第32話 魔界通信 その2
いつきの質問にヴェルノは頑な態度を崩さない。今までも何度か同じ質問をしていたけれど、彼から返ってきた答えはいつも同じだった。よっぽど口に出せない想いがあるのだろう。他人の事情をしつこく聞く趣味のないいつきはヴェルノの意思を尊重してそれ以上の追求はしなかった。
「もう、強情だなあ……」
「家……か」
家と言う言葉にヴェルノは遠くを見上げるように遠い目をしながらつぶやいていた。その様子を見て彼女は思うところもあったものの、うまく表現出来そうになかったのでそれを口にする事はなかった。
舞台をまた魔界に戻して、ここはヴェルノの父親の書斎。彼は今誰かと通信装置を使って会話をしている。モニターと言うかホログラムと言うか、そんな感じの立体映像が空中に浮かんでいた。その画像にはフードを深くかぶった人間の姿が映っている。
「……そう言う訳なんだが、何か知っている事はないか?」
「父親も大変だな。お前からそんな話が出てくるとは……」
どうやら通信相手の彼がヴェルノの父の言う人間界の知り合いのようだ。ヴェルノ父とその彼は親交が深いのだろう、お互いのプライベートまで話す仲のようだ。映像上のこの男は見た目は顔を隠して年齢がはっきりしない感じだが、その声からそんなに若くない事は伺えた。多分それなりの年齢なのだろう。
魔界のそれなりの家柄の人物と交流する程なのだから、通信相手の彼もまた相当の実力者と見て間違いない。そんな彼とヴェルノの父の話は続く。
「私も息子の事はもう子供扱いしないと決めて、それで特に話さなかったんだが……流石にな」
「分かった、それとなく調べてみよう」
「ああ、頼む」
通信を終え、ヴェルノの父の依頼を受けたフード男は早速行動を開始する。どうやら彼には何か心当たりがあるようだった。
「さてと、あいつらにも聞いてみるか……」
それからフード男はとある洋館に足を運ぶ。どうやらそこに彼の言う"あいつら"がいるらしい。その洋館ではそれぞれの部屋で別々の人物が仕事をしており、彼はその一室のドアをノックする。ちなみに、その洋館の名前は『魔女のお茶会』と言う名前だった。
フード男は部屋に入ると、中にいる人物と軽い会話をしては部屋を変え、同じ事を繰り返していた。そうして何度目かの繰り返しの後、同じようにまた違う部屋のドアをノックする。
「ちょっと、いいかな?」
「マ、マルコ師匠!お久しぶりです!今日はどう言った要件で?」
フード男をマルコ師匠と呼ぶ彼女の名前は藤堂清音。そう、以前いつきを追いかけ回していた例の魔女だ。ここは彼女の仕事場だった。と、言う事は自動的にヴェルノの父の知り合いが清音の師匠と言う事になる。魔法生物と知り合いなら彼らを大切にしろと言うのも納得の話だった。いやあ、世間は狭いねぇ。
彼は優しく笑って清音の緊張を解すとおもむろに口を開く。
「ははは、何だ、用事がないと弟子に会ってはいかんか?」
「い、いえっ、とんでもない!では私に会いに?」
「うんまぁ、用事がないと言えば嘘になるがな。どうだ、元気にしていたか?」
マルコに優しく声をかけられて清音は心を踊らせていた。どうも彼女は彼に心酔している様子。きっと良好な師弟関係なのだろう。
「ええ、見ての通りです」
「元気そうで何よりだよ。そう言えば、最近何かやらかしたみたいじゃないか」
軽い挨拶を済ませて、すぐにマルコは本題に切り込んだ。この突然の指摘に清音は思い当たるフシがたくさんあった為、焦って視線をそらし白を切っていた。
「え、ええっ?一体何の話でしょう?」
「誤魔化そうとしても目を見れば分かる。私はお前の師匠だぞ。一体何をやらかした?人前で魔法を見せるなどと……」
「あああっ!すみません。全部話します!ですから」
マルコの鋭い言葉に何もかも見透かされている気がして、清音は許しを請う。その彼女の慌てっぷりを見た彼は苦笑いをするとすぐにフォローした。
「ははは、何も責めている訳じゃない、もう解決した話なんだろう?どうもしないさ。ただ話を聞きたいだけだよ」
「はい、実は……」
マルコに優しく諭されて清音は先日のいつき襲撃事件を彼に洗いざらい話した。その話をマルコは黙ってうなずきながら聞いていく。
「ほう、隣町に魔法生物……名前はヴェルノだと……。これは愉快な縁だな」
「師匠?今なんと?」
彼の漏らした言葉を清音は聞き漏らさなかった。
けれどマルコはその事は華麗にスルーして彼女の労をねぎらった。
「ああ、いや、こちらの話だ。しかし災難だったな」
「いえ、あれは全部私が悪いんです。魔法少女なんかに未練があったから」
優しい言葉をかけられて清音は恐縮する。その様子を見た彼はニッコリ笑うと彼女を優しく慰めた。
「今はもう悪意を持っていないのだろう?大きな騒ぎにもなってはいないようだし。ならそれでいい。同じ間違いをしなければいいんだ」
「あ、有難うございます!」
「清音、成長していくんだぞ」
弟子の成長を見届けて、マルコは清音の部屋を後にする。彼の目的はヴェルノの情報収集だった為、もうそれ以上の部屋の訪問はしなかった。
これらの行為から推測すると、魔女のお茶会のメンバー全員が彼の弟子なのだろう。目的を達して洋館を後にしながらマルコはつぶやく。
「さてと、あっさり見つかっちゃったなあ。これからどうするかな……」
マルコは洋館にいた頃は晒していた顔を隠す為にまたフードを深く被り、そのまま街の雑踏の中に消えていった。
「ま、報告くらいはするか……」
自室に戻った彼は早速魔界通信装置を作動させる。そうしてヴェルノの父に自分の得た情報を伝えた。
「何?見つかった?相変わらず仕事が速いな。頼もしい限りだ」
「で?どうするんだ?連れ戻すのか?」
マルコは今後の事について彼に質問する。そこでどんな答えが返って来たとしてもマルコは親友として出来るだけその望みに応えようと思っていた。
「いや、息子が自分の意志でそっちで生活しているなら今は見守りたい。ただ娘達が心配している。あの子達を安心させたいだけなんだ」
「ほう、じゃあどうする?」
このマルコの質問に、ヴェルノの父はしばらく考えてその中で出た結論を彼に話した。
「話をさせてやりたいんだ。無事が分かればあの子達も落ち着くだろうから」
「お前の自慢の娘達だものな。分かった。こちらでも動いてみよう。後は……」
「分かっている。娘達にはしっかり説明をしておくよ」
今後の方針が決まったところでマルコは通信を終了する。そうして早速彼も行動を開始した。まずは倉庫に行き必要な道具を探し出す。整理整頓された倉庫から該当の品を探し出すのはそんなに難しい事ではなかった。それがきちんと動くかしっかり動作確認した後、彼は適切な人物にそれを託す事にする。
「清音、これを彼に渡してくれないか?」
「えっ?はい、分かりました。急ぎですか?」
また仕事場に現れたマルコを見て清音は驚いていた。彼女が独り立ちしてからは殆ど交流がなかったからだ。普段なら年に一度会うかどうか程度の交流しかない。
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