第29話 妖怪からの依頼 その4
焦った彼女は早速ヴェルノにアドバイスを求める。
「ど、どうすればいいの?話し合い?」
「相手の出方次第かな?ま、話し合いなんてヌルい方法は多分通じないと思うけど」
その彼女の質問にヴェルノはちょっと突き放すように答える。この何の役にも立たないようなアドバイスにいつきは困惑してしまった。
2人のやり取りを見ていて自分が無視されているように感じた夢魔はかなり気を悪くする。
「お前ら、さっきから一体何を話している?」
夢魔から声をかけられ、仕方なく彼女は色々気になる事を質問し始めた。
「あの~、夢魔さんですよね?どうしてたぬ吉さんの夢に?」
「は?どうしてだあ?気持ちいいからに決まってるだろ?具合がいいんだよ、この狸の夢の中はよ!」
この夢魔の話によるとたぬ吉の夢の中はとても居心地の良いものらしい。その理由から夢魔の性格がかなりゲスい事が伺われた。いつきはダメ元でこの夢魔に対して説得を試みる。
「あの~、たぬ吉さんも困っていますし、出て行ってもらえません?」
これで夢魔がすんなり出て行くと言う事はないだろうと思ってはいたものの、案の定彼女の想定通りの結果になった。
「何言ってんだお前?ここに入って来たから同類かと思っていたが、お前、祓師か何かか?」
夢魔はいつきに対してメンチを切りながら文句を言って来た。この言葉にいつきもちょっとだけ気を悪くする。
「私は魔法少女!困っている人はほっとけないの!ま、たぬ吉は人じゃないけど」
「魔法少女?聞いた事ないなぁ。俺を追い出したいなら腕尽くで来な!」
魔法少女と言う言葉を聞いた夢魔はその言葉に心当たりはないようで、逆に彼女を挑発する始末だった。この結果にいつきは自分の話術では説得は無理と判断してヴェルノに助言を求める。
「どうしよう、話が通じないよ!」
この言葉にヴェルノはハァとため息を付いて、呆れながら彼女に事の道理を説いた。
「当たり前だって。相手は夢魔なんだから。シロアリに家をかじらないでってお願いして聞いてくれると思う?そう言う事だよ」
「いやシロアリとは会話出来ないじゃん。意思疎通が出来ればシロアリとも分かり合えるかも……」
ヴェルノの言葉に少し納得いかないものを感じたいつきは彼女なりの理論を展開する。この言葉を聞いたヴェルノは自分の話が通じていないと少し落胆した。それで少し苛つきながら言葉を続ける。
「そう言う事を言いたいんじゃないよ、とにかく!」
「とにかく?」
いつきは彼が何を言いたいのか分からず、つい言葉をオウム返しにしてしまう。ヴェルノはそんないつきに構わず結論を告げる。
「あいつを追い出したいなら実力行使しかないって事!」
「さっきから一体何をごちゃごちゃと……そっちが来ないならこっちから行くぞ!」
2人が夢魔の対処に話し合っていると、その様子に我慢の限界が来たのか先に夢魔の方から手を出して来た。夢魔は背中のトゲトゲから謎のエネルギー体を吐き出す。吐き出されたエネルギー体はある一定の高度で向きを変え、いつき達を狙って突っ込んで来た。
突然の攻撃にギリギリで気付いた2人は何とかそれを紙一重で回避する。
「うわっ!何これ!」
「夢魔お得意の精神攻撃だな。相手の一番嫌なイメージをぶつけてくる!」
いつきの前に飛んできたその攻撃は半透明でネバネバしたものだった。確かにこれは彼女が最も苦手とする形状だ。カエルの卵みたいなものがいつきは生理的に一番無理なのだ。彼女はこの攻撃を見て少し吐きそうになりながら、しかししっかり前向きにヴェルノに質問する。
「私達も同じ攻撃出来るんだよね?」
「さあ?試してみなよ。夢の世界は精神が具現化しやすいから行けるんじゃないか?」
彼の少し投げやりっぽい回答に勇気をもらったいつきは、精神エネルギーを手に集中させようと強く念じる。それは毎年魔法少女アニメを見続けていた彼女が一度は使ってみたいと思っていた技だった。
「こんなちんちくりんの悪魔になんて負けるもんか!てえいっ!」
エネルギーが十分溜まったと思った彼女は夢魔に向かって素早く斬るように手を振り下ろす。その瞬間に生まれたエネルギーはキラキラと虹色の光を放ちながらまっすぐに夢魔に向かっていく。切れ味鋭そうなそのエネルギー波は夢魔をビビらすのに十分な迫力があった。
「うおっ!お前っ!その技は!」
「私が一番好きな魔法少女、マジカル美少女みひろの必殺技、まじかる☆スマッシュよ!一度使ってみたかったの」
いつきは自分の技をドヤ顔でそう説明する。つまりアニメで見た技を魔法で再現したと言う事らしい。これが成功した以上、彼女はこの世界では多彩な技を使えると言う事になる。歴代の魔法少女の必殺技を彼女は全て覚えているのだ。
流石の夢魔もこの攻撃に命の危険を感じたのか必死で避けていた。それで結局彼女の第一撃は残念ながら外れてしまう。外された攻撃はたぬ吉の夢の地面的な場所に当たって小さな爆発を起こした。この様子を見て夢魔の戦闘本能にも火が付いた。
「これは本気を出さないといけないようだなっ!喰らえっ!」
本気を出した夢魔は背中のトゲトゲ全てから思念エネルギーを発射する。多段射出されたエネルギー体は間髪をおかずに次々といつきを狙った。
「うわっ!危なっ!」
「この俺の攻撃を避けただと?」
そう、いつきはこの激しい攻撃をギリギリで避けていた。その様子を見て夢魔も、そして当のいつき自身も驚いていた。
「あれ?私、こんなに素早く?」
「原理の説明は後だよ!早く!追撃が来る!」
自分の素早さに疑問を持ち始めた彼女にヴェルノが警告をする。その言葉を受け、いつきはこの夢の中の仕組みを瞬時に理解した。
「そっか、ここだと私の思い通りに動けるって事ね!分かった!」
夢魔はどれだけ攻撃を繰り出しても一向にいつきを倒せない事に苛々していた。
「くそっくそっくそっ!」
夢魔が焦れば焦る程攻撃の精度は落ち、いつきが避けるもの楽になっていく。少し余裕が出来た彼女は夢魔を挑発した。
「あ、あんたの攻撃なんて当たらないわよっ!」
この様子を客観的に見ていたヴェルノはいつきの回避能力もギリギリだと見抜き、その内夢魔の攻撃が当たってしまうんじゃないかとハラハラしていた。
「ギリギリじゃないか……避けるだけじゃダメだぞ!」
「わ、分かってるよっ!タイミングがちょい合わないだけ!あっ!」
いつきがこの彼の言葉に弁明していたその時、少しの読みの外れで夢魔の攻撃が彼女に直撃する。その様子を見てヴェルノは叫んだ。
「いつきーっ!」
夢魔の攻撃の直撃を受けていつきはネバネバまみれになった。この攻撃による肉体的ダメージはほぼないものの、彼女の精神的ダメージはかなりのものだろうと推測された。この成果を受けて夢魔はドヤ顔で彼女に宣言する。
「やっと当たった!どうだ!痛い目に遭いたくなけりゃ……」
「何が?女の子に傷をつけたこの報いはしっかり受けてもらいますからね!」
一番嫌な精神的攻撃を受けて、いつきは静かに切れていた。その怒りは彼女の体に異変を起こす程のものだった。
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