魔界通信
第31話 魔界通信 その1
事の始まりの場所はヴェルノが元いた世界、魔界。そこのある邸宅の一室から今回の話は始まる。
「兄様、元気でやっていらっしゃるかしら?」
「あれから3ヶ月にもなるけど、向こうから連絡が一向に来ないなんて……」
そこではヴェルノのような羽の生えた2匹の猫が兄の心配をしてた。会話から、その兄は3ヶ月前に家を出ていったようだ。
2匹はとても良く似ている。その事から言って多分双子なのだろう。ヴェルノと同じく美しい白い毛並みをしている。違いはと言えば瞳の色くらいだろうか。1匹は澄みきった青い目をしていてもう1匹はまばゆいほどの黄金の瞳をしていた。
そんな2匹の会話の内容ははだんだん深刻さを増していき、やがて1匹がポツリと漏らす。
「もしかして……」
「駄目よリップ、強い思考は具現化しかねないないんだから」
2匹の内の1匹、青い瞳の魔法生物の名前はリップと言う名前らしい。リップは兄の現在に対して最悪の想定をしたようだった。そしてそれをもう1匹がその思考自体を強く戒める。この会話の流れから見て、言霊信仰のようなものがこの魔界にはあるのだろう。
「それでもずっと幸運を祈ってもその効果が分からないんじゃ……」
「分かった、父様に相談してみる」
リップではない方の羽猫が父親に話を持ちかけるようだ。父親に話せば何とかなるとこの猫が思うくらいなのだから、多分この猫達の父親はかなりの権力者なのだろう。この話を聞いてリップも同席を強く求めていた。
「私も一緒に行くよ」
「そうね、私達双子は一緒にいなくちゃ」
やっぱりこの2匹は単純に似ているだけでなく双子だとこの会話から判明する。双子の2匹は部屋を出て父親のいる部屋へと向かう。長い廊下を渡って階段を降りて……その邸宅の広さ、豪華さはまるでお城のよう。きっとそれなりの家柄だと予想された。長い距離も空を飛べばあっと言う間に到着する。
2匹の前に大きな扉が迫り、その気配を察知した扉が自動で開く。扉の向こうで待っていたのは2匹の父親だった。
2匹の父親であり、この邸宅の主であるその魔法生物は体がひときわ大きく、威厳に満ちた姿をしていた。その全身を覆うフサフサの白い毛は限りない優しさと強さを象徴しているかのようだった。
「父様!」
「何だ、ローズ、リップ。改まって」
どうやらもう1匹の利口そうな方の黄金色の瞳の魔法生物の名前はローズと言うらしい。父親は仕事の手を止めて子供達の前に向き直る。話を聞く体制が出来たところで彼女が真剣な顔をして口を開いた。
「父様に話があります」
「皆まで言うな、お前たちの兄の話だろう?」
父親は2匹が自分に向かって何かを主張して来た時点でその内容を予想出来ていたらしい。逆に言えばそれだけこの双子の兄好きは知られていると言う事なのだろう。兄を思うローズは父親に強く迫った。
「そうです!何故父様はあんな……」
「あれは仕方のない話だったのだ。まさかヴェルノが家を出るなどと……」
そう、ローズ、リップの兄はヴェルノだった。つまりここは家出したヴェルノの家。実はええところのボンボンだったのだ、ヴェルノは。ヴェルノの父は彼が家を出るなどとは思っていなかったらしい。彼自身が家出の理由を語ろうとしないからまだ真相は謎だけど、きっと家出せざるを得ないような何かが過去にこの家であったのだろう。
「兄様を呼び戻す事は出来ないのですか!」
兄を慕っているローズは更に父親に詰め寄った。
「うぅむ、私としても出来るならそうしたいが……」
ローズに詰め寄られた父親は言葉に詰まっている。探したり連れ戻す気があったらもうそう言う行動はしているだろうし、多分今のところその気はあんまりないのだろう。
でもこのはっきりしない父親の態度がローズは気に入らないようだ。
「何が問題なのです?」
「あいつに戻る意思がないならそれを尊重しなければ……」
この父親の言葉から察すると、彼の教育方針は放任主義っぽい感じのようだ。ヴェルノを信じているのか、ただ単に息子と関わるのを面倒臭がっているのか、これだけじゃまだ分からないけど……。
「父様は兄様の居場所を御存知で?」
「ああ……いや……だが無事ではあろうよ」
「その根拠は?」
ローズは更に父親に詰め寄っている。ローズがグイグイと話を進めるのでもう1匹のリップは黙ってその様子を眺めているばかりだった。この気迫には父親もタジタジの様子。そうしてその勢いに負けて息子が無事だと言う根拠を語り始めた。
「実は人間界に知り合いがいてな、この間も話したんだが、そこでそう言う話題は出なかった。もし何かあればあいつから話してくれるはずだからな」
この話を聞いたローズは、さっきの自分達の会話で出た内容を父親にもしものパターンとして話す。
「ですが、ひっそり人気のない場所で悲しい日々を送ってるのかも知れません!」
「分かった分かった。それじゃあ今度詳しく調べてみるよ」
「お願いします!」
ローズのしつこいまでの要求に父親は折れ、ヴェルノ探索を約束する。用事を伝え終えた双子はペコリと頭を下げて父親の部屋を出ていった。
静かになった部屋で父親は椅子をくるりと回し、窓から魔界の空の先を眺めながらつぶやいた。
「ヴェルノよ……。今どこにいるんだ……妹達は心配しているぞ……」
ローズ、リップは双子のヴェルノの妹達。こんな可愛い兄思いの妹達を残して彼は人間界にやって来ていたんだ。全く勝手な話だよね。
「ぶえっぅしょい!」
「うわっ!バッチ!何やってんの!」
夕食後のまったり時間にいつきがくつろいでいると突然ヴェルノがくしゃみした。あんまり突然過ぎて彼女は若干引いている。ヴェルノは羽猫なので当然のようにくしゃみを手で防ぎきれない。だから彼女も反応してしまったようだ。それからすぐに彼はいつきに謝った。
「ごめん……風邪かな?」
「気をつけてよね。変なウィルスばらまかないでよ!」
ヴェルノは普段あんまりくしゃみをしない。だから本当に風邪かも知れない。本来ならちょっとは心配するべきなのだろうけど、彼が魔法生物だと言う事もあって未知の病原菌をまず心配してしまい、ちょっときつい言葉をいつきは返してしまうのだった。
「う……ちょっとは心配してくれてもいいじゃんか」
「うーん、じゃ、熱とかあるの?」
「いや、多分病気じゃないよ、ちょっと鼻がむず痒かっただけ」
本人がそう言うならそうなんだろうと、いつきは彼の言葉の確認もせずにそのまま言葉を受け取った。
「何よ、やっぱり心配する必要ないんじゃないの」
「そりゃそうだけど……まぁいいよ」
いつきがが心配する態度を見せなかったので、ヴェルノはちょっとすねていた。見た目で異常が分かれば態度も少しは変わったのだろうけど、この時の彼はただちょっと大袈裟にくしゃみをしただけ。ただのくしゃみにそこまで心配はしないと言うのが彼女の考えだった。
「変なの。心配されたかったら家に帰れば?家出してこっちにいるだけでしょ?」
「今更どんな顔して帰れるって言うんだよ……」
いつきが家出の事について喋ったらヴェルノは淋しそうな顔をして急に黙ってしまった。やっぱり家の事が心に引っかかってるのだろう。彼女は改めてヴェルノに家出の理由を聞いてみる。
「そもそも何で家出なんかしたの?」
「言いたくないよ」
いつきの質問にヴェルノは頑な態度を崩さない。
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