第3話 金髪の美少女ソフィー
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入学式に避けては通らない一大イベントの1つ。それが自己紹介だ。
オレのような出遅れた人でも、このイベントがあることでクラスメイトの名前と顔を一通り知ることが出来る。
いきなり全員の名前を覚えられるかは別として、友達ができるきっかけになるかもしれないオレの中では大きな行事の1つだ。
自分の名前、出身中学、趣味、入ろうと思っている部活などなど、個性のある自己紹介が続く。
よくそんなにすらすら話せるなと感心する一方で、自分の番が近づき緊張して来た。
こういう自己紹介の場で面白いことを言って笑いを起こしたりすれば、たちまちクラスの人気者になれる。
中学の時は、誰でも知っているとある芸能人の親戚です、とか言って注目を引いてた男子がいたっけな。結局それは嘘だったわけだが、そいつはクラスの中心人物になった。
人は第一印象で全てが決まると言われているくらいだし、気合いを入れなくては。
「私は
男子の一部から歓声が上がる。橘の自己紹介が終わってからもしばらく拍手が鳴り止まなかった。
ソフィーナターシャという名前からしてハーフだろうか。
金髪のロングで、吸い込まれるような青い瞳。ブレザーの上からでもわかる膨らみが2つ。
それに要所要所で見せていた笑顔が、男子の心を鷲掴みにしていた。
オレの2つ前の席の坊主くんなんか、マネージャーに来て欲しいから後で頼んでみようかなと、隣の席の眼鏡くんに話していた。
人当たりも良さそうだし、女子からの人気も出そうだ。間違いなくクラスの中心人物になるな。
「わ、わ、私は……」
橘の次に自己紹介をするはずの一番前の席の女子が、直立のまま話し出せずにいた。
好感度抜群の橘の後ともなると無駄にプレッシャーがかかることだろう。気の毒だな。オレだったら何も言わず、逃げ出したくなるところだ。
「私は、
最後の方で突然声が大きくなり裏返った。教室内は笑いに包まれる。
黒髪ショートカットの塩見は、顔を真っ赤にして席に着いた。
どうやら人見知りで、恥ずかしがり屋みたいだ。そういった人間にとって自己紹介という全員の視線が自分に集まるこの場は地獄だろう。
「よろしくね、塩見さん」
教室で下品な笑いが起きている中、橘は塩見に優しく笑顔で話し掛けた。
塩見は落ち着きを取り戻したのか、こくんっとうなずいた。目は合っていなかったが。
自己紹介もルックスも完璧な橘は、こんな気遣いもできるのか。もはや反則だろう。これで好きにならない男子はいない。
その後も順調に自己紹介が続く。
「わいは、
和井場は短くそうまとめた。
この茶髪関西弁もどきコミュ力モンスターにかかればクラスに打ち解けるのも時間の問題だろう。
それにしても自分で和井場の二つ名を考えておきながら、なんだか呪文みたいだと思って笑ってしまった。
危ない危ない。誰にも見られてないよな。
隣を見ると、白川が汚物を見るような目でオレを見ていた。
「何1人で笑ってるの? 笑えるポイントは1つも無かったと思うのだけど」
「思い出し笑いだ。気にするな」
「気持ち悪いから2度と私の前でやらないで」
いくらなんでも言い過ぎだろ。オレに笑う権利は無いってか。
そんなにオレの笑った顔って気持ち悪いのか? でも自分の笑った顔なんて冷静に見たことないな。家に帰ったら鏡の前で確認してみるか。
そして、先程まで涼しい顔をしていた白川の順番になった。
「
自分から
橘の時と同じくらい白川にも注目が集まった。
橘に夢中だったあの坊主くんなんか、ヒーローを見るようなキラキラした目で白川を見ている。
魔獣が現れる際に出る黒い霧は、
一般人は黒い霧が発生したら、その周辺には近づかないようにと、幼い頃から徹底的に指導されているので、自分から近づく者はいないだろう。
だが、万が一ということもある。そういった不安を抱えている人にとって、白川のような存在はとても大きいはずだ。
「一気に注目の的になったな」
「それはどうも。あなたも言えばいいじゃない、オレも
「だからオレは違うって」
そうだったわね、と言って白川は身振り手振りで自己紹介をする男子に視線を向けた。
自分の話したいことを全部話したのか、満足そうに男子が座る。
それを見て、例のあの坊主くんが立ち上がった。
「俺は
何やら告白のような雰囲気。
おーっという声の後にクラス全員の視線が橘に集まった。
「えっと、他にも色々見て回りたいから今すぐやりますとは言えないけど、見学からでもいいかな?」
えへへっと橘が笑う。うん。文句無しで可愛い。
「も、もちろんっす! 来て頂けるというだけで、全然十分なので。ありがとうございます!」
渾身のガッツポーズが武藤から出る。なぜか分からないが、敬語になっている。まあ気持ちは分からなくもないが。
そんなこんなで順番が回り、いよいよオレの番だ。
ここで一発、みんなの気を引くお手本のような自己紹介をだな。
「み、
緊張で頭の中で何度も繰り返したシミュレーションも意味は無く、物凄い早口になってしまった。
おまけに順番が最後ということで、喉の渇きが酷く、かっさかさの声だった。
聞こえたのか聞こえていなかったのかやや間があり、気持ちばかりの拍手が鳴った。
そんな拍手でも今のオレには何も無いよりは全然マシだった。
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