待ち人

やあ、来たね。

待っていたよ、ずっと。

君がやってくるのを……。


君に質問したいことがあったんだ。

そのために、川を渡らずに何十年も待ち続けた。

渡ってしまったら、もう二度と会えないからね。

ここは分かれ目なのさ。

ひとりずつ小舟に乗って、向かうべき場所へ行く。

良い人は良いところへ。

悪い人は悪いところへ。

君と僕は別々の場所へ行く。

だから、ずっと待っていたのさ。


で、質問なんだけど……。

どうして、僕を殺したんだい?

愛する妻よ。


ああ、そんな怖い顔をしないでくれ。

別に恨んでなんかいないよ。

ただ純粋に疑問なだけさ。

だいたい、僕が君を恨むわけないだろう。

生前だって、ただの一度も怒らなかったんだから、さ。


僕は君を愛していた。

本当に愛していた。

それ以外の感情はないんだよ。

悲しみも喜びも何もかもないんだ。

君と一緒にいて笑ったり泣いたりしたことなんて一度もなかった。

それでも君を愛していたんだよ。


どうして、そんな気味悪そうな顔をしているんだい?

僕にはわからないよ。

まったくわからないよ。

教えてくれ、愛する妻よ。

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