第一章-10 『拳士と剣士』

 ライアと魔導士は互いに攻撃のタイミングを慎重に図っていた。


 そしてーーー


 照りつける太陽が一瞬雲間に隠れたのを契機に、木陰の魔導士は風魔法を放つ。

 回転する大気の渦はライアのすぐ横を掠め、地面にぶつかって弾けた。

 威嚇のつもりか、それとも誤射か。

 そんな悠長な弾外しの隙を、ライアは見逃さなかった。

 左腕は負傷しているが、右が使えれば十分だ。


 ライアと2人の魔導士の距離は1人が5メートル程、もう1人が10メートル程。

 ちょうど3人で三角形が作れるような位置取り。

 さっきはクラウスの方を狙っていた魔導士も、今ではライアに照準を定めている。


 有利な状況を作って、数と奇襲で押し切る。

 これが彼等のやり方。

 そうやって実力のある魔導騎士も倒してきた。


 本来なら1対2の魔法戦は余程の実力差があるか、1の側が強力な範囲魔法を使えるかでないと勝負は一方的なものになるのが自然だ。

 今回はライアから見て扇状の先端に2人の敵がいるのだから通常なら圧倒的な不利陣形。

 もし魔導院の教官がこの状況を見たなら逃げるべきだと箴言するだろう。


 もちろんそれは普通の魔導士に限った話だ。

 まともな魔法を使えないが故に、ライアにそんな常識は通用しない。


 5メートルの距離が詰まるのは、ほんの一瞬。

 そんな僅かな一瞬で、人にできる思考は、行動は限られている。


 安全な距離から、魔法を撃つことしかしてこなかった魔導士。

 危険な距離から、リスクを背負って突っ込むことしか出来なかったライア。


 絶対に勝てる・・・自信を持ってこの場に臨んだ魔導士と、絶対に勝つ・・自信を持ってこの場に臨んだライア。


 有利な状況で勝ちを確信した者と、不利な状況で勝ちを確信した者。

 有利な状況でしか戦わない者と、不利な状況で戦わざるを得なかった者。

 両者の覚悟の差は歴然だ。


 そんな覚悟の差は、時に一瞬で戦況をひっくり返す。

 この距離なら勝てるだろうと高をくくっていた魔導士の前には、ライアが一瞬で迫っていた。


 威力のある魔法では間に合わない。

 詠唱の短い魔法では止められない。


 幾つもの選択肢、手札を持つ故の判断力の低下がもたらす迷いは戦場では致命的だ。

 有利な時にしか扱えない大量の手札は、非常時に意味を成さない。

 不利な時に扱える手札の数こそ、己のキャパシティであり、本当の戦闘力といえる。

 迷った挙げ句にヤケクソで切ったような手札は、全力で叩き付けられた1枚の手札に敵うはずもない。


 ーーー甘すぎるんだよ、技術も覚悟も何もかも。


 これこそが、実戦経験の差というものだ。


 1人目の魔導士はあっと言う間に顎を打ち抜かれ、地面に倒れ伏す。

 この様子では当分動けないだろう。


 続けてライアは2人目を見やる。

 ここからの距離はおおよそ10メートル強といったところだろうか?

 だが、魔導士は一向に魔法を放ってこない。


 相方がやられた今の一撃で理解したのだろう。

 この距離が詰まるのは数瞬。

 一見有利に見えた魔導士は、一転して圧倒的に不利な状況へと追いやられる。

 遠くから魔法を連射していれば良かった今までの戦いと違って、今回は回数制限がある。

 それも、おそらくは1発か2発。

 仮に当たっても、重心を捉えられなければ止められない。

 掠り傷程度じゃ勢いは殺せない。


 考えても考えても、魔導士には勝ちが見えなかった。

 そうして出した結論は、逃走という妥協案。

 否、最もこの場で有効であろう最上級の駄策だ。


 ライアは猛然と魔導士に迫った。

 走る速度の違いは歴然、すぐに追いつかれる。


 だがーーー


「これでも食らえ、『エクシズパルス』ッッ!!」


 魔導士は突然振り向いてこっそり詠唱していた水魔法を放った。

 恐怖と諦観と絶望に塗れた顔で放ったその魔法は、当然命中するはずも無く、ライアの肩先から彼方へ抜けて行く。


 ーーー無謀な不意打ちほど、当たらない技は無いんだぜ?


 次の瞬間、顔に強烈な衝撃を受けて魔導士の意識が刈り取られたことは言うまでもない。


 僅かな時間で、決着はついた。


 ***


 一方その頃、狙撃の魔導士とクラウスが獣車の傍で睨み合っていた。


「貴方が最近出没する強盗犯の正体ですか」


「テメェに答えてやる義理はねぇが、まあいいだろう。その通りだよ。俺達はこれまで何台もの獣車を壊して積荷を奪ってきた。だがな、見境なくやっているわけじゃないぜ? 俺達が狙うのは魔導士の乗った獣車だけだ。只の行商人風情は襲わねぇ。この意味が判るか?」


「魔導士に対して、何らかの恨みがあるということですか」


「良く判ってんじゃねぇか。俺達は魔導士、いや、魔法が支配するこの世界を恨んでるんだよ。だから襲った。ご立派な魔導騎士様が奇襲に怯えて逃げ惑う姿を見るのは最高の気分だったぜ。これは報復だ。俺達の居場所を奪った憎い奴らに、思い知らせてやる為のな!!」


「貴方達に何があったかは知りませんが、僕達にとってはとんだ逆恨みですね。これ以上、僕の大切な人を傷付けると言うなら……」


「言うなら……どうするってんだ?」


貴様・・には、この場で死んでもらうぞ」


 異様な殺気が漲った。

 今まで見せていた顔の裏側。

 大切な人を守る為にクラウスはそれを解き放つ。


「テメェもなかなか狂ってんじゃねぇか。俺の怨嗟とテメェの狂気、どっちが上か比べてみるとしようか!!」


 2人は同時に詠唱を始める。


「引き裂け、『ディバインスピア』ッッ!!」

「叩き潰せ、『ディアボリックフォール』ッッ!!」


 2人の使用する魔法は両方無属性。

 クラウスの作り出した純白の槍と男の生み出した白濁した渦は衝突して轟音と共に相殺されて霧散した。

 初撃の威力は互角だ。

 このまま魔法戦に突入したら泥仕合になるだろう。


 それが分かると同時に2人は懐から武器を取り出した。

 クラウスの武器は細長い銀色の剣、所謂レイピアだ。

 対する男の武器は湾曲した2本の短剣、ククリナイフに似た形状をしている。

 またしても同時に、武装魔法の詠唱を始める。


「精霊の加護よ、我が剣に集え、『セイントコール』ッッ!!」

「悪魔の加護よ、我が剣に集え、『デビリアンライズ』ッッ!!」


 幻属性で強化されたレイピアと闇属性で強化された短剣がぶつかり合い、鈍い金属音が木霊する。

 お互いに狙うは相手の急所一点のみ。

 生かして捕らえる事など全く考えていない、純粋な殺し合いだ。


 男は器用に2本の短剣を振り回して連撃を繰り出す。

 『デビリアンライズ』で強化された短剣は元々黒い刀身が更に黒い渦で覆われており、一振りごとに闇の斥力が働いて相手の武器を強く弾く能力がある。


 対するクラウスのレイピアに纏う燦然とした輝きは幻属性魔法『セイントコール』の力だ。

 この魔法が掛かったレイピアは相手の武器から受けた衝撃を剣先へ逃がす能力を持つ。

 本来ならば刃物の打ち合いで生ずる鍔迫り合いからの受け流しは、剣の強い部分である鍔と弱い部分である先端の間での動作が瞬間の有利不利を決定づけ、それがそのまま勝敗を、厳密に言うなら生死を分ける結果となる。

 形状の異なる金属の衝突で生じる摩擦力と静電気力を打ち消す方向に働く幻属性魔法の力で、通常より早く武器同士が接する所謂バインド状態を離脱することにより、クラウスの剣技は通常より多くの手数を持つのだ。

 斥力と軽減された摩擦力によって2人の剣は衝突した直後に弾かれまた刺突を繰り返す。

 そうして繰り返されるのは高速のサドンデス。

 勝負は一瞬で終わってもおかしくないのだがーーー


「テメェ、やっぱりイカれてやがるぜ。こんな精密な剣技を見たのは久しぶりだ」


「貴様こそ、こんな上等な剣技を持つのにどうして犯罪者などに成り果てた?」


「言っただろう、俺の居場所はとっくに奪われてるんだ。だから奪った奴らにこうやって報復してるのさ。獣車の襲撃者って形でな!!」


「なるほどな、貴様を動かすのはその怨嗟と言うわけか。だがな、小悪党、よく覚えておけ。僕の剣は護る為の技だ。貴様のような逆恨みで振るう剣とは違う!!」


 声を荒げたクラウスが再び仕掛けた事により剣戟が再開される。

 魔導士でありながら高い剣の腕前を持つ2人の攻防は白熱を極めた。


 クラウスの精密な刺突を、男は1本の剣で捌いてもう1本の剣で斬りかかる。

 だが、強まった衝突の反動で素早く剣を振るわせたクラウスは、レイピアを流すように剣に打ち付けてもう一度刺突の構えを取る。

 そんな攻防が数合繰り返された後、ついに変化が訪れた。


 男の左に持つ短剣がレイピアと衝突する瞬間、クラウスは身を屈めてフェイントに出る。

 空を切った剣を下から薙ぎ払うように叩き落として、そのまま男の右肩にレイピアを突き立てた。

 一瞬の隙を突いて相手を無力化する技術はそう簡単なものではないだろうが、拘束することに成功すれば情報を聞き出すことが出来るかも知れない。

 そんな、後の事まで考えた流麗な剣技に対し、追い詰められた男は息を吐きながら邪悪な笑みを浮かべる。


「ぐっ......ふふっ。詰めが甘いッッ!!」


 突き刺された方の右腕に力を入れて男は前進した。

 鋭い剣先に傷口が広がり、灼けるような痛みが走るのを堪えながらも男は不敵に笑う。


 なぜなら、自分にこんな傷を付ける程の実力の相手が初めて顔を歪めたから。

 困惑と恐怖の入り交じった顔を見ることが出来たのは相手を出し抜いた証拠。

 そんな狂気にも似た思考回路のままに突き出された剣は、防ぐ術の無いクラウスの脇腹に深々と突き刺さった。


「い、嫌っ、クラウスっっ!!」


 戦いを呆然と見ていたブリジットの口から悲鳴が漏れる。


「ぐあっ......心配無用です、ブリジット様......ッッ!!」


 クラウスは悲鳴を噛み殺して自分の武器に力を込める。

 文字通りの痛み分けの状況。

 男の方も声を上げるほどの激痛のはずだ。

 しかし、お互いの相反するようで相似な狂気と信念は自分の武器から手を離そうとしない。

 多量の血を零しながらの互角な一騎打ちはまだ続く。

 否、互角では無い。

 肩口より脇腹の方が内臓に近いのだ。

 このまま続けば先に倒れるのは自分だと気づいたクラウスは残った力を振り絞って蹴りを繰り出した。

 互いの身体が離れ、武器が抜ける。

 その衝撃で更に傷口から血飛沫が舞った。

 だが、それは男も同じだ。


 ーーー僕が倒れたら、ブリジット様を守れない。

 ーーー早くこいつを倒さないと......!!

 ーーー殺してでも......ッッ!!


 決意を固めてレイピアを構える。

 これだけの傷をお互いに負ったのだから、どちらかが倒れるのも時間の問題だ。


 ーーー絶対に、負けられない!!

 ーーー......。

 ーーー......ん?

 ーーー何かがおかしい。

 ーーーさっきまで後ろで心配して下さっていたはずの、ブリジット様の声が聞こえない......だと?


 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 男を突き放した後もずっと、奴が薄笑いを浮かべていたのはその狂気故だと思っていた。


 ーーー違う!!

 ーーー奴は僕の後ろを見て笑っていたんだ......ッッ!!


 前に敵が居ることも忘れて振り返る。

 そこには、見知らぬ女が、ブリジットの首に刃物を突き立てている姿があった。


「聞こえなかったのかい、アンタは。それ以上抵抗したら、この娘の顔に傷が付いちまうよ?」


「た、助け......てっっ!!」


「貴様ああああっっっっ!!!!」


 激昂して女を睨み付けるが、打つ手は無い。

 それに、後ろに敵がまだ居ることを一瞬でも忘れたのは致命的だった。


「隙だらけなんだよォ!! テメェの負けだァッッッ!!」


 クラウスの背後から凶刃が牙を剥く。

 挟み撃ちなのは、ライアの方だけでは無かった。


 ーーーブリジット様、申し訳ありません......ッッ!!


 死を覚悟したその刹那。

 男の顔が、歪むのを見た。


 それは勝利を確信したものでは無い。

 敵を傷つける事を悦ぶ邪悪なものでも無い。


 想定外の事に困惑する、そんな顔だった。


 直後、背後から聞こえたのはーーー


 誰かが殴られたような、鈍い音。


「待たせたな、クラウス」


 それは、聞き覚えのある少年の声。

 決着はまだ、付いていない。

 背後からの声は聞き覚えのあるものだった。

 

「こっちは任せろ!!」


 精神に再び火が灯った。

 自分が諦めて倒れてしまったら誰も守れない。

 ーーーこいつは、僕が倒すんだ!!


 まだ動く左手を軸にレイピアを構えてギリギリの所で剣を受け止める。

 武装魔法の効果はお互いに切れており、互いの得物は弾かれることなく競り合った。

 刀身のぶつけ合いなら細身のレイピアは分が悪いことを知った男は勝ちを確信して踏み込んでくる。


 だが、2人の得物が血で濡れて滑りやすくなっていた事に先に気づいたのはクラウスの方だった。

 半身を引き戻してレイピアを引くと、驚くほど簡単に得物は離れていく。

 

 次の一撃が決定打になると気づいたのは同時、半身を引いて軌道を変えたレイピアは真っ直ぐに男の身体に向けられている。

 対して空を切った男の剣の刃はクラウスの方を向いていない。

 構えたレイピアの刺突と振り下ろした剣を横薙ぎに振るう挙動の早さ、どちらに分があるかは言うまでもない。

 

「僕の、勝ちだ......!!!」


 レイピアは的確に男の胸部を貫き、勝利を告げる鮮血が舞った。

 

「ぐはぁっっ......」


 レイピアを引き抜くと、男は膝をついてそのままうつ伏せに倒れた。

 

 2つの戦闘は、ようやく終わりを迎える。


 ***

《アルベリア街道-中央地点》


「おい、クラウス!! 大丈夫か?」


「僕の事は......心配なさらずに......ブリジット様は?」


「お嬢様なら無事だよ。気を失っているけど、命に別状はないさ」


「そう......ですか。ライアが、助けてくれたのですね。我が主に代わって、礼を......」

 

 そこでクラウスの意識も途切れた。この怪我で放置すれば命に関わるだろう。

 かといってライアに回復魔法が使える訳ではなく、ブリジットも気を失い目を覚まさないままだ。

 今さっきブリジットを人質に取ろうとしていた女は倒したが、またどこから敵が出てくるかも分からない状況に置かれているのは変わらない。

 

「くそっ、どうすればいいんだ......!!」


「あの、何かお困りですか?」


 茂みの方から何者かの声が聞こえ、ライアはまた戦闘態勢に入る。

 

「えっと、そんなに警戒しないで下さい。私はあなたの敵じゃありませんから」


 出てきたのはフードをかぶった小柄な少女だった。

 

「あなたたちは怪我をしているんですよね。私が回復魔法を使いますから、あなたは周りを見張っていてもらえますか?」


「君は一体......いや、そんな場合じゃないな。回復魔法を使えるなら頼む、皆を助けてくれ!」


「承知しました。少し時間が掛かりますから、待っていてくださいね」


 少女は胸の前で両手を組み、詠唱を始めた。


「万物の根源よ、清浄なる加護を持って傷つきし者に祝福を与え給え、『セラフィリオン』っっ!!」

 

 少女の手から溢れた光は球体となって浮かび上がり、そこから一帯に光の雨を降らせる。

 それに触れたライアの腕の傷はみるみるうちに治っていった。

 

「これで皆さんの傷は大方治りました。でも、失った体力までは元に戻せません。しばらくしたら目を覚ますと思いますから、それまで見守ってあげてくださいね」


 その一言を残して少女はその場を去ろうとする。

 

「待ってくれ、君は何者なんだ?」


「私、ですか? えっと、私はただの通りすがりの魔導士ですよ。大した者ではありませんから」


「そうか。ならせめて名前を教えてくれないか? 後でちゃんとお礼がしたいんだ」


「ごめんなさい、今は名乗れないんです。それにお礼なんて結構ですよ? 私に出来る事をしただけですから」


 そう言って顔を上げた少女と初めて目が合った。

 綺麗な碧い双眸が、ライアを真っ直ぐ見つめている。

 ーーーこれ以上は聞かないで欲しい。

 言外にそう言われたような気がした。


「君にも事情があるんだよな、引き留めて済まなかった」


「いえ、そんなことありません。困った時はお互い様ですから」


 フードの中に見えた少女の可憐な横顔は、ここが今まで戦場であったことを忘れさせるほどに眩しかった。


「ならせめて、一言だけ礼を言わせてほしい。皆を助けてくれて本当にありがとう。この恩は絶対に忘れないよ」


「どういたしまして、です」


 深々とお辞儀をしてから顔を上げると、少女は踵を返して去って行くのだった。


 

 ***

《アルベリア街道-王都寄り》


 傷の癒えたライア達一行は魔法を受けてボロボロになった獣車で王都に向かう。

 あれほどの激戦だったのにも関わらず、霊獣は無傷だった。

 霊獣はとても賢い生物である為に自分達が襲われれば当然反撃するが、同行していた人間が襲われても余程の信頼関係がない限りは助けたりはしない。

 薄情なようにも見えるが、これが彼等なりの生きる知恵なのだろう。


 獣車の中では相変わらずブリジットが文句を垂れていた。


「貴方のせいで服が破れてしまったんですのよ!! どう責任をとってくれるのかしら?」


「知らねぇよ。お前は服と自分の命のどっちが大事なんだよ?」


「どっちもですわ!!」


「付き合ってられねぇな......」


「2人とも、仲良くしてくださいと言ったばかりじゃないですか......」


 そんな下らない喧嘩をしながらも、獣車の中の雰囲気は重かった。

 簡単に運ぶと思っていた任務でこの被害だ。

 襲撃者4人は獣車のスペースに余裕が無かったので放置してきたのだが、襲撃者の拘束は今回の目的ではないし仕方ないだろう。

 問題は、今回の襲撃者達は索敵魔法に引っかからなかったことだ。

 一度発動した索敵魔法は、ブリジットの首飾りに付いた魔導石とリンクしており、本人が気絶していても人が近づくとマナの移動を感知してそれが光る仕組みになっている。

 行商人が来たときはちゃんと反応していたので効果が切れたのだとは考えられない。

 隠密魔法の使い手は少ないはずなのだが、どうやったのだろうか。

 今回限りはあの通りすがりの少女の助力に感謝する他ない。


 ーーーそういえば、あの子が来たも魔導石は反応していなかったような......。


 そんな疑念を抱えていたが、結局王都に着くまで他の襲撃者が現れることは無かった。



 ***

《王都フリューゲル》


 王都についたライア達は、3人で魔石を魔導院アルマンダルに届けに行った。

 襲撃者一行の件で大幅に遅れてしまった為、もう他の班は到着しているものだと思っていたのだが......。

 魔導院本部に入るなり、出迎えたのはヒルデガード卿だ。

 

「よくここまで辿り着いたな。君達は試験合格だ」


「試験? 合格? どういうことですの?」


「簡単なことだ。この任務は君達の実力を量るための試験だったのさ。いくら魔導騎士から推薦を受けたと言っても、実戦で使えなければ意味が無いだろう? だから、私が君達の獣車に刺客を送り込んで荷物を守れるか試していたのだよ。もっとも、君達の所に来た襲撃者は本物だったらしいがな」


「どうして卿がその事を知っているのですか?」


「それは当然、君達の所にも私の刺客を送り込んでいたからだ。あの襲撃者たちは全員拘束しておいたから安心するといい」


「刺客を送り込むなんて貴方それでも騎士ですの? もっと正々堂々とした方法は取れなかったのかしら!?」


 ブリジットが憤慨するが、ヒルデガードは涼しい顔だ。


「それは仕方ないだろう? 緊急時にしか測れない実力もある。それに、私の刺客には決して大怪我をさせないように命令しているぞ? まあ、本物に出くわした君達の運を恨むんだな」


 ヒルデガードは手を叩いて、話を続ける。


「ともかく、合格おめでとう。正式な部隊の結成式は明日、この魔導院で行う予定だ。他の地区からも様々な試験で選抜された魔導士が集まるだろう。楽しみにしておくといい」


 そう言って、彼女は去っていった。





 ようやく最初の任務が終わり、ライアはクラウス、ブリジットと別れて宿舎へと向かう。

 明日から始まるであろう、波乱の予感を胸に感じながら。

 


 ******

《魔法図鑑-7》

『エクシズパルス』

 水属性/RANK2

 射程/直線上・中距離

 分類/攻撃・ウェーブ

 コスト指数/100

 威力指数/105

 ディレイ/長


『ディバインスピア』

 無属性/RANK3

 射程/直線上・短距離

 分類/攻撃・ブラスト

 コスト指数/180

 威力指数/195

 ディレイ/長


『ディアボリックフォール』

 無属性/RANK3

 射程/前方・短距離

 分類/攻撃・インパルス

 コスト指数/200

 威力指数/190

 ディレイ/長


『セイントコール』

 光属性/RANK3

 射程/術者装備

 分類/武装・コーティング

 コスト指数/230

 効果時間/中

 能力/武器に与えられた衝撃の分散・流動


『デビリアンライズ』

 闇属性/RANK3

 射程/術者装備

 分類/武装・アーマー

 コスト指数/240

 効果時間/中

 能力/武器の威力・反発力増加



 

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