然……」
「ガウッ」
「ひゃっ!」
よろしくという意味を込めたクロの
「そんなに構えなくても大丈夫だぞ。クロはオレが敵だと判断した相手しか襲わないから」
「って言われましても」
クロの頭に恐る恐る手を伸ばす塩見。
クロは大人しく座り、震える塩見の手をジッと見つめている。
「ガフッ」
「よ、よろしくお願いします」
クロのげっぷに驚き、手を触れることが出来なかった塩見だが、初めに比べたら少しは慣れたようだ。
触れるようになるのはまだ先になりそうだが。
「ここで時間を使っていてもあれだし行くか」
久しぶりに出現した魔獣だ。
オレと塩見とクロは、霧が一層濃いエリアである公園に向かった。
—2―
銀の棒状の策で囲われている公園内にそいつはいた。
体長は小学生低学年ぐらい。120~130センチぐらいだろう。見た目は骨。
武藤が興味を抱いていた匿名掲示板サイトに載っていた陸地を拠点にする2足歩行の魔獣だ。
オレは勝手にその見た目からボーンと呼んでいる。
骸骨の目の部分が赤く光っていて何とも不気味だ。手にはバットと同じサイズで太さがややある骨を持っている。
こいつとは過去に何度も戦っている。
防御力が高く、バット代わりの骨を振り回して攻撃してくる。結構凶暴だ。
「クロは塩見を頼む」
「ガウッ」
短く吠えるとクロが塩見の傍に行き、辺りを警戒するべくクルクルと回り始めた。
「三刀屋くんは?」
「オレはあいつを倒してくる」
クロと塩見に背を向け、ボーンに向かって歩みを進める。「1人で大丈夫ですか?」という塩見の声にオレは右手を軽く上げて問題無いと答えた。
公園内の地面は全て柔らかい砂だ。気を抜くと足を取られそうになる。
1歩進む度にザクッザクッと音を立て、砂の感触が伝わってくる。
公園の一角にある遊具の脇を理由も無く何度も行き来していたボーン。そのボーンとの距離をゆっくり詰めると、赤く輝く2つの目がぎろりとオレの姿を捉えた。
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